クライシス対応

不祥事・大規模な組織変更のあと、企業が行う従業員への心のケア

不祥事の発覚や大規模なリストラ・M&Aのあと、従業員の気持ちや行動には、死亡事故や災害とは違う変化が起こることがあります。経営層への不信、会社に残った人が抱く罪悪感や不安、区切りのない喪失感を手がかりに、企業がまず知っておきたいことをまとめます。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

更新 読了目安 6分

この記事の要点

  • 不祥事や大規模な組織変更のあとに生じる従業員の反応は、死亡事故や災害と違い、誰にどのような影響が出たか、いつ終わるかが見えにくい場合がある
  • 不祥事では、経営層への不信や冷ややかな見方が、不正を働いた本人だけでなく組織全体への疑いに広がりやすい
  • 大規模な人員削減や組織再編では、会社に残った従業員に、去った同僚への罪悪感や、次は自分かもしれないという不安が生じることがある
  • 企業は、早くから情報を繰り返し伝え、公正な基準で人員や配置を決め、会社に残る従業員にも目を配ることが基本になる

「うちの会社が不正会計で報道された」「M&Aでこの部署がなくなるらしい」——そんな知らせが社内に広がったとき、いつも通り仕事をしていても、どこか落ち着かない。そんな空気を感じたことはないでしょうか。命に関わる事故や、建物が壊れるような被害がなくても、動揺は起こります。会社を信じていいのか分からなくなることも、動揺の理由の一つです。

動揺した従業員への向き合い方や、企業が従業員に対して行う対応が直後・数週間・数か月でどう変わっていくかの基本の考え方は、従業員に大きな衝撃を与える出来事が起きたとき、企業がすべきことで扱っています。不祥事や大規模な組織変更では、この共通する基本の考え方だけでは捉えきれない反応も起こります。

見えにくい被害と、終わりの見えなさ

不祥事や組織変更では、誰にどのような影響が出たのかが見えにくい場合があります。特定の被害者がいるわけではなく、社内のあちこちで、それぞれ違う形の落ち着かない気持ちが生まれることがあります。

終わりが見えにくいことも、こうした出来事の特徴です。不祥事の調査や組織の再編には時間がかかることがあります。「いつ終わるのか分からない」という声が、従業員から出ることもあります。

情報が足りないまま時間だけが過ぎると、確かめられていないうわさが広がり、動揺が長引くことがあります。会社が、伝えられる範囲で分かっていることを遅れずに伝えることが、不祥事や組織変更では特に大切です。

不祥事のあとに見られやすい反応 — 経営層への不信と冷ややかな見方

組織心理学の研究者が、米国の行政機関で不正が発覚したあとに従業員76名を対象に行った調査では、感情的な反応として、シニシズム(冷笑的な態度)のほか、楽観や悲観、強い疑い、恐れなど、様々な感情が挙げられています。従業員は、経営層の倫理観が乏しかった理由として、道徳的な判断力の弱さ、信頼を裏切る行動、言っていることと実際の行動の違いを挙げていました。

この調査が示すのは、従業員の疑いが「不正を働いた本人」だけに向かうとは限らない、ということです。経営層全体、これまで当たり前だと思っていた社内のやり方、さらには再発防止のために始めた研修や取り組みにまで、疑いの目が向けられることもあります。会社への信頼が、特定の誰かの問題としてではなく、組織全体の問題として揺らぐ点は、この調査でも見られた特徴です。

「残った側」に生じるサバイバー症候群

大規模な人員削減や組織再編(M&Aに伴うものを含む)では、会社を去る人だけでなく、残った人にも独特の反応が生まれます。英国の雇用問題研究機関(Institute for Employment Studies)は、これを「サバイバー症候群」と呼びます。同僚を失った悲しみと、生き残ったことへの罪悪感、次は自分かもしれないという不安が重なり、仕事への意欲が下がったり、会社を信じにくくなったりすることもあります。

ただし、反応の出方は一人ひとり違います。人員削減への反応には個人差が大きいとされ、同じ職場でも「それほど気にならない」という声と「仕事が手につかない」という声が両方出ることがあります。

ある調査では、人員削減後に残った従業員のうち、自分自身の生産性が下がったと答えた人が74%、勤務先の製品・サービスの品質が下がったと答えた人が69%、同僚の生産性が下がったと答えた人が64%にのぼりました。

人員削減後に残った従業員が「低下した」と答えた割合

人員削減後に残った従業員が「低下した」と答えた割合
項目回答した割合
自身の生産性が低下した74%
製品・サービスの品質が低下した69%
同僚の生産性が低下した64%

(Leadership IQ調査、4,172人・318社対象)

「生き残った」という表現に違和感を覚えるかもしれません。去った同僚への申し訳なさと、会社に残れたことへのほっとする気持ちは、同時にあってもおかしくないとされています。

あいまいな喪失 — 区切りのないまま進む喪失感

もう一つの視点が「あいまいな喪失」という考え方です。米国ミネソタ大学名誉教授(家族社会学)のポーリン・ボス氏が示した、はっきりとした区切りのないまま続く喪失を指します。もとは戦地で行方不明になった家族を持つ人たちの研究から生まれた考え方で、死別だけでなく、離婚や転勤などを考えるときにも使われています。

ここでは、この考え方を組織変更にも当てはめて考えてみます。組織変更の知らせを聞いた日ははっきりしていても、そこから慣れ親しんだチームや役割、日々の仕事のやり方が変わっていく間には、はっきりした区切りがありません。区切りをつける機会がないまま新しい体制に移っていくと、気持ちを整理できないまま働き続けることがあります。この考え方は、こうした状態を理解する手がかりになります。

こうした喪失感に対して、会社側が、一つの受け止め方を正しいと決めたり、早く気持ちを切り替えさせたりする必要はありません。「前の体制の方がよかった」という気持ちと、「新しい体制でやっていくしかない」という気持ちが同時にあるなら、どちらかを否定せず、両方とも受け止めることが助けになります。

企業が取るべき基本対応

人員削減や組織再編については、早い段階からの一貫した情報発信が、残る従業員の不安を和らげるとされています。理由や進め方を早く繰り返し伝え、経営層が職場に姿を見せて、従業員が声をかけやすい状態でいることが効果的だとされています。

不祥事についても、従業員に大きな衝撃を与える出来事が起きたとき、企業がすべきことで扱った「正確な情報を、時期を逃さず伝える」という基本原則がそのまま当てはまります。

選定や判断のプロセスを公正・透明にすることも欠かせません。「自分の処遇も同じ基準で決まるのか」。そんな声に答えられるよう、会社は基準を説明できるようにしておきます。基準が分からないままでは、不安が大きくなります。

残った従業員への配慮も見落とされがちです。同僚を見送ったあとに残る業務や役割は、誰かが会社の指示で引き受けます。増えた負荷や役割の変化を会社が把握し、必要に応じて調整してねぎらうことが支えになります。

話したい人には、話せる場を用意します。不祥事や組織変更の経緯は会社として説明します。ただし、気持ちを話すことまでは求めません。どこまで話すかは、話す本人が決めます。従業員に大きな衝撃を与える出来事が起きたとき、企業がすべきことで扱った基本原則と同じです。

まとめ

不祥事も組織変更も、何も変わっていないかのように振る舞うと、かえって従業員の不安や不信が強まることがあります。変わった点と、まだ分かっていない点を分けて、隠さず伝えていく。この対応を続けることが、揺らいだ信頼を少しずつ取り戻すことにつながります。

ただし、分かっていることをすべて話せるとは限りません。不正の調査中や人事案が固まる前の情報は、何を伝え、何をまだ伝えないかを、会社の側であらかじめ整理しておく必要があります。

※ 出典: Kathie L. Pelletier, Michelle C. Bligh「The Aftermath of Organizational Corruption: Employee Attributions and Emotional Reactions」(Journal of Business Ethics, 80(4), 823-844)、2008年、2026年8月26日閲覧。Institute for Employment Studies「Survivor Syndrome: Key Considerations and Practical Steps」、2004年、2026年8月26日閲覧。Leadership IQ「Don't Expect Layoff Survivors To Be Grateful」(調査対象4,172人・318社)、2026年8月26日閲覧。Pauline Boss, Janet R. Yeats「Ambiguous loss: a complicated type of grief when loved ones disappear」(Bereavement Care)、2014年、2026年8月26日閲覧。University of Minnesota「Honoring Pauline Boss, FSOS Professor Emeritus」、2026年8月27日閲覧。「あいまいな喪失」情報サイト「Boss博士について」、2026年8月27日閲覧。ポーリン・ボス『あいまいな喪失とトラウマからの回復——家族とコミュニティのレジリエンス』(誠信書房)、2026年8月27日閲覧。ボス博士の日本語表記と肩書きは、この3件による。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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