従業員30名ほどの会社で管理職を務めるAさんは、部下の遅刻と口数の少なさが続いていることに気づいていました。仕事のミスも目立つようになっていましたが、忙しい時期のせいかもしれないとも思え、様子を見るだけの日が続いていました。
経緯 — 部下の変化に気づいたが、確信が持てない
声をかけるべきか、それとも大げさに騒ぐことになるだけか。社員の不調に気づいたときの対応フローのような一般的な手順を知っていても、実際に自分の部下を目の前にすると、最初の一歩は重くなるものです。
Aさんには、相談するという考え自体、最初は浮かびませんでした。部下の様子の話を社外の人に話していいとは思っていなかったからです。
それでも、部下への接し方が分からないまま検索しているうちに、管理職の立場のままでも部下のメンタル面についてカウンセラーに相談できることを知りました。このまま様子を見るだけで状況が悪くなれば、後になって「なぜもっと早く動かなかったのか」と自分を責めることになる——そう思い直し、まずは話を聞いてもらうことにしました。
相談 — カウンセラーに、迷いをそのまま伝える
Aさんは、部下の様子が気になっていること、どう声をかけていいか分からないことを、カウンセラーに相談しました。自分で整理してから話したわけではなく、判断がつかない状態のまま伝えました。
相談で見えてきたのは、事実(いつから、どんな変化が続いているか)と、気にかけている気持ち(心配していること)を分けて準備することでした。「メンタル大丈夫?」と症状を決めつけて聞くのではなく、観察した事実と気にかけている気持ちを伝えるだけで十分だと分かりました。
診断も、この先どうするかを決めることも、カウンセラーが代わりに行うものではないと分かり、自分がやるべきことをはっきりさせました。まず声をかけて本人の話を聴くこと。そのうえで必要なら、本人が自分で相談できる先を伝えること。この2つが、自分の役割でした。
その後の経過
Aさんは「最近、遅刻が続いているように見えるけど、大丈夫?」と、事実と気にかけている気持ちだけを伝える形で声をかけました。
部下が話し始めてからも、聴くことに集中し、その場で結論を出そうとはしませんでした。そのうえで、会社を通さずに本人が直接使える外部の相談窓口があることを伝え、使うかどうかは本人の判断に委ねました。
対応のポイント
管理職は、すべてをひとりで判断しなくていい。事実と気にかけている気持ちを分けて準備し、自分の役割の範囲を確認する。そのうえで、抱え込む前に相談先を持っておくことが助けになります。
同じように部下の変化が気になっている場合も、判断の材料をひとりで集める必要はありません。迷ったときに相談先に頼ってよいと思えることそのものが、最初の一歩を軽くします。
※ 相談の実際の流れをもとに、個人や企業が特定されない形で構成した例です。特定の実在の相談ではありません。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。