部下から「あの言い方はハラスメントではないか」と相談を受ける。あるいは、同僚同士のやり取りに違和感があるという話が管理職の耳に入る。そんなとき、被害を受けた本人・見聞きした同僚(第三者)・管理職(上司)では、最初にできることが違います。会社があらかじめ整理して周知しておくと、それぞれが何をすればよいか判断しやすくなります。
| 立場 | まずできること | 避けたいこと |
|---|---|---|
| 被害を受けた本人 | いつ・どこで・何があったかを記録する。信頼できる人や相談窓口に伝える | 一人で抱え込み、我慢を続ける |
| 見聞きした同僚 | 本人の意向を確かめてから動く。話を最後まで聴く | 本人の意向を確かめずに広める、決めつけて動く |
| 管理職 | 結論を急がず話を聴く。記録し、相談窓口につなぐ | その場で白黒つけようとする、当事者同士を対決させる |
暴力や脅迫がなく、身の危険が迫っていない場合の初期対応です。暴言や侮辱がその場で続いている場合は、話を聴く・記録する前に、管理職など対応する立場の人が、無理のない範囲で当事者をその場から離し、落ち着いてから別々に話を聴いてください。居合わせた同僚は無理に介入する必要はありません。
暴力や脅迫など身の危険が迫っている場合は、被害を受けている人と居合わせた人の安全確保を優先し、無理に制止せず、必要に応じて警察へ通報してください。会社が負う安全配慮義務の全体像は安全配慮義務とはにまとめています。
被害を受けた本人に、会社としてどう伝えておくか
「これはハラスメントと言えるのか」と迷っている相談者がいたら、判断がつく前でも相談できると伝えてください。ハラスメントかどうか判断できない段階でも本人ができることを、会社はあらかじめ伝えておく必要があります。
まず会社が伝えるべきなのは、いつ・どこで・誰から・どんな言動があったかを、相手に見られず、会社の情報管理ルールにも反しない方法で残しておくことです。相談するときに日時や経緯があいまいだと確認に時間がかかること、記録が後で役立つことも伝えておいてください。
次に会社が伝えるべきなのは、一人で抱え込まず、信頼できる同僚や上司、あるいは相談窓口に伝えることです。パワーハラスメントの3要件、相談窓口の仕組み、相談内容のプライバシーがどう守られるかはハラスメント相談窓口の設置義務にまとめています。
相手に直接「やめてほしい」と伝えるかどうかは、無理に勧めるべきことではありません。相手との関係やその場の事情によっては、直接伝えることで状況がさらに悪くなることもあります。伝えるかどうかは、本人に決めてもらってください。
見聞きした同僚(第三者)として、何ができるか
「自分が口を出すことではない」「関わって次のターゲットになりたくない」とためらう同僚がいても、その迷いは責められるものではないと、会社から日頃伝えておいてください。
労働施策総合推進法は、労働者にも一定の役割を求めています。同法第三十条の三第4項は「労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない」と定めています。ここでいう「優越的言動問題」とはパワーハラスメントから起きる問題という意味で、「前条第一項の措置」とは事業主が行う、相談体制の整備などの雇用管理上必要な措置を指します。
この規定は努力義務です。他の労働者への言動に自分自身が注意すること、会社が講じる相談体制の整備などの措置に協力すること、この二つを求めているのであって、目撃したら必ず通報しなければならないという意味ではありません。それでも、気づいたことは相談窓口や上司に伝えるよう、会社から伝えておいてください。
本人から打ち明けられた場合は、本人の意向を確かめてから動くよう、会社から伝えておいてください。「あまり大ごとにはしたくない」という言葉が出ることもあります。人事担当者がその言葉をどう受け止め、その後どう動いたかは、ハラスメントの訴えを受けた人事担当者の相談で具体例を紹介しています。
勝手に周囲へ広めたり、聞いた話だけで加害者と決めつけたりせず、まず最後まで話を聴くよう、会社から伝えておいてください。
管理職(上司)が気づいた・報告を受けたときの初期対応
暴言や侮辱が続いている場面では、まずその場から離れてもらい、落ち着いてから別々に話を聴いてください。それ以外の場面で管理職に最初に必要なのは、結論を出すことではなく、話を聴くことです。
意見の違いや感情的なわだかまりがある「対立」の中に、優越的な関係を背景にした「ハラスメント」にあたる言動が含まれているかを、初期対応の段階で急いで見極めようとしなくて構いません。対立への対応の進め方は職場の対立への対応にまとめています。判断に迷う段階でも、話を聴き、いつ・何があったかを記録しておくことが、後の相談窓口や人事への引き継ぎを助けます。
当事者同士を対決させたり、管理職一人で「これくらいなら問題ない」と判断を下したりしないでください。管理職の役割は、聴き取った事実を記録し、相談窓口や人事につなぐことです。専任の人事担当者がいない会社では、経営者自身が窓口を兼ねる場合もあります。
詳しい事実確認や、その後どう対応するかは、聴き取った管理職一人で決めず、相談窓口や人事と検討してください。経営者自身が管理職を兼ね、社内に相談できる相手がいない場合は、ハラスメント相談窓口の設置義務にまとめた外部の相談窓口も選択肢になります。
パワーハラスメントの相談も、事実確認への協力も、不利益な取扱いが禁止されている
パワーハラスメントについて会社に相談した人や、その相談の事実確認に協力して話した人を、相談や協力を理由に会社が解雇など不利益に扱うことは、法律で禁止されています。
同項は「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定めています。相談した本人だけでなく、会社によるその相談への対応に協力して事実を述べた労働者も、この保護の対象です。この範囲を、会社からあらかじめ伝えておいてください。
※ 出典: 労働施策総合推進法第三十条の二・第三十条の三(厚生労働省法令検索システム掲載の法令本文による)。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。