クライシス対応

従業員本人・家族が被災地にいるとき、企業が行うべきこと

自社の事業所ではなく、外部で起きた広域災害で従業員本人が被災した、または家族が被災地にいて安否を心配しているとき、企業はどう向き合えばよいか。安否確認中の業務上の配慮、声かけで避けたい言葉、本人の意思を尊重した関わり方、支援活動に伴う心理的な負荷までをまとめます。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • 家族や出身地が被災地にある、あるいは本人がたまたま被災地に居合わせた従業員には、安否確認ができない間の業務上の配慮が要る
  • 励ますつもりの「頑張って」「もっと大変な人もいる」は、本人の苦痛を軽く見ているように聞こえるため避ける
  • 「大丈夫」と言う人も、被災した本人と同じように支援を求めにくい傾向があると考えられるため、押し付けず、しかし見過ごさないよう気にかける
  • 直接被災していない従業員にも、報道を繰り返し見ることによる心理的な負荷や、支援活動に伴う二次的な負荷が起こりうる

電話をかけても呼び出し音が鳴るだけで、誰も出ない。テレビには見覚えのある街の映像が繰り返し流れている。家族が被災地にいる、あるいは出身地が被災地にある従業員にとって、安否が分かるまでの時間は、仕事どころではないほど、不安でいっぱいになります。本人がたまたまその場に居合わせていた場合も同じです。

自社の事業所が被災したわけではなくても、従業員に大きな心理的衝撃を与える出来事である点は変わりません。

動揺した従業員への向き合い方や、直後・数週間・数か月で変わっていく対応の基本の考え方は、従業員に大きな衝撃を与える出来事が起きたとき、企業がすべきことで扱っています。外部で起きた広域の災害で従業員本人や家族が被災、または安否を心配している状況には、この基本の考え方だけでは足りない場面がいくつかあります。

安否確認ができない間の、業務上の配慮

家族の安否がまだ分からない、あるいは自宅がどんな状態か、まだつかめていない従業員には、上司や人事がまず状況を聞き取り、必要に応じて業務上の配慮をします。公務員の災害対応を定めた地方公務員災害補償基金の指針も、対象は異なりますが同じ考え方を示しており、家族の安否や自宅の被害を聞き取ったうえで業務上の配慮をすることが、従業員が安心して働ける環境の基本になるとしています。

具体的な配慮は、連絡や移動のための時間を取れるようにする、当面は在宅勤務やフレックスタイムを使えるようにするなど、その従業員の状況に応じて変わります。会社に既にある休暇や働き方の選択肢は、こうした場面でも使えます。そのことを本人に伝えておくだけで、安心材料になります。

安否が確認でき、けがなどがない場合でも、すぐに元の業務量に戻す必要はありません。独立行政法人労働者健康安全機構の「職場における災害時のこころのケアマニュアル」は、家族とゆったりした時間を持ち、以前に近い心身の状態に戻るために1〜4週間の休暇を与えるとよいとしています。

声かけで避けたい言葉

励ますつもりの一言が、かえって相手を追い詰めることがあります。心理的な支援の初期対応の考え方である心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)にもとづき、兵庫県こころのケアセンターの手引きと、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)掲載のWHO版フィールド・ガイドは、次のような言葉を避けるべきだとしています。

避けたい言葉 何が問題か
「頑張ってこれを乗り越えないといけませんよ」「あなたには、これに対処する力があります」 乗り越えられて当然だと決めつける
「もっと大変な人もいる」という、他の被災者との比較 今その人が感じている苦痛を軽く見ているように聞こえる
「そんなふうに思ってはいけませんよ」「助かって良かったじゃないですか」 相手がどう感じるべきかを決めつける

本人がそう自分に言い聞かせるのは構いませんが、周囲から先に言う言葉ではありません。他の被災者から聞いた体験談を持ち出すことも避けます。

かける言葉に迷ったときは、無理に励まそうとせず、話したいときに話せるようにしておくことのほうが、長い目で見て支えになります。

「自分は大丈夫」と言う人への関わり方

家族が被災地にいても、本人が「大丈夫です」と言い切って、普段どおりに仕事を続けようとすることがあります。兵庫県こころのケアセンターの手引きも、被災した本人は支援を自分から求めにくいと指摘しています。家族の安否を心配している立場の人にも、同じことが言えると考えられます。周囲が様子見に回るより、上司がまず先にさりげなく気にかけるほうが、本人にとっては動きやすくなります。

ただし、気にかけることと踏み込みすぎることは別です。独立行政法人労働者健康安全機構のマニュアルは、声をかけることは大切だとしながらも、決して過度にならないよう呼びかけています。様々な人から次々に声をかけられることが、かえって負担になる人もいるためです。

本人がどうしたいかを尊重する姿勢も欠かせません。同じ世界保健機関のフィールド・ガイドは、支援を今は断られても後で受けられることを伝えたうえで、支援を押しつけたり、無理に話をさせたりしてはならないとしています。

受け止め方には個人差があります。同じ状況にある人がみな同じように動揺するとは限らず、誰もが話したがっているわけでもありません。そう決めつけないことも、大切な原則の一つです。「大丈夫」という言葉をそのまま受け取っていい人もいれば、本音を隠している人もいます。普段の様子と違う点がないか、上司が時々確認しておきます。

直接被災していなくても生じる心理的な負荷

家族や出身地が被災地にあると、本人は現地にいなくても心理的な負荷を受けます。日本トラウマティック・ストレス学会は、惨事報道を見る量が多いほど、その後の心の反応も大きくなる傾向があることを指摘し、同じ報道を繰り返し見続けないよう呼びかけています。心配のあまりニュースやSNSを追い続けてしまう従業員には、上司からニュースを見る時間を区切るよう勧めるのも、ひとつの助けになります。

独立行政法人労働者健康安全機構のマニュアルも、直接被災しなかった従業員でも、テレビや新聞で見聞きするニュースがストレスになると述べています。何もできない自分への無力感や、離れた場所にいるからこそ抱くもどかしさは、家族や出身地が被災地にある本人だけでなく、同じ職場で働く同僚にも起こりうる自然な反応です。

支援活動に関わる従業員への配慮

被災地へのボランティア参加や、義援金活動の呼びかけ役を買って出る従業員もいます。人の役に立ちたいという気持ちは尊重したいところです。ただし、支援する側にも心理的な負荷がかかることを、会社側は知っておく必要があります。

内閣府の「被災者のこころのケア 都道府県対応ガイドライン」は、支援する人自身も、二次的に傷つくことがあるとし、支援者自身のケアにも十分な配慮を求めています。同じ兵庫県こころのケアセンターの手引きも、こうした支援者に起こりうる反応として、無力感や混乱、やる気を失うといった状態を挙げています。

支援活動から戻ってきた従業員には、話したくなければ無理に聞き出さず、日頃からこまめに声を掛け合っておくことが助けになります。活動の内容をねぎらい、普段の仕事のペースに戻るための時間を取れるようにしておくことも、会社にできる配慮です。

相談窓口の探し方

社内の人手や知識だけで対応しきれないと感じたら、外部の窓口につなぎます。産業保健総合支援センターや、契約している外部の相談窓口・EAPは、こうした場面でも利用できます。どの窓口を、どんなときに使うかを前もって決めておく考え方は、中小企業の相談窓口・EAPの選び方チェックリストにまとめています。

まとめ

安否が分かるまでの配慮から支援活動への目配りまで、押し付けず、しかし見過ごさない距離感を保つことが、こうした場面で企業にできる心のケアの基本になります。

※ 出典: 独立行政法人労働者健康安全機構「職場における災害時のこころのケアマニュアル」。地方公務員災害補償基金「地方公務員の災害時におけるメンタルヘルス対策マニュアル」。兵庫県こころのケアセンター「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き 第2版」(アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク、アメリカ国立PTSDセンター著、兵庫県こころのケアセンター訳)。ストレス・災害時こころの情報支援センター(国立精神・神経医療研究センター)掲載「心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド」(世界保健機関・戦争トラウマ財団・ワールド・ビジョン・インターナショナル著、日本語版: 国立精神・神経医療研究センター・ケア・宮城・プラン・ジャパン訳)。日本トラウマティック・ストレス学会「惨事報道の視聴とメンタルヘルス」。内閣府(防災担当)「被災者のこころのケア 都道府県対応ガイドライン」。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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