従業員15名の会社を経営するCさんは、3年前に外部相談窓口を整えました。しかし、自分で使ったことは一度もありませんでした。
経緯 — 相談窓口を勧める立場のまま、自分は使わずにいた
大口の取引先との契約条件が急変しました。値下げを受け入れるか、取引を打ち切るか。厳しい判断を迫られていました。どちらを選んでも、従業員の仕事量や給料に直結します。誰かに相談したい。そう思いながらも、社内に悩みを打ち明けられる相手はいませんでした。
Cさんは日頃から、従業員には「悩みがあれば相談窓口を使ってほしい」と伝えていました。それでも、自分がその窓口を使う発想は浮かびませんでした。従業員を守る立場だから、弱さを見せてはいけない。重い判断を背負うのも経営者の役目だと、思い込んでいたからです(経営者・一人社長のバーンアウトに、誰が気づき、どう備えるか)。
相談 — 自分も窓口を使える立場だったと知る
契約更新の時期、窓口の案内を読み返していたCさんの目が、ある一節で留まりました。利用対象の欄です。「従業員とその家族」とだけ書かれており、経営者自身が含まれるのかは判然としませんでした。念のため担当者に尋ねてみました。すると、経営者が使っても差し支えないという回答が返ってきたのです。自分は対象外だと思ったまま3年が過ぎていたことに、このとき初めて気づきました。
半信半疑のまま、カウンセラーに予約を入れました。話してみて驚いたのは、契約条件の是非よりも、Cさん自身が一人で抱えてきた重圧にカウンセラーが耳を傾けてくれたことです。会社を守る責任と、経営者自身が相談すること。この2つは両立します。対話を通じて、Cさんはその事実に気づいていきました。
その後の経過
契約条件についての結論は、最終的にCさん自身が出しました。相談によって答えが直接出たわけではありません。しかし、迷ったときに立ち寄れる場所がある。その安心感が得られました。判断に迷う場面が来ても、以前のように一人で抱え込まず、まず話してみようと思えるようになりました。
Cさんはその後、月1回ほどのペースで窓口を使うようになりました。自分がその窓口を使っていることも、雑談のついでに従業員へ話すようになりました。
対応のポイント
窓口の案内は「従業員とその家族」のように書かれていることが多く、経営者自身が対象に入るかは読み取りにくいものです。整える側の立場にいると、使う側として案内を読み直す機会もなかなかありません。窓口を導入した際は、経営者や役員も使えるかどうかを一度確認しておくとよいでしょう。
経営者が率先して窓口を使う姿勢は、従業員が相談を利用する心理的な後押しにもなります。
※ 相談の実際の流れをもとに、個人や企業が特定されない形で構成した例です。特定の実在の相談ではありません。
※ 出典: 会社が契約する相談窓口の利用対象に関する記述は、自社のサービス契約実態に基づきます。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。