育児をしながら親などの介護も担う「ダブルケア」は、どれくらいの人が直面しているのでしょうか。内閣府の推計では、全国に約25.3万人います。晩婚化・晩産化を背景に、子育てが一段落する前に親の介護が始まるケースが増えており、特別な事情というより、どの職場にも起こりうる組み合わせです。
ダブルケアとは — 育児と介護が同時期に重なること
ダブルケアは、育児と介護のどちらも「ふだん行っている」状態にある人を指します。内閣府男女共同参画局が2016年に公表した調査(総務省「就業構造基本調査」2012年分の特別集計)によれば、その規模は次の通りです。
15歳以上人口全体では約0.2%にとどまりますが、育児をしている人に占める割合は約2.5%、介護をしている人に占める割合は約4.5%です。介護をしている人の20人に1人近くが、同時に育児もしていることになります。年齢層は男女とも30〜40歳代が中心で、全体の約8割を占めます。管理職に差しかかる年代とも重なるため、職場での存在感は推計人口の数字以上に大きいと考えたほうが実態に近いでしょう。
なお、このデータは2012年時点の集計をもとにした2016年公表の推計で、これより新しい全国規模の推計は現時点で公表されていません。人数そのものより、「育児と介護が同時に来る人が一定数いる」ことを示す数字として見るのがよいでしょう。
育児と介護、それぞれの支援では足りない理由
育児・介護と仕事の両立を支える、上司・同僚にできることで触れた通り、育児と介護は上司・同僚が気をつけるべき点が異なります。育児は復職時期や成長の見通しがある程度立てられますが、介護は先が読めず、ある日突然始まることが多いためです。
育児・介護休業法は2025年4月・10月に段階的に改正され、育児・介護それぞれの両立支援制度が拡充されました。ただしこの改正も、育児と介護を別々の制度として拡充したものです。両方が同時に必要になる人への複合的な配慮までは想定していません。
ダブルケアで難しいのは、育児と介護のどちらか一方に対応すればよいのではなく、両方の負荷がそれぞれ別々のタイミングで重くなったり軽くなったりする点です。子どもの体調不良で早退が必要な日に、親の介護施設からも連絡が入る。介護のために休みを増やしたいが、子どもの学校行事とも重なる。育児だけ、介護だけを前提にした配慮では、こうした重なりへの対応が抜け落ちがちです。
就業への影響は、育児・介護どちらか一方より重い
ダブルケアに直面した人が就業をどう調整したかを見ると、性別による差が際立ちます。ダブルケアに直面する前に働いていた人のうち、その後「業務量や労働時間を減らした」割合は、男性で約2割、女性で約4割です。そのうち離職して無職になった人の割合は、次の通り大きく異なります。
この男女差を分けている大きな要因の一つは、頼れる先の有無です。業務量を変えずに済んだ理由として、男性は「家族の支援が得られた」(47.3%)が最も多く、女性は「育児サービスが利用できた」(38.2%)が最も多くなっています。
逆に業務量を減らさざるを得なかった理由では、男性は「介護者を施設に入所させることができなかった」(31.4%)が最多、女性は「家族の支援が得られなかった」(27.9%)が最多でした。家族や施設という職場の外側の支援体制に恵まれるかどうかが、就業を続けられるかどうかの分かれ目になっています。
会社の側からこの差を埋めることはできませんが、少なくとも「職場の対応が理由で辞めざるを得なかった」という事態は避けられます。ダブルケアを行う人が勤め先に最も充実してほしいと答えた支援策は、男女とも「子育てのために一定期間休める仕組み」でした。女性は男性より「休暇・休業を取得しやすい職場環境の整備」を求める割合が5ポイントほど高く、制度の有無以上に、実際に使いやすい雰囲気があるかどうかが問われています。
上司・同僚にできること
ダブルケアを行う社員への配慮は、育児・介護それぞれへの配慮の延長線上にありますが、いくつか固有に意識したい点があります。
- 育児の相談と介護の相談を別々の窓口・別々のタイミングで受けようとしない。両方の事情を一度に聞ける状態にしておくと、本人が「まず育児のことだけ話す」「介護のことは言い出しにくい」といった取捨選択をせずに済む
- どちらの負荷が重くなるかは本人にも予測しづらいという前提に立ち、業務の締め切りや引き継ぎ体制に、育児単体・介護単体を想定するより余裕を持たせておく
- 「今は育児と介護、どちらを優先したいか」を会社側が決めつけない。本人の状況は時期によって変わるため、一度の申告内容を固定的に扱わず、定期的に確認し直す
避けたいのは、育児と介護それぞれの制度を案内して終わりにすることです。制度を組み合わせて使えることを本人が理解していなければ、結局「両方は無理」と一人で判断し、離職という選択に至りかねません。だからこそ、両方を組み合わせて使えることを会社の側から具体的に示すことが、こうした一人での判断を防ぐ最初の一歩になります。
50人未満の会社では
人員に余裕がない会社では、ダブルケアを行う社員の業務を代わりに担う体制を単独で整えるのは簡単ではありません。育児・介護と仕事の両立を支える、上司・同僚にできることで紹介した両立支援等助成金は、育児・介護のどちらの休業・短時間勤務にも対応しており、ダブルケアで両方の制度を組み合わせて使う場合も活用できます。社内の工夫だけで抱え込まず、公的支援と組み合わせて考えることが現実的な出発点です。
※ 出典: 内閣府男女共同参画局「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」(平成28年4月公表。総務省「就業構造基本調査」平成24年より内閣府にて特別集計、およびインターネットモニター調査「育児と介護のダブルケアに関するアンケート」平成28年2月実施)。育児・介護休業法の2025年改正内容は育児・介護と仕事の両立を支える、上司・同僚にできることを参照。本ガイドは一般的な解説であり、個別の制度適用は所轄の労働局や社会保険労務士等にご確認ください。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。