相談窓口を設置しても、従業員に知られていなければ存在しないのと同じです。そして周知は一度きりでは足りません。「そういえば窓口があったな」と、困ったときに思い出してもらえる状態を保つことが目的です。
なぜ、よくある案内文は使われないのか
案内文の多くは「窓口があります。ご利用ください」という事実を伝えることに終始します。しかし従業員が窓口を使わない理由は、窓口の存在を知らないことより手前にあります。相談を考えたとき、次の3つの不安が先に立つからです。
- 相談したことが、人事評価に響くのではないか
- 誰が使ったか、結局は会社に伝わるのではないか
- こんな程度の悩みで、相談していいのか
このうち最初の2つは、「相談内容は会社に伝わりません」と一文書くだけでは解消しません。従業員からすれば、それは会社が自分でそう言っているだけの約束だからです。効くのは、なぜそう言い切れるかという仕組みを示すことです。窓口が社外の第三者機関であること、相談内容は個人が特定される形では一切共有されないこと、会社に届くのは全体の利用件数などの統計だけであること——この3点がそろって、はじめて約束は信じられる約束になります。
言い切るだけ
- 「相談した内容が会社に伝わることはありません」
- 受け取られ方は「本当に? 会社がそう言っているだけでは」
仕組みを示す
- 「社外の窓口です。相談内容は個人が特定される形では共有されず、会社に届くのは統計だけです」
- 受け取られ方は「誰が・どこまで見るかが分かるから、安心できる」
3つ目の不安(大した悩みじゃない)には、「小さな悩みで来てくれることが望ましい」という会社側の姿勢を示すことが効きます。窓口が「深刻な問題を持ち込む場所」に見えている限り、多くの人はハードルを感じて使いません。
以下の3種類のテンプレートは、この3つの不安への対応を組み込んで作っています。『 』の部分を貴社の内容に置き換えてご利用ください。
1. 導入時の全社案内(メール・社内掲示用)
なぜこう書くか
「伝わりません」の断言だけでなく、社外窓口であること・統計以外は報告されないことをあわせて書き、上で触れた「仕組みの説明」を埋め込んでいます。末尾の経営者名での一言も同じ原則です。「本気で使ってほしい」と言い切るだけでは、上の比較でいう「言い切るだけ」側になってしまいます。窓口を作っても使われないという現実を、経営者自身がまず認める必要があります。そのうえで、早めに・軽い話でも使ってほしいという理由を添えて初めて、トップ自身の言葉として効きます(小さな会社ほど、経営者の声が従業員一人ひとりに直接届きやすいため効果が出やすくなります)。
件名: 外部相談窓口を設置しました
従業員のみなさんへ
このたび、仕事や職場のことを社外の専門家に相談できる窓口を設置しました。
・相談先: 『窓口名・運営会社名』(社外の専門機関です)
・利用方法: 『電話番号・URL・利用手順』
・利用時間: 『対応時間』
・費用: 会社が負担します。みなさんの自己負担はありません。
相談した内容は、個人が特定される形で会社に伝わることはありません。誰が利用したかも、会社には分かりません。会社に届くのは、全体の利用件数などの統計だけです。
「相談するほどのことじゃない」と感じることほど、早いうちに話しておくと軽く済みます。仕事の悩みに限らず、体調のこと、人間関係のことでも構いません。
以下、『経営者名』からのメッセージです。
「相談窓口は作っただけでは意味がありません。困ったときはもちろん、迷う程度の小さなことでも早めに話してもらえる場所にしたくて、この窓口を用意しました。ぜひ、遠慮なく使ってください。」
以上、よろしくお願いいたします。
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『会社名・担当部署』
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2. 定期リマインド(四半期に1回程度)
なぜこう書くか
導入から時間が経つほど「どうせ会社に伝わるのでは」という疑いが薄れるのではなく、案内自体を忘れる方向に進みます。だから再案内は長々と説明し直す必要はなく、守秘の一文だけを短く繰り返すことに絞っています。季節の変わり目や繁忙期の前後など、負荷が高まるタイミングでの再案内が効果的です。
件名: 外部相談窓口のご案内(再掲)
従業員のみなさんへ
『時期に応じた一文。例: 年度の切り替わりで、環境の変化が続く時期です。』
あらためて、社外の相談窓口をご案内します。
・相談先: 『窓口名』
・利用方法: 『電話番号・URL』
社外の窓口のため、相談内容も利用の有無も会社には伝わりません。「大した悩みではない」と感じることでも、話すことで整理されることがあります。
以上、よろしくお願いいたします。
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『会社名・担当部署』
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3. 管理職向けの案内
なぜこう書くか
管理職には「自分が使う」だけでなく「部下に紹介する」役割があります。紹介する側になったとき、無理に事情を聞き出そうとしてしまうのが典型的な失敗です。だからこの案内は、聴くことではなく、つなぐことが役割だと明言することを軸にしています。
件名: 外部相談窓口について(管理職のみなさんへ)
管理職のみなさんへ
先日ご案内した外部相談窓口について、管理職のみなさんに2点お願いです。
1. 部下の様子が気になったら、窓口を紹介してください。「最近疲れているように見えるけど、大丈夫? 外部の相談窓口もあるから、よかったら使ってみて」——この一言で構いません。事情を聞き出すことより、相談先につなぐことが役割です。
2. 管理職のみなさん自身も利用できます。部下への対応に迷ったとき、ご自身の負担が大きいときにも使えます。社外の窓口のため、管理職の利用も会社には伝わりません。
以上、よろしくお願いいたします。
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『会社名・担当部署』
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周知を続けるための運用ポイント
- 繰り返す。 導入時の一度きりでは、3か月後には忘れられます。四半期に1回、負荷の高い時期の前を狙った再案内が効きます
- 入社時の案内に組み込む。 新しく入った人が最初に受け取る資料に窓口の案内を入れておくと、周知が仕組みになります
※ テンプレートは貴社の制度・契約内容に合わせて修正のうえご利用ください。特に機密の取り扱いは、契約している窓口の実際の運用と一致させてください(窓口選びの観点は選び方チェックリストを参照)。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。