取引先から「御社の担当者の言動について、事実関係の確認に協力してほしい」と連絡が入りました。担当者からは、まだ何も聞いていません。突然の要請に、どう動くべきでしょうか。
カスタマーハラスメントというと、自社の従業員が受ける側に立つ場面を思い浮かべがちです。しかし、企業どうしの取引では、自社の従業員が行う側になることもあります。
応じるよう努めることが、法律に定められている
突然の連絡に戸惑うのは自然なことです。まず押さえておきたいのは、労働施策総合推進法第33条第3項が、この協力について事業主の努力義務を定めていることです。カスタマーハラスメントへの対応を進めている会社から必要な協力を求められたとき、求められた側は応じるよう努めなければならない、という定めです。
厚生労働省の指針(「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)は、協力を求められる代表的な場面として事実関係の確認等を挙げています。
協力の範囲と、措置を決める主体は別
求められる協力には、事実関係の確認と、再発防止に向けた取り組みへの協力が含まれます。この2つに限るという定めはないため、相手からの求めがこれ以外に及ぶこともあります。
一方、確認できた事実をもとに行為者へ懲戒などを行うかどうかは、その従業員を雇っている会社自身が決めます。相手先ではありません。指針は、カスタマーハラスメントが生じた事実を確認できた場合には、就業規則などの定めに基づいて、行為者に必要な懲戒などを行うことが望ましいとしています。
協力の範囲がどこまでかという話と、措置を誰が決めるかという話は、別のものです。相手の求めに応じることと、自社の従業員への措置の決定権まで相手に委ねてしまうことは、同じではありません。
なお、いつまでに何をどの形で返すか(書面か口頭か、誰の名前で答えるか)については、指針にも条文にも定めがありません。各社で判断します。
社内で話を聞くとき、話した人を守る
社内で事実を確かめる前に、協力した従業員が不利益を被らない備えをしておきます。指針は、協力の求めに応じて労働者へ事実関係の確認等を行うときは、協力した労働者に解雇その他不利益な取扱いを行わない旨を定め、労働者に周知・啓発することが望ましいとしています。
具体的には、規定を整備し、それを従業員に周知しておくことです。
守られるのは、事実を話したという行為そのものです。話した内容から確認された本人の不当な行為まで、不問になるわけではありません。行為者とされた本人にも、周囲で見ていた人にも、この区別を同じように伝えます。
まとめ
取引先から確認の協力を求められたとき、応じるよう努めることは法律に定められています。求められる協力には、事実関係の確認と再発防止への協力が含まれ、これ以外に及ぶこともあります。
そのうえで、確認できた事実をもとに行為者へどう対応するかは、雇用主である自社が規定に沿って決めます。協力に応じることと、措置の権限を相手に委ねることは別のことです。
※ 出典: 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)、2026年8月20日閲覧。労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第33条(令和7年法律第63号による改正後。2026年10月1日施行。e-Gov法令検索)、2026年9月9日閲覧。厚生労働省委託事業「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(PwCコンサルティング合同会社)、2024年3月、2026年9月9日閲覧。他の事業主への協力の求めに関する記述は、告示第51号の4⑶ハ・5による。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。