カウンセラーを自社の社員として雇用するには、相応の人件費と採用の手間がかかります。従業員数が少ない会社ほど、「社外の専門家とつながる仕組み」を用意する方が現実的な選択肢になります。多くの場合、この仕組みはEAP(従業員支援プログラム)としてまとめて提供されます。この外部カウンセリングが、具体的に従業員へ何を提供する支援なのか、EAP事業者を選ぶ際に何を確認すべきかを整理します。
提供することになる支援は、「答えを出す」ことではない
カウンセリングは、悩みに対して助言や答えを与える場ではありません。厚生労働省のメンタルヘルス情報サイトも、カウンセリングはアドバイスを受けたり答えを出してもらったりするためのものではなく、自分自身の力で立ち直っていくきっかけをつくったり、気持ちや考え方を整理していくサポートだと説明しています。
外部カウンセリングを導入するということは、この性質を持つ支援を従業員に提供することになる、という意味です。仕事の進め方、上司との関係、キャリアの迷い——こうした悩みについて、カウンセラーが「こうすべきです」と結論を示すのではなく、本人が状況を言葉にし、考えを整理し、自分なりの選択にたどり着く過程を、対話を通じて支えます。
提供する支援の範囲 — できることと、できないこと
外部カウンセリングは対話による支援であり、医療行為ではありません。診断をつけたり、薬を処方したりすることはできません。うつ病や適応障害など医学的な治療が必要な状態が見えてきたときは、医療機関につなぐところまでが、事業者に提供してもらえる支援の範囲です。
外部カウンセリングとして提供される支援
- 話を聴き、感情や状況を言葉にする手助けをする
- 抱えている問題を一緒に整理する
- 今後の選択肢を一緒に検討する
- 必要に応じて医療機関や専門窓口につなぐ
医療機関でなければ提供できない支援
- うつ病・適応障害等の診断をつける
- 薬を処方する
- 休職の要否を医学的に判断する
この境界があるため、外部カウンセリングは精神科・心療内科の受診の代わりにはなりません。両者はどちらかを選ぶ関係ではなく、必要に応じて両方を使う関係になります。カウンセリングを受けている中で医療的な対応が必要だと分かれば、医療機関につなぐ。逆に治療と並行して、カウンセリングで気持ちの整理を続ける従業員もいます。
対応者の資格を確認する — 誰が担うか
「カウンセラー」という肩書きは、法律で使用が制限された名称ではありません。誰でも名乗ることができてしまうため、事業者を選ぶ際は、実際に何の資格を持つ人が対応するのかを確認することが重要になります。
代表的な資格には、次の違いがあります。
| 資格 | 資格の性質 | 取得の主な要件 |
|---|---|---|
| 公認心理師 | 国家資格(名称独占) | 大学・大学院で心理学の指定科目を履修し、国家試験に合格する |
| 臨床心理士 | 民間資格 | 指定大学院の修士課程を修了し、資格審査(筆記・口述)に合格する |
| 産業カウンセラー | 民間資格 | 協会の養成講座を修了し、資格試験に合格する。職場領域(メンタルヘルス対策・キャリア形成支援・職場の人間関係開発)に特化した資格 |
このうち公認心理師だけが国家資格です。「公認心理師」「心理師」という名称は、資格を持たない者が名乗ることを法律で禁止されています(名称独占)。臨床心理士・産業カウンセラーは民間資格で、それぞれの認定団体が定める要件と試験によって認定されますが、名称の使用自体を規制する法律はありません。
どの資格が優れているというより、資格ごとに得意とする領域や訓練の重心が異なります。事業者選定で確認すべき項目は、中小企業の相談窓口・EAPの選び方チェックリストにもまとめています。
社内の役割分担 — マネージャーの傾聴・コンサルテーションとの違い
外部カウンセリングを導入しても、社内の役割がなくなるわけではありません。上司が部下の話を聴く1on1も、対話を通じて相手を支えるという点では重なります。ただしマネージャーは部下の人事評価や業務指示を担う立場にあるため、「話したことが評価に響くのではないか」という警戒が働きやすく、評価に関与しない外部のカウンセラーとは前提が異なります。マネージャーの傾聴については部下の話を聴けるマネージャーになるにはで扱っています。
また、「カウンセリング」と近い場面で使われる言葉に「コンサルテーション」があります。カウンセリングが従業員本人との対話であるのに対し、それは管理職や人事担当者に対して、部下対応や職場環境の改善について専門的な助言を行う場面を指します。対象が従業員本人か、従業員に関わる管理職・人事担当者かで区別されます。
従業員がどんな悩みを持ち込めるか
外部カウンセリングという名称ではあっても、従業員が持ち込める悩みは仕事の内容に限られません。人間関係、家庭の問題、体調や気分の落ち込みなど、私生活の悩みが仕事に影響している場合も含めて相談できることが一般的です。会社側が「これは対象外」と悩みの種類で線を引く必要はなく、従業員が話したいと思ったことを扱う場として用意しておくものだと捉えておくと、利用のハードルが下がります。
会社としてどう用意するか
外部カウンセリングを従業員が使えるようにするには、社外のカウンセラーとつながる仕組みが必要です。仕組み全体の設計や機能についてはEAPとは — 従業員支援プログラムの基本で解説しています。
東京メンタルヘルスでも、カウンセラー派遣や社外相談窓口で外部カウンセリングを提供しています。
※ 出典: 厚生労働省「こころも メンテしよう」カウンセリングについて。公認心理師法(平成27年法律第68号)および厚生労働省「公認心理師法の施行について」(平成29年9月15日障発0915第7号)。臨床心理士は公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格。産業カウンセラーは一般社団法人日本産業カウンセラー協会が認定する民間資格。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。