職場の人間関係・ハラスメント

取引先からのカスタマーハラスメント — 相手の会社に協力を求める

取引先の担当者からの言動も、法律が定めるカスタマーハラスメントの対象に含まれます。相手が個人のお客様のときと違い、行為者の側にも会社があります。取引を切らずに従業員を守るために、会社が相手企業へ何を求められるかを解説します。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • 労働施策総合推進法が定める「顧客等」には取引の相手方が含まれ、指針は「取引先の担当者」「企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者」を例に挙げている
  • 個人のお客様が相手のときと違うのは、行為者の側にも会社があること。指針は、行為者が他社の従業員・役員・事業主本人である場合に、その事業主へ事実関係の確認や再発防止への協力を求めることも含まれるとしている
  • 社内では、売上を守る責任を負う人が該当性も判断する状態を避ける。判断の担当と、判断に使う材料の両方を先に決めておく
  • 相手企業には協力に応じる努力義務があり、協力を求められたことを理由に契約を解除するなどの不利益な取扱いは望ましくないとされている

先方の担当者に1時間近く責め立てられた、と営業から報告があった。相手は取引先で、来月も再来月も付き合いは続く。

相手が個人のお客様であれば、担当を代わる、来店をお断りするといった手が考えられます。取引先が相手だと、来店をお断りするような手は取引そのものを終わらせかねません。担当を代えても、向き合う相手は変わりません。ただ、企業どうしだからこそ取れる手もあります。行為者の側にも会社がある、という点です。

労働施策総合推進法第33条は、顧客等からの言動によって労働者の就業環境が害されないよう、必要な措置を取ることを事業主に求めています。従業員数による適用除外はありません。

すでに報告が上がっている場合は、受けた本人の安全を確保し、対応を代わることが先になります。その手順はカスタマーハラスメントを受けた従業員への対応にまとめています。この記事で扱うのは、そのあとに会社として取れる手です。

取引先も、法律が定める「顧客等」に含まれる

条文が「顧客等」として挙げるのは、「顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」です。取引の相手方は、条文にそのまま書かれています。厚生労働省の指針は具体例として「取引先の担当者」「企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者」を挙げ、今後取引する可能性のある相手も含めています。

対象者に含まれることと、個々の言動が該当するかどうかは別です。指針は、顧客等の言動であること、社会通念上許容される範囲を超えていること、労働者の就業環境が害されることの3つをすべて満たすものをカスタマーハラスメントとしています。判断の手順はカスタマーハラスメントの該当性を見極める三つの着眼点にまとめています。

場所も、社内に限りません。指針は、通常就業している場所以外でも労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれるとし、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店を例に挙げています。先方に出向いた先での言動も、会社が対応すべき範囲の中にあります。

厚生労働省の調査では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を受けたと答えた労働者861人のうち、22.6%が取引先等の他社の従業員・役員を行為者として挙げています(複数回答)。5人に1人強にあたります。

個人のお客様が相手のときと、2つ違う

同じ基準で該当性を判断しても、そのあとに取れる手は変わります。違いは2つです。

行為者の側にも会社がある

指針は、事案の事実関係を確認するとき、行為者が他社の従業員である場合と、他社の事業主本人(法人ならその役員)である場合の扱いを定めています。「必要に応じて、他の事業主に事実関係の確認への協力を求めることも含まれる」。再発防止に向けた措置についても、同じように協力を求めてよいとしています。

相手が個人のお客様であれば、働きかける先はその人自身です。取引先であれば、その担当者を雇っている会社に、事実確認と再発防止への協力を求められます。行為者が先方の役員や個人事業主本人であるときは、その会社やその人自身が、求める相手になります。

取引は続く

出入りをお断りするような手段は、取引先には使いにくいものです。自社の担当者を代えても取引そのものは残り、代わった担当者が同じ相手と向き合うことになります。関係を続けながら、言動だけを止めてもらうことになります。そもそも代わる相手がいない規模の職場でできる備えは、カスタマーハラスメントに一人で対応するしかないときにまとめています。

なお、企業どうしでは、自社の従業員が取引先の従業員に対して行為者になることもあります。取引先から事実確認の協力を求められた場合の対応は取引先から事実確認の協力を求められたときにまとめています。

会社として先に決めておくこと

決める人が取引を守る責任も負っている、という状態を避けるために、落ち着いているうちに次の3つを決めておきます。

誰が判断するか

報告を受けて判断する人が営業の責任者であるとき、その人は取引を守る責任と従業員を守る責任を同時に負います。どちらを選ぶかという話ではなく、同じ人に両方を背負わせない仕組みが要ります。

該当性を判断する担当を、事案が起きる前に決めておきます。人数を増やすことではありません。売上を守る責任を負っている人が、該当性も判断する状態を避けることです。

人事や管理部門があれば、そこが担います。経営者が営業も見ていて社内では分けられない会社では、判断そのものを外に置きます。顧問の社会保険労務士や弁護士に、該当するかどうかの結論を出してもらう形です。意見を聞いたうえで営業の責任者が決める運用にすると、避けたかった状態がそのまま残ります。

判断に使う材料も分けます。売上への影響は材料にしません。一方、契約の内容は材料になります。指針は、社会通念上許容される範囲を超えた言動を、要求の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、または手段や態様が相当でないものとしています。契約でどこまでを約束したかは、要求そのものの妥当性を測る物差しになります。

相談を受け付ける窓口は、新しく作らなくてもかまいません。指針は、相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知することを求めたうえで、職場における他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも考えられるとしています。窓口の整え方はハラスメント相談窓口の義務化と中小企業の対応で扱っています。

何を残すか

指針は、必要に応じて事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに留意して関係部門に共有し、再発防止に活用することも考えられるとしています。相手企業に協力を求める段になると、この記録が、いつ何があったのかを示す材料になります。受けた本人から聞き取り、日時・場所・やり取りの内容・同席者を会社として残します。

相手企業に何を求めるか

指針が示しているのは「協力を求める」という手段です。求めるものは2つに分かれます。

受けた従業員

上司または相談窓口へ報告する。

自社

報告を受け、会社として対応を決める。

会社と会社の境界

取引先企業

協力の求めに応じるよう努める立場にある。

自社が行うこと

  • 受けた従業員へのケア。
  • 事案の内容と経緯の記録。
  • 担当者の交代・複数名での対応。

相手企業に求めること

  • 事実関係の確認への協力。
  • 再発防止に向けた措置への協力。

自社は先方の従業員を懲戒できません。その人を雇っている会社であれば、事実が確認できたときに、自社の規定に基づいて措置を取れます。会社どうしで話す意味は、そこにあります。

申し入れをためらう理由が取引を打ち切られる心配にあるなら、指針の次の記述が判断材料になります。協力を求められたことを理由として、求めた側との契約を解除するなどの不利益な取扱いを行うことは望ましくない、というものです。禁止と定めたのではなく、望ましくないものとして示されています。

なお、書面か口頭か、先方の誰に伝えるか、いつまでに行うかといった申し入れの方法については、指針にも条文にも定めがありません。

まとめ

取引先からのカスタマーハラスメントで会社が持つ選択肢は、我慢するか取引をやめるかの2つではありません。行為者を雇っている会社に、事実関係の確認と再発防止への協力を求める道筋があります。相手が個人のお客様のときには取れない、企業どうしだからこその手です。

そのために先に決めておくのは3つ。売上を守る責任から該当性の判断を切り離すこと、事案の内容と経緯を会社として残すこと、そして相手企業に何を求めるかです。この3つがあれば、次に報告が上がったときに会社として動けます。

※ 出典: 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)、2026年8月20日閲覧。労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第33条・第34条(令和7年法律第63号による改正後。2026年10月1日施行。e-Gov法令検索)、2026年9月9日閲覧。厚生労働省委託事業「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(PwCコンサルティング合同会社)、2024年3月、2026年9月9日閲覧。取引先からの言動の扱いは告示第51号の2・4・5・6、被害の実態は実態調査報告書の図表55・図表151による。

※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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