従業員から「身内が亡くなりました」という連絡を受けたとき、上司がまず向き合うべきは、休暇の日数でも、業務の引き継ぎでもありません。本人が今どれほどの精神的な負担を抱えているか、その重さを思いやることです。業務の調整は、その後についてくる話にすぎません。多くの上司にとって、この場面でどう気持ちを受け止めればよいかを、事前に考える機会はほとんどありません。
休暇の日数は、回復にかかる時間の目安ではない
忌引休暇(慶弔休暇)は労働基準法に規定のない法定外休暇で、多くの会社では既に就業規則で日数が定められています。しかしこの日数は、葬儀や諸手続きに必要な最低限の目安であって、心の回復にかかる時間とは別物です。
規則上の日数を使い切ったからといって、本人がもう普段どおりに戻れるとは限りません。悲しみから立ち直る時間には個人差があり、数週間で気持ちの整理がつく人もいれば、何か月も引きずる人もいます。上司としては、一時的に業務が回らなくなるのが心配になるのは自然なことです。それでも、当事者にとっては人生の中でもとても重い出来事です。メンタル面の不調がしばらく長引くのは、めずらしいことではなく、むしろ普通に起こることだと思っておいたほうが、無理がありません。焦って本調子を求めるより、十分に回復してから業務に戻ってもらうほうが、長い目で見て本人にもチームにも負担が少なくて済みます。
50人未満の企業では、忌引休暇の制度自体がまだ整っていないこともあります。制度が無い場合も、有給休暇の取得を急な連絡でも柔軟に認めるなど、その場しのぎでなく事前に方針を決めておくと、いざというときに慌てずに済みます。
なお、従業員本人が流産・死産をした場合は、忌引休暇とは別に、労働基準法の産後休業や男女雇用機会均等法の母性健康管理措置の対象になります(妊娠中の従業員への配慮)。
上司・同僚にできること — 事情を詮索しない対応
身内を亡くした事情は、人によってさまざまです。しかし上司・同僚が対応すべきことは、何があったかによって変わりません。必要なのは「どのくらいの期間、どんな配慮が要るか」であって、事情の詳細ではありません。
- 業務の引き継ぎ体制を、平時から整えておく。本人が急に不在になっても、誰かが最低限の対応を代われるようにしておく
- 休暇の連絡を受けたとき、状況を根掘り葉掘り聞かない。伝えてもらう必要があるのは、休む期間の見込みと、緊急連絡が必要な業務の有無だけ
- 復帰後も、何があったかを聞き出そうとしない。本人が話したいときに話せる状態にしておくだけで十分
悲しみのさなかにある人への声かけも、意識しておく必要があります。
- 「頑張って」「早く元気を出して」は、早い回復を本人に求めるメッセージとして伝わりやすく、負担になることがあります
- 「気持ちはわかる」は、体験していない苦しみへの安易な共感に聞こえることがあります
- 「仕事に集中したほうが気が紛れる」は、本人の悲しみを認めず、抑え込ませる言葉になりかねません
かける言葉に正解はありません。それでも、急かさない・急がせないという姿勢そのものは、言葉以上に本人へ伝わります。
職場復帰後の配慮
復帰した直後から、以前と同じペースを求めないことも大切です。復帰後しばらくは、業務量や納期に多少の余裕を持たせておくと、本人も無理をせずに、自分のペースで戻れます。
上司の役割は、本人の悲しみを解決することではありません。本人が一人で抱え込まず、必要であれば外部の専門窓口にもつながれる状態を保っておくことです。
周囲の同僚への目配り
本人が休んでいる間、その分の業務は周囲の同僚が引き受けることになります。誰か一人に負担が偏らないよう、チーム全体で分散できる体制にしておくことは、育児・介護との両立を支えるときと同じ配慮です。
また、同僚自身も故人と面識があった場合、同僚側にも悲しみやショックが生じることがあります。本人へのケアと同じだけの目配りを、周囲にも向けておく必要があります。
※ 出典: 厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」(令和7年12月版)第30条〔慶弔休暇〕の解説に、慶弔休暇及び病気休暇は労働基準法上必ず定めなければならないものではない旨が明記されている。本ガイドは一般的な解説であり、個別の制度設計は社会保険労務士等にご確認ください。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。