「思ったことは何でも言ってほしい」。会議でそう伝えたのに、その後も手は挙がらない。
言い方を変えてみる。一人ずつ声をかけてみる。それでも返ってくるのは「特にありません」ばかり。
このとき足りないのは、言葉の選び方ではないかもしれません。心理的安全性には、4つの段があります。異を唱えることは、そのいちばん上にあります。下の段ができていなければ、上の段には届きません。
心理的安全性が育つ4つの段階
この4つの段は、『4段階で実現する心理的安全性』の著者であるティモシー・R・クラークが示した枠組みです。心理的安全性という言葉そのものを定義した、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソンの枠組みとは別のもので、同じ言葉を扱っていても中身が違います。
クラークは心理的安全性を、弱さを受け入れて報いる文化だとしています。その高さは「尊重」と「許可」という2つの要素で決まります。組織が多く与えるほど、安心感は高まります。この4段階は国や文化が違っても共通しているとされ、日本の会社にもそのまま当てはまります。
心理的安全性の4段階
インクルージョン安全性
仲間として受け入れられる
学習者安全性
安全に学べる
貢献者安全性
安全に貢献できる
挑戦者安全性
今のやり方を変える提案ができる
段が上がるごとに、会社が渡すものも、メンバーが渡すものも変わります。
| 段階 | 会社が渡すもの | メンバーが渡すもの |
|---|---|---|
| インクルージョン安全性 | 一員として迎えること | 人を害さないこと |
| 学習者安全性 | 励まし | 学ぼうとする姿勢 |
| 貢献者安全性 | 裁量 | 成果 |
| 挑戦者安全性 | 盾になること | 率直さ |
第1段階 インクルージョン安全性
ありのままの自分でいても、仲間として受け入れられていると感じられる状態です。自分らしくいるために無理をしたり、何かを我慢したりせずに済む、とも表されています。
第2段階 学習者安全性
質問する、意見をもらう、意見を返す、試す、間違える。学ぶ過程で起きるこうしたことが、安全にできる状態です。
第3段階 貢献者安全性
自分の持っている力を使って、意味のある仕事を任されている状態です。自分で決められる範囲(裁量)と、必要な指導や支援の両方があることが条件になります。
第4段階 挑戦者安全性
今のやり方に対して、誠実に異を唱えられる状態です。クラークはこれを、考えのぶつかり合いは大きく、人間関係のぶつかり合いは小さい状態だと表しています。異を唱えても報復されない、という条件が付きます。
「何でも言ってほしい」が届かない理由
クラークは、人はまず仲間に入りたい、次に学びたい、三つめに貢献したい、そして最後に、変化が必要だと思えるときに挑戦したい、と願うと書いています。この順序はすべての組織や社会の集まりに共通するとしています。
「何でも言ってほしい」という呼びかけは、いきなり頂上を求めているようなものです。下の段がなければ、相手も応えようがありません。
仲間として受け入れられている実感がない人にとって、異を唱えるのは大きな怖さを伴います。居場所を失うかもしれないからです。質問することさえためらう職場で、反対意見など言えません。
何度呼びかけても声が上がらないと、原因を相手の性格や伝え方に探したくなるものです。ただ、原因は呼びかけの言葉ではなく、求めていることより下の段がまだできていない点にあるのかもしれません。
呼びかけを強める前に、下の段から順に確かめてみると、どこに働きかければよいかの見当がつきます。
50人未満の会社では、どの段で止まりやすいか
従業員が50人に満たない会社にも、管理職を置いている会社と、経営者が全員を直接見ている会社があります。後者では、尊重と許可を与える立場が経営者ひとりに集まるため、経営者が自分の関わり方を点検しないと、どの段も積まれないまま残ります。管理職を置いている会社では、同じことが管理職と部下のあいだでも起こります。
第1段階のインクルージョン安全性は、人数が少ないと満たされているように見えます。全員が顔見知りで、日常的に言葉も交わしている。ただ、仲がよいことと、ありのままの自分で受け入れられていることは別です。創業からいるメンバーとあとから入った人、正社員とそれ以外の雇用形態の人とで、任される仕事も、雑談に加わる機会も違っていることがあります。
第2段階の学習者安全性は、一人が担う範囲の広さが影響します。少人数の会社では、教える人がいないまま仕事を任されることが起こります。これくらいは言わなくても分かるはず、という前提ができると、質問した人は能力が足りないと思われることを心配します。ここで止まると、分からないまま進めた仕事が、あとになって問題として表に出てきます。
第3段階の貢献者安全性でつまずくのは、自分で決められる範囲がはっきりしない場合です。最終判断が経営者ひとりに集中している会社では、「やってみて」と言われても、どこまで自分で決めてよいかが分かりません。判断のたびに確認を取ることになり、任されたとは思えないままになります。
第4段階の挑戦者安全性は、経営者に異を唱えることが、そのまま会社の方針に異を唱えることと重なる点が難しさになります。言う側から見れば、相手は自分の仕事上の扱いを決める人そのものです。異を唱えた人への評価と、意見の内容そのものとを切り離して受け止める。その具体的な振る舞い方はリーダーが心理的安全性を作る3つの瞬間で扱っています。
自社がどの段にいるかを見分ける
自社の状態を確かめるときは、第1段階から順に上へと見ていきます。いちばん上が満たされていなくても、原因はその下にあるかもしれません。
クラークは、4つの段階に対応する4つの問いを挙げています。この問いに答えるのはメンバーではなく、尊重と許可を渡す側、つまりご自身です。
| 段階 | ご自身に向ける問い | 職場で見えること |
|---|---|---|
| 第1段階 | 価値観の違う相手を、同じ人間だという理由だけで受け入れているか | 雑談する相手が、入社時期や雇用形態で偏っていないか |
| 第2段階 | 学び成長することを励まし、自信をなくしたときやミスをしたときに支えているか | 「分かりません」「教えてください」が実際に出てくるか |
| 第3段階 | 自分なりのやり方で成果を出そうとする人に、決められる範囲を最大限認めているか | 確認を取らずに進めて終わった仕事があるか |
| 第4段階 | 今のやり方をより良くする挑戦を促すと同時に、自分も間違うことを受け入れているか | 「それは違うと思います」を最後に聞いたのはいつか |
答えに詰まった段、右の様子が思い当たらない段が、見直す候補です。上の段で気になることがあっても、下の段が満たされているとは限らないので、第1段階から順に見ます。
右の様子が見えないことを、問題がない証拠として読まないようにします。何も出てこないこと自体が、言っても仕方がないという諦めの表れであることもあります。
見直す段が決まったら、その段の問いが、そのまま次にやることを指しています。第1段階なら、受け入れる相手を選んでいないかを見直す。第2段階なら、質問が出たときに最初に返す言葉を変える。第3段階なら、どこまで自分で決めてよいかを言葉にして渡す。第4段階なら、異論が出たときに最初に何を言うかを決めておく。働きかけそのものの形は心理的安全性を高める3つの実践にまとめてあります。
一段ずつしか積めないということは、裏を返せば、次に見る場所が決まっているということでもあります。
※ 出典: LeaderFactor「The 4 Stages of Psychological Safety」、2026年9月12日閲覧。日経BOOKプラス「はじめに:『4段階で実現する心理的安全性』」、2026年9月12日閲覧。版元ドットコム『4段階で実現する心理的安全性』(ティモシー・R・クラーク著、長谷川圭訳、日経BP)書誌情報、2026年9月12日閲覧。Amy C. Edmondson「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」(Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383)、1999年、2026年8月12日閲覧。Harvard Business School「Amy C. Edmondson」教員プロフィール、2026年9月12日閲覧。4つの段階の名称・順序・段ごとに交わされるもの、および「尊重」と「許可」の記述は、LeaderFactorの資料と邦訳書の「はじめに」「イントロダクション」の抜粋による。4つの問いは同書「はじめに」の抜粋による。50人未満の会社で段ごとに起きること、および見分ける表の「職場で見えること」は、これらの枠組みから導いた本記事の見方であり、出典が述べているものではありません。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。