Bさんは、判断を一人で決め続ける生活に、いつからか疲れを感じるようになっていました。従業員を雇わず一人で会社を経営して6年目、契約する仕事を選ぶことも、断ることも、値決めも、最後に決めるのは自分だけです。仕事自体は順調でした。
経緯 — 判断を一人で抱え続けていることに気づく
大きな取引先との契約更新をめぐって、条件面で判断に迷うことがありました。相手の要求をそのまま受けるべきか、条件を見直すべきか。顧問の税理士には数字の相談はできても、こういう判断そのものについて話せる相手はいませんでした。
友人に話しても「大変だね」で終わってしまい、これ以上何を話せばいいのか分からないまま、結局はいつものように一人で結論を出しました。その晩、判断が正しかったかどうかより先に、誰にも相談できなかったこと自体が引っかかっていることに気づきました。
相談 — カウンセラーに、判断疲れをそのまま話す
Bさんは、経営の相談ができるカウンセラーがいることを知り、オンラインで話してみることにしました。きっかけは、一人で抱えていることを誰かに話したいという気持ちでした。
話してみると、カウンセラーが聞きたがったのは、普段どれくらいの判断を誰にも相談せずに決めているか、それをどう感じているかということでした。Bさんは、判断の中身よりも、判断を最後まで自分一人で引き受け続けていることの方が負担になっていたと、話しながら気づいていきました。
事業の進め方を助言するコンサルティングや、目標達成を後押しするコーチングとは違い、カウンセラーは事業をどう進めるかを代わりに決めることはしませんでした。その代わりBさんが一人で抱えていた状況を整理する形で話を聞き、経営判断の重さと、それを話せる相手がいないことは別の問題だと伝えました。
その後の経過
Bさんは契約更新について、結局は自分で結論を出しました。相談の前と後で、判断そのものは大きく変わっていません。変わったのは、結論を出したあとの感覚です。一人で決めたことに変わりはなくても、誰かに話した経験があることで、次に迷ったときにまた話せる場所があると分かっています。
それから、月に一度ほどのペースで、同じカウンセラーに近況を話す時間を持つようになりました。相談する内容が特にない月も、話すこと自体を続けています。
対応のポイント
一人社長の孤独は、気力や覚悟の問題というより、事業の決定を最終的に引き受ける人が社内に自分しかいない、その仕組みから生まれるもののようです。相談は、決定を誰かに代わってもらうためではなく、一人で抱えていたことを言葉にして負担の感覚を軽くするために使えるものでした。
事業が順調なときほど、話す時間を作る優先順位は下がりやすいものです。判断に迷う出来事が起きる前から、定期的に話せる相手を持っておくことが、孤独を感じにくくする現実的な備えになります。
同じように一人で判断を抱え続けている場合も、話す内容がまとまっている必要はありません。相談していいと思えること自体が、最初の一歩を軽くします。
※ 相談の実際の流れをもとに、個人や企業が特定されない形で構成した例です。特定の実在の相談ではありません。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。