外部の相談窓口やEAP(従業員支援プログラム)を検討するとき、営業資料を並べても「何を基準に比べればいいのか」が分かりにくいものです。このガイドでは、50人未満の会社が選定時に確認すべき10項目を、確認の観点とあわせてまとめました。
このチェックリストは、東京メンタルヘルスのサービスに限らず、どの事業者を検討する場合にも使えるように作っています。
チェックリスト(10項目)
| # | 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 1 | 対応範囲 | 相談対応だけか。研修・管理職への助言・危機対応まで含むか |
| 2 | 対応する人 | 相談に対応するのは誰か。保有資格(公認心理師・臨床心理士・精神保健福祉士・産業カウンセラー等)と経験 |
| 3 | 機密の扱い | 会社に何が報告され、何が報告されないか。文書で明示されているか |
| 4 | アクセス | 相談方法(対面・電話・ビデオ・チャット)と対応時間。家族も使えるか |
| 5 | 法令との関係 | ハラスメント相談窓口の措置義務やストレスチェック義務化への備えに使えるか |
| 6 | 利用促進の支援 | 社内周知の支援(案内文・説明資料・定期的なリマインド)があるか |
| 7 | 報告レポート | 会社向けレポートの中身。件数だけか、傾向と対応の示唆まであるか |
| 8 | 料金体系 | 従業員数に応じた課金か定額か。小規模でも現実的な価格か |
| 9 | 危機時の対応 | 自殺リスク・惨事(事故・災害)発生時に、何をどこまでしてくれるか |
| 10 | 契約とデータ | 解約時に相談データがどう扱われるか(削除時期・方法) |
各項目の見かた
1. 対応範囲 — 「窓口を置く」だけでは解決しないことがある
相談窓口は、従業員の相談を受けるだけでは完結しないことがあります。管理職が対応に迷うケース、休職・復職の判断、ハラスメントの訴えへの対応など、「会社側が動く場面」への支援が範囲に含まれるかを確認してください。相談対応・研修・経営側への助言が一体になっているか、それぞれ別契約かで、実際の使い勝手は大きく変わります。「何でも対応します」とだけ答える事業者より、「ここまでは基本料金、ここからは追加契約です」と線引きを説明できる事業者のほうが、契約後に想定外の追加費用で戸惑うことが少なくなります。対応範囲の違いによる分類はEAPにはどんな種類があるかで整理しています。
2. 対応する人 — 資格と経験は最初に聞いてよい
「カウンセラーが対応します」という説明だけで終わらせず、保有資格(公認心理師・臨床心理士・精神保健福祉士・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント等)と、職場の相談への対応経験を確認してみてください。事業者側にとって、この質問は失礼ではなく、真剣に検討している証拠として受け取られます。資格ごとの性質の違いは、外部カウンセリングとはで整理しています。
3. 機密の扱い — 従業員が使うかどうかを決める最重要項目
従業員が相談窓口を使わない理由として特に多いのが、「会社に知られるのが怖い」という不安です。だからこそ、会社に伝わるもの・伝わらないものが文書で明示されているかを確認してください。「個人は特定されない統計のみ報告」「本人の同意なく内容は共有しない」「守秘義務の例外(生命の危険など)はどこか」。ここが曖昧なままでは、従業員からの信頼も得にくいはずです。
4. アクセス — 「使える時間」と「使える方法」
日中は仕事で相談できない従業員のために、夜間・休日の対応があるか。対面だけでなく電話・ビデオ・チャットが選べるか。従業員の家族も使えるか。アクセスの幅は利用率を左右しやすいポイントです。
5. 法令との関係 — 義務の範囲と支援の範囲を区別する
ハラスメント相談窓口の設置は、企業規模を問わず事業主の義務です(2022年4月〜)。ストレスチェックは50人未満の事業場にも義務化されます(2025年5月公布の改正労働安全衛生法。施行日は2028年4月1日に確定)。外部窓口やEAPがこれらの義務にどこまで使えるのか、「何が事業者の提供範囲で、何が会社側の責任として残るか」を確認してください。「これを入れれば法令対応は全部完了」という説明をする事業者には、むしろ注意が必要です。
6. 利用促進の支援 — 窓口は「置くだけ」では使われない
相談窓口を設置しても、周知が一度きりでは、時間が経つにつれて忘れられていきます。案内文のひな形、社内説明用の資料、定期的なリマインドの仕組みなど、使われるための支援が含まれているかも見ておきたいところです(周知文のひな形は相談窓口の社内周知文テンプレートにも用意しています)。
7. 報告レポート — 件数だけのレポートでは次の一手が打てない
「今月の利用は2件でした」だけのレポートでは、会社として何をすればいいか分かりません。相談の傾向(個人が特定されない形)や、職場改善への示唆まで含まれるかを確認してください。あわせて、少人数の会社では件数の報告自体から個人が推測されないような配慮(一定件数未満は概数で示す等)があるかも重要です。
8. 料金体系 — 小規模に合う設計か
従業員1人あたりの課金は、大企業向けの価格設計であることが多く、50人未満では割高になりがちです。定額制か、最低利用料金があるか、研修などと組み合わせたときの総額はいくらか。「業界最安値です」という説明だけで終わらせず、貴社の従業員数だと年間総額はいくらになるかを具体的に示せる事業者かどうかで比較してください。
9. 危機時の対応 — 「そのとき」に何をしてくれるか
従業員の自殺リスクが分かったとき、職場で事故や災害が起きたとき、事業者は何をしてくれるのか。緊急時の連絡体制、危機介入の経験、事後のこころのケア(惨事ストレス対応・グリーフケア)まで確認しておくと、いざというときの差になります。
10. 契約とデータ — 解約時まで見ておく
契約を終了した場合、従業員の相談データはいつ・どのように削除されるのか。契約前に確認しておくべき項目ですが、見落とされがちです。データの削除時期を明示できるかどうかは、事業者を見極める材料の一つになります。
使い方
検討中の事業者に、この10項目をそのまま質問してみてください。すべてに明確に答えられるかどうか自体が、事業者の信頼性を測る材料になります。
※ 本ガイドは一般的な選定の観点をまとめたものであり、個別の契約判断は各社の状況に応じてご検討ください。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。