チームの中に、子育てをしながら働く社員や、親などの介護をしながら働く社員がいることは、いまや珍しいことではありません。総務省「就業構造基本調査」によれば、育児をしている人のうち85.2%、介護をしている人のうち58.0%が働きながらその役割を担っています。両立は例外的な事情ではなく、多くの職場にすでにある前提です。
育児・介護休業法が定める両立支援の制度は、会社の規模にかかわらずすべての会社に適用されます。
育児と介護は、支え方が違う
育児と介護は、どちらも「仕事の外に大きな役割を抱える」という点では共通していますが、上司・同僚が気をつけたい点は異なります。
育児
- 妊娠・出産という始まりがあり、準備期間がある。
- 復職時期や成長の見通しが、ある程度立てられる。
- 本人にとって周囲に伝えやすい事情であることが多い。
介護
- 親などの急な入院・要介護認定など、ある日突然始まることが多い。
- 回復の見通しが立たず、いつまで続くか分からない。
- 本人が言い出しにくく、一人で抱え込みやすい。
なお、育児と介護が同時期に重なる「ダブルケア」の場合は、それぞれの配慮を単純に足し合わせるだけでは対応しきれない面があります。詳しくは育児と介護が重なる「ダブルケア」と仕事の両立支援を参照してください。
この違いは、育児・介護をしている人のうち働いている人の割合の差にも表れています。
介護をしている人で働いている人の割合が育児より20ポイント以上低いのは、本人の意欲の差とは考えにくいものです。先が見えないことと、周囲に相談しにくいという事情が重なり、両立をあきらめる方向に傾きやすいためだと考えられます。もっとも、介護をしている人には退職後の年代も多く含まれるため、この差の一部は年齢構成の違いによるものでもあります。
年齢構成を差し引いても、先の見えなさと相談しにくさが残ることに変わりはありません。介護については「本人から言い出すのを待つ」のではなく、会社の側から情報を届ける姿勢が求められます。
育児と仕事の両立 — 制度と、上司・同僚にできること
育児との両立は、子どもが生まれてから始まるわけではありません。妊娠中の従業員については、健康診査を受ける時間の確保や、医師の指導に沿った業務の調整が法律上の義務として定められています(妊娠中の従業員への配慮)。
本人または配偶者の妊娠・出産の申出を受けた時点で、会社は育児休業に関する制度を個別に知らせ、取得の意向を確認しなければなりません(育児・介護休業法第21条第1項)。社内の掲示や就業規則に書いてあるという状態では足りず、その従業員に直接伝えることが求められます。
育児・介護休業法が、育児との両立のために用意している制度は次のとおりです。
- 子の看護等休暇は、小学校3年生修了まで(9歳に達する日以後の最初の3月31日まで)の子を養育する人が、年5日を限度に取得できます。対象の子が2人以上なら年10日です(育児・介護休業法第16条の2)
- 所定外労働の制限(残業の免除を請求できる制度)は、小学校就学前の子を養育する人が請求できます(同法第16条の8)
- 3歳未満の子を養育する社員がテレワークを選べるようにすることは、会社の努力義務です
- 3歳から小学校就学前の子については、会社は柔軟な働き方の選択肢(始業時刻の変更、在宅勤務など)を2つ以上用意する義務があります(同法第23条の3)。3歳未満の子を養育する社員には、その子が3歳になるまでに、用意した選択肢を個別に知らせて利用の意向を確認する義務もあります
制度があると知られているだけでは、実際には使われません。上司・同僚が日常でできることは、次のような小さな配慮です。
- 保育園からの急な呼び出しなど、予定外の早退・欠勤が起きうる前提で、業務の締め切りに余裕を持たせておく
- 自分の担当業務を他の人が代われるよう、日頃から進捗や手順を見える形にしておく(本人だけでなく、チーム全体の運用として)
- 時短勤務や在宅勤務を選んだ社員に対して、評価や人員配置の説明をあいまいにしない。何を基準に評価しているかをはっきりさせておくことが、本人の不安と周囲の疑問の両方を減らす
介護と仕事の両立 — 制度と、上司・同僚にできること
介護は、ある日突然始まります。だから法律は、会社の側から早めに動く仕組みを求めています。
- 社員が介護に直面したという申し出を受けたとき、会社は介護休業制度・介護両立支援制度・介護休業給付金の内容を個別に知らせ、利用の意向を確認しなければなりません(育児・介護休業法第21条第4項)
- 介護に直面する前の早い段階(40歳に達した年度など)でも、同じ内容を知らせることが義務です(同条第5項)
- 介護休業・介護両立支援制度に関する研修の実施、相談窓口の設置、利用事例の共有、利用促進方針の周知のいずれかに取り組むことも義務です(雇用環境の整備)
- 介護休暇は、継続雇用期間が6か月未満であることを理由に対象から除くことができません
- 要介護状態の家族を介護する社員がテレワークを選べるようにすることは、会社の努力義務です
こうした仕組みの背景にあるのは、「介護は本人から相談があるまで待つ」という姿勢が離職につながってきたという受け止めです。上司・同僚が日常でできることも、同じ方向を向いています。
- 40歳前後の社員向けの研修や案内があれば、それとは別に、日頃の会話の中で「何かあれば早めに知らせてほしい」と伝えておく
- 介護休暇や介護休業の取得を、突発的な欠勤ではなく想定内の出来事として扱う。取得実績があれば、本人の同意を得たうえで社内に共有することも、次に直面する人の助けになる
- 症状や要介護度など、業務上必要のない詳細まで聞き出そうとしない。必要なのは「どのくらいの頻度で、どんな配慮が要るか」であって、家族の病状そのものではない
上司の役割は、解決することではなく、抱え込ませないこと
育児であれ介護であれ、上司や同僚がケアプランを立てたり、専門的な判断を下したりする必要はありません。上司の役割は、本人が一人で抱え込む前に、会社の制度や外部の専門窓口につなぐことです。
避けたい対応もあります。
- 家庭の事情を必要以上に聞き出す
- 「頑張って両立してね」と励ますだけで、業務量や体制の調整を先送りにする
- 本人が言い出すまで、会社側からは何も情報を出さない
これらはいずれも、本人に「自分で何とかしてください」というメッセージとして伝わりかねません。まずは、制度を使うことが評価や関係に不利に働かないという姿勢を、上司自身の言葉と行動で示すところから始まります。
周囲の同僚への目配りも欠かせない
育児・介護と仕事の両立を支えることは、本人だけの問題ではありません。誰かが早退・欠勤する、あるいは時短勤務を選ぶと、その分の業務は周囲の同僚が引き受けることになります。
- 誰か一人が代わりに担う体制ではなく、チーム全体で業務を分散できる仕組みにしておく。特定の同僚にしわ寄せが偏ると、その人自身の負担が積み重なり、新たな不調につながりかねない
- 配慮が必要な理由まで詳細に説明する必要はなくても、「なぜこの配慮をしているか」という会社としての方針は、周囲にも共有しておく。理由が見えないまま特定の人だけ扱いが違うと感じられると、不公平感が募りやすい
- 一人しか担えない業務を普段から減らしておくことが、結果的に育児・介護に限らず身内を亡くした従業員への対応など、あらゆる休みへの備えになる
両立支援は、当事者への配慮と、周囲の負担への目配りを同時に行って初めて、無理なく続く仕組みになります。
50人未満の会社では、公的な支援を組み合わせる
ここまで挙げてきた配慮は、人員にも予算にも限りがある50人未満の会社にとって、口で言うほど簡単ではありません。代わりに担える人が本当にいない、という現実もあります。だからこそ、社内の工夫だけで抱え込まず、公的な支援制度と組み合わせて考えることが現実的です。
- 厚生労働省の「両立支援等助成金」には、育児休業・介護休業を取得した社員の業務を代わりに担う周囲の社員へ手当を支給した場合や、代替要員を新たに雇用した場合に受け取れるコースがあります(金額と要件は年度ごとに改定されるため、申請を検討するときは最新の案内で確認します)
- この助成金の対象となる「中小企業」の範囲は業種によって異なりますが、常時雇用する労働者が50人以下であれば、業種を問わずいずれの基準でも対象に含まれます
- 介護に直面した社員がどこに相談すればよいか分からない場合、地域包括支援センター(介護保険法に基づき市区町村が置く、高齢者福祉の総合相談窓口。全国にあり、相談は無料)を案内する方法もあります。会社の中だけで抱え込む必要はありません
制度や体制をゼロから自社だけで作ろうとせず、使える公的支援を組み合わせることが、限られた人員でも両立支援を続けるための現実的な出発点になります。
※ 出典: 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」(2023年7月21日公表)。育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)第16条の2・第16条の8・第21条・第22条・第23条の3(e-Gov法令検索による)。厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」。両立支援等助成金は厚生労働省「両立支援等助成金」(要件・金額は年度ごとに改定される)。地域包括支援センターは介護保険法第115条の46に基づく制度。本ガイドは一般的な解説であり、個別の制度適用は所轄の労働局や社会保険労務士等にご確認ください。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。