クライシス対応

危機対応チームの編成と指揮系統

従業員の自殺や事故、災害が起きたとき、実際に動くのは社内の誰かです。誰が対応を主導し、誰が補佐し、その人が動けなくなったら誰が代わるか。ふだんから決めておきたい3つの役割をまとめます。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • 危機が起きたとき、実際に動くのは社内の誰かです。誰が動くかをふだんから決めておけば、対応を始めるまでの判断を減らせます
  • 外部の専門家にすぐ頼めるとは限らないため、社内に対応を主導する人と、それを補佐する人を決めておきます
  • 常時50人未満の事業場には衛生委員会という法定の会議体がなく、自分たちで話し合って決めておく必要があります
  • 対応を主導する予定の人自身が、その危機の当事者になり動けなくなることもあります。代わりの人をふだんから決めておきます

従業員が事故や自殺で亡くなったという連絡が入ったとき、最も重い衝撃を受けるのは遺されたご家族です。従業員が大きな災害に見舞われたときは、本人とそのご家族が同じように重い衝撃を受けます。

会社は、事故や自殺、災害が起きたその直後から、正確な情報を伝え、話を聴く準備をしなければなりません。従業員に大きな衝撃を与える出来事が起きたとき、企業がすべきことで扱った初動の決まりも、担当する人が決まっていなければ実行できません。

誰が対応するかをふだんから決めておくと、その分、対応を始めるまでの判断が減ります。これは、事故・自殺・災害のどれが起きたときでも変わりません。ここで扱うのは、対応の中身ではなく、誰が対応するかという体制です。自殺の場合に固有の、遺族への対応や社内での伝え方は社員が自殺したとき、企業が行うべきことにまとめています。

誰が対応を主導するか、事前に決めておく

厚生労働省・中央労働災害防止協会が職場での自殺後の対応(ポストベンション)として示す手引きは、対応を主導する人について次のように述べています。「できれば、利害関係がなく、ポストベンションについて経験豊富な精神保健の専門家が実施したほうがよいでしょう。とはいえ、可能な限り早い段階でケアを実施するのに、いつでも外部から専門家の協力が得られるとは限りません。」

外部の専門家がすぐに来られないときは、社内の誰かが対応を始めることになります。手引きはこの場合について、「そのような場合には、職場で責任ある立場の人やメンタルヘルスの担当者が、以下に挙げるような手順を踏む必要が出てきます。」と続けます。事故や自殺、災害が起きてから「責任ある立場の人」を誰にするか決めようとすると、対応を始めるまでに時間がかかります。だから、担当者の名前まで、ふだんのうちに決めておきます。

主導する人と、補佐する人 — 社内の最小構成

同じ手引きは、補佐する人を置く方法も示しています。「なお、ケアを中心的に進めていく人以外に、もう一人別に補佐役を置いて、グループの反応を見届けるのもよい方法です。」世界保健機関(WHO)の心理的応急処置(PFA)の手引きも、特に大規模災害の直後には、チームや二人一組で活動することが役立つとし、可能であれば二人一組の体制(バディシステム)をつくるとしています。

一人が目の前の対応に集中し、もう一人が周囲の異変に気づいたり、次に必要な手配を進めたりします。

常時50人未満の事業場には、衛生委員会という法定の会議体はありません。話し合いの場を待たずに、経営者が中心になって、人事担当・現場の管理職の中から、主導する人と補佐する人をあらかじめ決めておきます。社内でこの2役を揃えにくい一人社長や少人数の会社では、産業医やカウンセラーなど社外の専門家に補佐の役目を頼ることも選択肢になります。

社内の2役とは別に、どの産業医やカウンセラーへ連絡するかという社外の窓口も、あわせて平時に決めておきます。

代わりの人を決めておく — 主導する人自身が動けなくなることもある

労働安全衛生規則は、総括安全衛生管理者や衛生管理者といった条文で指定された役職について、代わりの人をあらかじめ決めておくことを義務づけています。「事業者は、総括安全衛生管理者が旅行、疾病、事故その他やむを得ない事由によつて職務を行なうことができないときは、代理者を選任しなければならない。」という規定は、衛生管理者や統括安全衛生責任者にも同じ形で当てはめられます。

常時50人未満の事業場には、これらの役職を選任する義務そのものがなく、この代理者選任の義務も直接には及びません。ただし、担当する人が一人しかいない役割ほど代わりを決めておく必要がある、という考え方自体は、規模を問わず当てはまると考えられます。

法令が挙げる「旅行、疾病、事故その他やむを得ない事由」には、危機対応の場面で、対応の主導予定者自身がその危機の当事者になってしまう場合も当てはまると考えられます。前掲の手引きは、対応を主導する人について「利害関係がなく」という条件が望ましいとしています。

この条件に照らすと、故人と親しかった人や、現場に居合わせた人は、強い影響を受けていて、主導する役目を担いにくい場合があると考えられます。社長が第一発見者だった、人事担当者が亡くなった本人の同期だった、という状況は起こり得ます。

対応を主導する人を一人だけ決めて終わりにせず、「主導する人が動けない」と補佐する人が判断したときに、補佐する人から代わりの人へ引き継ぐところまで、平時に決めておきます。代わりの人を決めておくことは、主導する人が担いきれない場面で、役割を交代できるようにすることでもあります。

まとめ

危機が起きてから「誰が対応するか」を決めようとすると、担当者を決めるための時間が余分にかかります。主導する人、補佐する人、そして主導する人が動けないときの代わりの人。この3役の名前を、平時に決めておきます。主導する人と代わりの人だけは同じ人にせず、それ以外の組み合わせや、社外の専門家にどこまで頼るかは、会社の規模によって答えが変わります。まずは3役の名前を仮に決めてみることが、体制づくりの出発点になります。

※ 出典: 厚生労働省・中央労働災害防止協会「職場における自殺の予防と対応」(労働者の自殺予防マニュアル作成検討委員会編、改訂第1版)、2007年10月、2026年8月27日閲覧。「心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド」(原著: World Health Organization, War Trauma Foundation, World Vision International, 2011年。日本語版: 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター「ストレス・災害時こころの情報支援センター」、ケア・宮城、公益財団法人プラン・ジャパン訳)、2011年、2026年8月27日閲覧。労働安全衛生規則第3条・第7条第2項・第20条、労働安全衛生法第18条・同法施行令第9条(いずれもe-Gov法令検索)、2026年8月27日閲覧。遺された人への対応は「職場における自殺の予防と対応」第6章による。安衛法第18条・施行令第9条は衛生委員会の設置義務を定める。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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