眠れないと話す部下に受診を勧めたいけれど、どう切り出せばよいか迷う。そんなときは、本人が困っていることを聴き、その困りごとを医師に相談する提案から始めます。病気かどうかを上司が判断する必要はありません。
中小企業の管理職・人事が担うのは、受診先や治療への疑問を一緒に確かめ、受診するための時間と仕事の調整を支えることです。不調に気づいたときの対応は、職場ガイド「社員の不調に気づいたときの対応フロー」にまとめています。
受診の話は、本人の困りごとから始める
まず、人に聞かれない場所で、普段と比べて気になっている変化を具体的に伝えます。遅刻や仕事の遅れに触れる場合も、責めるためではなく体調を確認するための話だと伝え、本人の説明を聴きます。
例えば、本人から眠れないと聞いていて、実際に出勤の遅れも続いている場面なら、次のように話を進められます。以下は声かけの例です。
「眠れないと話していましたね。今週は出勤が遅れる日もあって、体調が心配です。今、どんなことがつらいですか」
本人が睡眠のつらさを話したら、「その眠れなさについて、一度、医師に相談してみませんか。受診する時間を取れるよう、仕事の調整も相談できます」と提案します。本人が話していない症状を付け足したり、「うつ病だと思う」と病名を決めつけたりはしません。
仕事上の問題が語られたら、そこも受け止めます。業務量や人間関係の相談に対して受診だけを勧めると、職場で変えられることの検討が抜けてしまいます。受診の提案と、仕事の負担を調整する話を並行して進めます。
受診に同意が得られたら、本人が自分で探せそうか、候補探しや予約の手助けが必要かを確かめます。付き添いも本人の希望を聞いて決めます。上司が同行する場合も、診察室へ一緒に入ることまで当然の前提にはしません。
断られたら、ためらう理由を聴く
「病院には行きたくありません」と言われたら、説得を重ねる前に、何が気がかりなのかを聴きます。本人が理由を話したくない場合は、無理に聞き出しません。
仕事を休めないと言われたとき
受診のために仕事を抜けることが難しいのか、休職を勧められることが不安なのかを確かめます。前者なら、予定を空けるために担当業務や締切をどう調整できるかを相談します。後者なら、上司から「休まなくて済む」とは約束せず、必要な休養の程度を医師に相談することを提案します。
薬や精神科への不安があるとき
何を不安に感じているかを聴き、初診で医師に尋ねたいことを一緒にメモにします。「薬は絶対に安全」「必ずすぐ治る」といった保証はできません。受診先に迷っていて、かかりつけ医がいる場合は、そこから適した医療機関を紹介してもらう方法もあります。
それでも受診しないとき
一度で受診につながらないことは珍しくありません。本人が同意しない場合は、その場で受診の約束を無理に取り付けようとせず、体調と仕事への影響を確認し、次に話す機会を具体的に決めます。勧めたあとも、こうした話す機会を続けていきます。
状態が悪化した場合は、次の面談を待たず、専門家に連絡して対応を相談します。緊急時の対応は、職場ガイド「社員の不調に気づいたときの対応フロー」の「緊急のとき」にまとめています。
対応に迷うときは、管理職自身が産業医や社外の産業保健の専門家に相談します。職場ガイド「部下対応や職場の課題、管理職・人事はEAPに何を相談できるか」では、本人へのカウンセリングとは別に、対応する側が相談する使い方を紹介しています。
精神科と心療内科は、何が違うのか
厚生労働省の説明では、精神科はこころの病気を専門に診る診療科です。心療内科は、ストレスなど心理的な要因が関わって体に症状が現れる心身症を主な対象としています。基本となる診療対象は次のように異なります。
精神科
こころの病気を専門に診る
心療内科
心理的な要因が関わる心身症を主に診る
ただし、心療内科という名称でこころの病気を診ている医療機関もあり、診る病気や症状は医療機関によって異なります。「軽ければ心療内科、重ければ精神科」と症状の重さだけで分けるものではありません。
受診先を探す際は、医療機関のホームページで診療内容を確認し、分かりにくければ電話で問い合わせます。本人が困っている症状を診てもらえるか、初診の予約が必要かを確かめるところまで手助けすると、受診の予定を立てられます。
治療の説明は、職場が支えられることにつなげる
治療の内容は診断や状態によって異なります。例えば、厚生労働省「こころの耳」は、うつ病の治療を休養、薬物療法、精神療法・カウンセリングの3つの柱で説明しています。これはうつ病についての説明で、どの病気にも同じ治療を当てはめるものではありません。
休養は、仕事の調整にも関わる
うつ病で必要な休養には、仕事を軽くする、残業をしないといった対応から、仕事を休んで療養する場合まで幅があります。受診後は、仕事を続けるうえで何に配慮が必要かを本人に確認し、必要に応じて本人の同意を得て医師の意見を確認します。
会社側では、その意見を踏まえて業務量や勤務時間をどう変えるかを検討します。休職が必要になった場合の制度や手続きは、職場ガイド「メンタル不調による休職の基本 — 就業規則・傷病手当金・期間満了時の退職まで」で解説しています。
薬の疑問は、主治医に相談してもらう
うつ病の薬は、服用してすぐに効果が現れるとは限りません。副作用がつらい場合や、薬を減らしたい場合は主治医に相談することが大切です。上司が「元気そうだから、もう薬は要らない」と中止を勧めたり、反対に服薬を指示したりすることは避けます。
職場で気づいた支障は、観察した事実として本人と確認します。例えば強い眠気があるなら、薬のせいだと決めつけず、医師に相談してもらうとともに、安全に仕事ができるかを確認します。
精神療法は、対話などを通じた治療
精神療法には、考え方や行動に働きかける認知行動療法などがあります。受けられる治療については医療機関に確認します。会社が設ける社外相談窓口のカウンセリングと、医療機関での治療は同じものではありません。社外相談窓口で受けられる支援の範囲は、職場ガイド「カウンセリングとは — 従業員にどんな支援を用意することになるか」で説明しています。
回復にかかる期間には幅があります。受診後も通院の時間を確保し、本人と仕事の負担を確認する機会を持ちます。会社が確認する内容は、診察で話したことのすべてではなく、仕事を調整するために必要な事項に絞るのが基本です。
※ 出典: 厚生労働省「こころを専門に診る病院の種別」、2026年9月20日閲覧。厚生労働省「こころの耳」「うつ病の治療」、2026年8月20日閲覧。厚生労働省「こころの耳Q&A」、2026年9月20日閲覧。診療科の違い・かかりつけ医からの紹介は「病院の種別」、うつ病の治療と休養・薬・回復期間は「うつ病の治療」、受診勧奨と専門家への相談は「こころの耳Q&A」によります。声かけは、職場での対応を説明するために構成した例です。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。