部下二人の折り合いが悪くなり、必要最低限の会話しかしなくなった。業務の押し付け合いが始まり、チーム全体の空気が重くなっている——そうした場面に、経営者や管理職が立ち会うことは珍しくありません。
対立対応の5ステップ
1. 個別に聴く
両方から、順番に話を聴く
2. 整理する
事実と気持ちを分けて整理する
3. 見極める
対立の種類を見極める
4. 場を整える
本人同士が話す場を設ける
5. フォローする
その後の変化を気にかけ続ける
ハラスメントの疑いがあるとき
相談窓口の対応フローへ
なぜ、すぐに「どちらが正しいか」を決めないほうがいいのか
対立が起きると、周囲は早く収めたくて、つい「どちらの言い分が正しいか」を決めようとします。しかし管理職が裁定者として一方に軍配を上げると、もう一方は「この人にはもう相談できない」と感じ、その後の関係修復がかえって難しくなります。
管理職の役割は、白黒をつけることではなく、当事者同士が話せる場を整えることです。部下の話を聴けるマネージャーになるにはで扱った、評価せずに聴く姿勢は、対立の場面でこそ生きてきます。
1. 個別に聴く — 両方から、順番に
まず両方の言い分を、別々に聴きます。同席させて聴くと、相手を前にした発言になり、本音が出にくくなります。
- 一方が話している間、もう一方の肩を持つような相づちは避ける
- 「相手が悪い」という結論を急がず、何が起きたと感じているかをそのまま聴く
- 「なぜそんなことをしたんだ」ではなく、「そのとき、どう感じた?」と聴く
聴く順番はどちらからでも構いません。ただし、片方だけ聴いて終わりにしないことが重要です。
2. 事実と気持ちを分けて整理する
聴いた内容を、実際に起きたこと(事実)と、それをどう受け止めたか(気持ち・解釈)に分けて整理します。
たとえば「会議で自分の意見を無視された」という訴えは、「発言のあと、他の人の意見で話が進んだ」という事実と、「無視された」という受け止め方に分けられます。事実は一つでも、受け止め方は人によって違います。この違いこそが、対立の芯であることが少なくありません。
ここで管理職が「事実はこうだから、その受け止め方は間違っている」と決めつけると、対話はそこで止まります。事実の確認と、気持ちの受け止めは、別の作業として扱ってください。
3. 対立の種類を見極める
整理した内容から、対立がどの種類にあたるかを見極めます。
- 業務の進め方や役割分担など、意見の違いが中心にあるもの
- 感情的なわだかまりが積み重なっているもの
- 一方が他方に対して、繰り返し威圧的な言動を行っているもの
前の二つは、次の「話し合いの場を整える」ステップで扱えます。三つ目にあたる場合は、対立というよりハラスメントとしての対応が必要になります(「ハラスメントに発展していないか」の項を参照)。
4. 話し合いの場を整える
意見の違いや感情的なわだかまりが中心の場合は、当事者同士が話す場を設けます。管理職の役割は、話し合いの結論を出すことではなく、話しやすい場を整えることです。
- 双方に、話し合いの目的(誰が正しいかを決める場ではないこと)を事前に伝える
- 一方が一方的に話す時間が続かないよう、発言の機会を均等にする
- 「〜すべきだ」ではなく「〜してほしい」という言い方を促す
- 結論を急がせず、双方が納得できる着地点を一緒に探す
その場で解決策が出なくても構いません。お互いの言い分を聞けたということ自体が、次に進むための土台になります。
一方が話し合いそのものに応じない場合は、無理に同席させないでください。感情がまだ落ち着いていない状態で対面させると、対立が深まることがあります。時間を置いて個別のフォローを続け、必要であれば外部の相談窓口につなぐことも選択肢に入れてください。
5. フォローする
場を設けて終わりにせず、その後の様子を気にかけ続けます。表面上は収まったように見えても、しばらくして同じ対立が再燃することもあります。数週間後に改めて双方の様子を確認すると、初期の兆候に早く気づけます。
やってしまいがちな失敗
- 片方の話だけで判断する
- その場の空気で「どちらが悪いか」を決めつける
- 全員の前で対決させる
- 「大人なんだから、自分たちで解決して」と見て見ぬふりをする
いずれも対立を鎮めるどころか、こじらせる方向に働きます。
ハラスメントに発展していないか — 見極めのポイント
対立の一方が、繰り返し相手を威圧する、あるいは人格を否定するような言動を行っている場合は、単なる意見の対立ではなく、ハラスメントとして扱う必要があります。
パワーハラスメントは、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものと定義されています。ここでいう「優越的な関係」は、上司から部下への言動だけを指すのではありません。業務上の知識や経験を背景に同僚や部下が優位に立つ場合や、複数人からの集団的な圧力も含まれます。管理職からは見えにくい、部下から上司への圧力や、同僚間の集団的な無視も、この定義に当てはまることがあります。
見極めが難しい場合や、すでに一方が強い苦痛を訴えている場合は、ハラスメント相談窓口の対応フローに進んでください。
対立を放置しないことが、なぜ大切か
対立をそのままにしておくと、当事者だけの問題では済まなくなり、やがてハラスメントに発展することがあります。厚生労働省の指針は、ハラスメントに起因する問題として、労働者の意欲低下や職場全体の生産性の低下、健康状態の悪化、休職や退職につながりうることを挙げています。また、ハラスメントが起きる背景には、労働者同士のコミュニケーションが薄くなっている職場環境の問題もあると指摘しています。
ラインケアの一環として、日頃から従業員の変化に気づき、対立の芽が小さいうちに向き合うことが、結果として職場全体を守ることにつながります。
※ 出典: 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)。パワーハラスメントの定義・優越的な関係の範囲・対立放置のリスクに関する記述は同指針による。根拠法は労働施策総合推進法第30条の2。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。