従業員から「妊娠しました」と伝えられたとき、まず頭に浮かぶのは産休に入る時期や業務の引き継ぎでしょう。ただ、その報告を受けた時点から会社に生じるのは、気配りの問題ではありません。男女雇用機会均等法、労働基準法、育児・介護休業法の3つが、それぞれ別の義務を会社に定めています。
しかも、その多くは本人の請求か医師の指導があって初めて動く仕組みです。会社の側から制度を知らせなければ、使える措置があること自体が知られないまま妊娠の期間が過ぎてしまうこともあります。何が、どのきっかけで動くのかを順に見ていきます。
妊娠の報告を受けた時点で動き出すもの
法律が会社に求めていることを、動き出すきっかけごとに並べると次のようになります。
| 会社がすること | 根拠 | 動き出すきっかけ |
|---|---|---|
| 健康診査・保健指導を受ける時間の確保 | 男女雇用機会均等法第12条 | 本人の申出 |
| 医師の指導に沿った勤務時間の変更・業務の軽減 | 男女雇用機会均等法第13条 | 医師等の指導(母健連絡カード等) |
| 産前休業(6週間、多胎妊娠は14週間) | 労働基準法第65条第1項 | 本人の請求 |
| 産後休業(8週間) | 労働基準法第65条第2項 | 請求がなくても就業させられない |
| 軽易な業務への転換 | 労働基準法第65条第3項 | 本人の請求 |
| 時間外労働・休日労働・深夜業の免除、変形労働時間制の適用制限 | 労働基準法第66条 | 本人の請求 |
| 重い物を扱う業務など、有害な業務への就業制限 | 労働基準法第64条の3 | 請求がなくても就かせられない |
| 育児休業制度の個別の周知と意向確認、両立に関する意向の聴取と配慮 | 育児・介護休業法第21条 | 妊娠・出産の申出 |
| 不利益な取扱いの禁止、ハラスメントの防止措置 | 男女雇用機会均等法第9条・第11条の3 | 常時 |
休むかどうか、業務を軽くするかどうかは、多くが本人の請求を受けて動く形になっています。裏を返せば、制度を知らない人は請求できません。妊娠の報告を受けたときに何が使えるのかを伝えることから、実際の対応が始まります。
対象は正社員に限りません。パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者、日々雇用される人も母性健康管理の措置の対象です。派遣で働く人については、派遣元と派遣先の両方に、措置を講じる義務があります。
なお法律上の「妊産婦」は、妊娠中の女性と産後1年を経過しない女性を指します。配慮が必要な期間は出産で終わりません。
健康診査を受ける時間を確保する
妊婦健診や保健指導を受けるための時間を勤務時間の中で確保することは、会社の義務です。確保しなければならない回数は妊娠週数によって決まっています。
- 妊娠23週までは4週間に1回
- 妊娠24週から35週までは2週間に1回
- 妊娠36週から出産までは1週間に1回
- 産後1年以内は、医師等が受診を指示したときにその指示のとおり
医師や助産師がこれと異なる指示をしたときは、その指示に従います。流産や死産をくり返す不育症と診断されて、ふだんより回数の多い健診を指示された場合も、その回数の時間を確保する必要があります。
確保すべき時間は診察を受けている時間だけではありません。健康診査の受診時間、保健指導を直接受けている時間、医療機関での待ち時間、医療機関へ行き帰りする時間を合わせて考えます。
通院日は、原則として本人が希望する日、つまり医師等が指定した日にします。会社の休日やシフトで勤務のない日に変更させることはできませんし、勤務日に受診したいという申請を断ることも、原則としてできません。業務の都合でやむを得ず変更してもらう場合も、変更後の日は本人の希望に沿って決めます。
この時間を有給とするか無給とするかは、法律では決まっていません。勤務時間の短縮や休業で実際に働かなかった時間分の賃金は、会社と従業員が話し合って決めることが望ましいとされています。ここで気をつけたいのは、会社の側から年次有給休暇を充てるよう指示することは認められないという点です。本人が自分の意思で年次有給休暇を使って通院することはかまいませんが、会社が一方的に「通院は有休で」と指示することはできません。
妊娠週数や出産予定日を確認する必要があるときは、本人の同意を得たうえで、診断書や出産予定日証明書の提出を求めることができます。ただし厚生労働省は、証明として母子健康手帳を見せてもらうことは、プライバシーを守るうえで好ましくないとしています。
医師の指導があれば、業務を変える義務が生じる
健診で医師等から指導を受けた場合、会社はその指導事項を本人が守れるように、勤務時間の変更や勤務の軽減などの措置を講じなければなりません。措置の内容は大きく3つに分かれます。
- 妊娠中の通勤緩和(時差通勤、勤務時間の短縮など)
- 妊娠中の休憩に関する措置(休憩時間の延長、休憩回数の増加など)
- 妊娠中または出産後の症状等に対応する措置(作業の制限、勤務時間の短縮、休業など)
医師の指導の内容を会社に正確に伝えるために、厚生労働省は母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)という様式を定めています。多くの母子健康手帳にも同じ様式が載っています。使われ方は次の流れです。
- 本人が健康診査・保健指導を受ける
- 主治医等が症状と必要な措置を母健連絡カードに記入する
- 本人がカードを会社に提出し、措置を申し出る
- 会社が記載内容に応じた措置を講じる
カードの提出がなければ動かなくてよい、というわけではありません。医師等から指導を受けたという申し出があれば、カードや診断書がなくても会社は適切な措置をとる必要があります。指導の内容がはっきりしないときは、本人を通して主治医に連絡し、判断を求めるという対応を厚生労働省は案内しています。通勤緩和と休憩の措置は、少し扱いが違います。医師の具体的な指導が確認できない場合でも、本人から申し出があれば、通勤の事情や作業の様子を見て対応することが望ましいとされています。
措置として休業が必要になったとき、どの休暇制度を使うかは会社に任されています。既にある私傷病休暇の制度で対応してもかまいません。その場合、私傷病休暇として使えることを社内に知らせておくことが欠かせません。注意が必要なのは、私傷病による休業を一定期間取ったら退職とする規定を就業規則に置いている場合です。この規定を妊娠・出産による休業にも当てはめると、退職の強要に当たり、男女雇用機会均等法違反になります。賞与や退職金の算定、人事考課で私傷病休業より不利に扱うことも同様です。休職制度そのものの考え方は休職は法律で決まっていないで整理しています。
心の不調も、この仕組みの対象に入っている
母健連絡カードで扱えるのは、つわりや貧血、腰痛といった体の症状だけではありません。カードの「措置が必要となる症状等」の選択肢には、「妊娠中・産後の不安・不眠・落ち着かないなど」という項目が置かれています。厚生労働省は措置の例として、休業(入院加療・自宅療養)、勤務時間の短縮、ストレスや緊張を多く感じる作業の制限、通勤緩和、休憩の配慮を示しています。つまり心の不調も、医師の指導があれば業務の調整につながる仕組みになっています。
見落としやすいのは、こうした不調が産後に限らないという点です。日本人女性を対象にした調査をまとめて分析した研究(メタアナリシス)があります。それによると、うつ病がみられる割合は妊娠が進むにつれて増え、妊娠後期でもっとも高くなります。妊娠している期間の割合は、産後の割合より高いという結果でした。
産後うつという言葉のほうが知られているため、職場の関心も出産後に向きがちです。しかし妊娠している期間も、心の負担が軽いわけではありません。体調の変化、働き方が続けられるかという不安、周囲にいつ何を伝えるかという迷いが重なる時期でもあります。
上司や同僚の側でできることは、専門的な判断をすることではありません。
- 体調について聞くのは、業務の調整に必要な範囲にとどめる。必要なのは「どのくらいの期間、どんな配慮が要るか」であって、症状や検査の結果そのものではありません
- 眠れていない様子や集中の続かない様子が続くようなら、健診の際に主治医に相談することをすすめる。医師の指導が出れば、それは会社が措置を講じる根拠になります
- 業務量や締め切りの調整を、本人が申し出るまで待たない。妊娠の報告を受けた時点で、会社の側から話し合いの場を持つ
不調のサインへの気づき方は社員の不調に気づいたときの対応フローにまとめています。社内では話しにくいことの相談先は外部カウンセリングとはで扱っています。妊娠の報告を受けた時点で相談先を伝えておけば、本人が必要になったときに自分で使えます。
産前産後休業と、流産・死産の場合
産前休業は、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から取れます。ただし本人が請求した場合に限られるため、働き続けることを選べばそのまま働けます。出産日は産前休業に含まれます。
産後休業は違います。出産日の翌日から8週間は、本人の請求がなくても就業させることができません。例外は、産後6週間を経過した後に本人が請求し、その業務について医師が支障がないと認めた場合だけです。
妊娠の報告
健診時間の確保、育児休業制度の周知と意向の聴取が始まる
妊娠中
医師の指導に沿った措置、請求による軽易業務への転換・時間外労働の免除
出産予定日の6週間前から
本人の請求により産前休業(多胎妊娠は14週間前から)
出産日の翌日から8週間
産後休業。請求がなくても就業させられない(6週間経過後は本人の請求と医師の判断により就業可)
産後1年まで
母性健康管理措置と労働基準法の保護の対象が続く
実務で扱いを誤りやすいのが、流産・死産の場合です。労働基準法でいう「出産」は妊娠4か月以上での分娩を指します。生きて生まれた場合だけでなく、死産や流産も含まれます。妊娠4か月以降の流産・死産であれば、原則8週間の産後休業の対象になり、会社は就業させることができません。また流産・死産の後1年以内であれば、妊娠の週数を問わず母性健康管理措置の対象が続きます。健診の時間の確保も、医師の指導に沿った措置も、この期間は義務として残ります。
厚生労働省は、流産・死産では体だけでなく心の面でも配慮が必要な場合があるとしています。本人の希望と体調を確認し、必要に応じて主治医の助言を得て対応するよう求めています。休暇の日数を計算して終わりにできる場面ではありません。近しい人を亡くした従業員への対応は身内を亡くした従業員への対応でも扱っています。
健康保険に加入している人であれば、産前産後休業の期間中に出産手当金が支給されます。対象になるのは、出産日以前42日(多胎妊娠は98日)から出産日後56日までのうち、働かなかった期間です。出産が予定日より遅れた場合は、予定日を基準に数えます。この期間の健康保険・厚生年金保険の保険料も、会社が加入先の健康保険と年金の窓口に申し出れば、本人負担分と会社負担分の両方が免除されます。申し出なければ免除されないため、産休に入る前に手続きを確認しておく必要があります。
妊娠を契機にした不利益な取扱いは、原則として法律違反
妊娠したこと、産前産後休業を取ったこと、母性健康管理の措置を求めたこと、軽易な業務への転換を請求したことなどを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁じられています。ここでいう不利益な取扱いには、解雇のほか、有期契約の更新をしないこと、降格、減給、賞与の不利益な算定、人事考課での不利益な評価、不利益な配置の変更などが含まれます。
妊娠中の女性と出産後1年を経過しない女性に対して行われた解雇は、無効になります。妊娠等を理由とする解雇ではないことを会社が証明したときは無効となりませんが、証明する責任は会社の側にあります。
「理由として」いるかどうかの判断について、厚生労働省は次のような考え方を示しています。妊娠・出産等の事由を契機として不利益な取扱いが行われた場合は、原則としてその事由を理由にしたものと判断され、法違反になります。「契機として」いるかどうかは、その事由が終わってから1年以内に行われたかどうかで判断されます。人事異動や人事考課、雇止めのように時期が事前に決まっているものは、1年を超えていても対象になります。その事由が終わった後、最初にその措置が行われるまでの間に行われたものが対象です。
例外として法違反にならないのは、次の2つの場合だけです。
- 業務上の必要性から不利益な取扱いをせざるを得ず、その必要性が本人の受ける影響を上回ると認められる特段の事情があるとき
- 本人が取扱いに同意していて、有利な影響が不利な影響を上回り、会社から適切な説明があるなど、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的にあるとき
この考え方のもとになった裁判例があります。広島中央保健生活協同組合事件(最高裁判所第一小法廷平成26年10月23日判決)です。妊娠して軽易な業務への転換を請求した理学療法士が、転換を機に副主任を外されました。最高裁は、軽易業務への転換を契機とする降格は、特段の事情がない限り、原則として男女雇用機会均等法が禁じる不利益な取扱いに当たると判断しました。本人の希望に沿って業務を軽くしたつもりでも、それに伴って役職や給与などの扱いを下げれば違法になり得るということです。
つわりなどの症状で仕事の能率が落ちたことを理由にした取扱いも、この禁止の対象です。省令は、禁止の対象となる事由に「妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかつたこと又は労働能率が低下したこと」を挙げています。つわりや切迫流産、出産後の回復不全などがここに含まれます。評価を下げる理由が「休みが多い」「以前ほど仕事が進んでいない」であっても、その背景が妊娠に起因する症状なら、法律上の問題になります。
妊娠・出産等に関するハラスメントについては、相談に応じ適切に対応するための体制を整えることが、会社の規模にかかわらず義務です。窓口はハラスメント全般で一つにまとめてかまいません。詳しくはハラスメント相談窓口の設置義務にまとめています。不利益な取扱いを禁じる規定の全体像はメンタルヘルス不調を理由にした解雇・降格は違法かで整理しています。
育児休業の説明と、働き方の意向の聴取
本人または配偶者の妊娠・出産の申出を受けたとき、会社は育児休業に関する制度を個別に知らせ、取得の意向を確認しなければなりません。社内の掲示や就業規則に書いてあるという状態では足りず、その従業員に対して個別に伝えることが求められます。
2025年10月からは、これに加えて意向の聴取と配慮が義務になりました。聴取するのは、仕事と育児の両立に関わる就業の条件です。勤務時間帯(始業・終業の時刻)、勤務地、両立支援制度等の利用期間、業務量や労働条件の見直しが対象になります。方法は面談(オンラインでも可)または書面の交付で、本人が希望した場合はFAXや電子メール等も認められています。
聴取した意向には配慮する義務がありますが、意向のとおりにする義務ではありません。会社としてその内容を踏まえて検討することが必要で、何らかの措置を行うかどうかは自社の状況に応じて決められます。意向に沿えない場合は、その理由を本人に説明するなど、丁寧に対応することが求められます。配慮の例に挙がっているのは、勤務時間帯や勤務地の調整、業務量の調整、両立支援制度の利用期間の見直しです。厚生労働省は、業務量の調整の例として、業務の一部を他の人に割り振ることや、業務の流れを見直すことを挙げています。
なお意向の聴取は、子が3歳になる前の時期にも改めて行うことが義務づけられています。家庭や仕事の状況は、出産前に決めたときから変わることがあるためです。育児と仕事の両立を支える側の配慮は育児・介護と仕事の両立を支える、上司・同僚にできることで扱っています。
50人未満の会社で、どこから整えるか
ここまで挙げてきた義務は、従業員の数によって対象から外れることがありません。数名の会社でも同じように適用されます。産業医の選任義務がなく、人事の専任担当もいない会社では、次の3つから手をつけるのが現実的です。
- 就業規則に母性健康管理の規定を置く。厚生労働省は、措置を確実に講じるために、取扱いや手続きをあらかじめ就業規則に定めておくことが重要だと説明しています。通院のための休暇制度や、妊娠中の症状に対応する休暇制度を新しく作る場合は、休暇についての定めとして就業規則に書きます。あわせて、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。有給か無給かもここで決めておきます
- 判断に迷う場面の相談先を持っておく。母性健康管理の措置が講じられず紛争になった場合、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が、調停などの紛争解決の援助を行っています。紛争になる前の相談先としても使えます。産業保健のスタッフと人事の担当が連携する体制を整えておくことも、厚生労働省が挙げる効果的な方法の一つです
- 一人しか担えない業務を減らしておく。急な通院や休業が必要になったときに業務が止まるのは、体制の問題です。手順や進捗を見える形にしておくことは、妊娠に限らずあらゆる休みへの備えになります
配慮が必要になったときに、その場の対応で乗り切ろうとすると、判断はそのときの担当者に任され、次に同じことが起きたときの基準が残りません。制度として書いておくことが、本人にとっても会社にとっても、迷いの少ない対応につながります。
※ 出典: 労働基準法第64条の3・第65条・第66条、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第9条・第11条の3・第12条・第13条、同法施行規則第2条の2・第2条の4、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第21条、健康保険法第102条・第159条の3、厚生年金保険法第81条の2の2(いずれもe-Gov法令検索による)。厚生労働省・都道府県労働局「働く女性の母性健康管理のために」(令和8年1月)、厚生労働省「働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について」、同「労働基準法のあらまし(妊産婦等)」、母性健康管理指導事項連絡カード(令和3年7月1日適用の様式)、厚生労働省「妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取扱い」、厚生労働省・都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「育児・介護休業法 令和6年(2024年)改正内容の解説」。裁判例は広島中央保健生活協同組合事件(最高裁判所第一小法廷平成26年10月23日判決、平成24年(受)第2231号)。うつ病がみられる割合は徳満敬大ほか「国内における男女の周産期うつ病の有病割合 — 国内初のメタアナリシスの結果から」(精神神経学雑誌125巻7号、2023年)。本ガイドは一般的な解説であり、個別の判断は社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。