従業員の状態をつかむ方法はいくつかあり、アンケートはそのうちの一つです(職場のストレス要因を把握する方法で挙げた、数値の確認・ストレスチェックの活用・従業員に直接聞くという3つの方法のうち、直接聞く方法に当たります)。同じアンケートといっても、法律で定められたストレスチェックと、会社が独自に設計するアンケートとでは、目的も自由度もかなり違います。
ストレスチェックと、独自アンケートの違い
ストレスチェックは労働安全衛生法に基づく制度で、年1回、国が示す標準的な調査票(職業性ストレス簡易調査票、57項目)を使って実施します。50人未満の事業場も2028年4月1日から義務化されることが決まっています(詳しくはストレスチェック制度と50人未満の事業場)。
一方、会社が独自に行うアンケートには、こうした決まりがありません。何を聞くか、いつ聞くか、誰を対象にするかを、すべて自社の目的に合わせて設計できます。
| ストレスチェック | 独自アンケート | |
|---|---|---|
| 根拠 | 労働安全衛生法(50人未満は2028年4月義務化) | 会社の判断による任意の取り組み |
| 頻度 | 年1回 | 自由に決められる |
| 調査票 | 国の標準様式(57項目、簡略版23項目) | 自社で設計する |
| 結果の扱い | 実施者から本人へ直接通知。会社には集団分析等に限定 | 設計次第。運用を誤ると匿名性が崩れやすい |
何を知りたいかを、まず一つに絞る
アンケートを作り始める前に決めておきたいのが、今回何を知りたいのかです。「最近の働きやすさ全般」を知りたいのか、「特定の部署で起きている変化」を知りたいのか、「異動や制度変更の影響」を知りたいのかによって、聞くべき質問はまったく変わります。
目的を絞らないまま質問を作ると、あれもこれもと項目が増え、回答する側の負担が大きくなります。質問数が増えるほど、途中で投げ出す人も増えます。まず一つの目的に絞り、それに直接関係する質問だけを残すことが、設計の出発点になります。
匿名性をどう設計するか
回答者が特定されると分かっていれば、本音は出てきません。職場のストレス要因を把握する方法で触れた通り、匿名性は従業員に直接聞く方法すべてに共通する前提です。この前提が実際に機能するかどうかは、作り込み方次第で変わります。
誰が集計するかを決める
経営者自身が回答データに直接触れる設計は、避けたほうが安全です。無記名のアンケートであっても、部署や年齢といった属性を尋ねていれば、回答内容と本人が経営者の頭の中で結びついてしまうことがあります。外部のアンケートツールを使い、経営者には集計済みの結果だけが届くようにする、あるいは社内でも収集・集計の担当を経営者以外に置くといった工夫が、実務上の対策になります。
集計・実施そのものを外部に委託する方法もあります。EAP事業者の中には、相談対応だけでなく、こうしたアンケートの実施・集計まで請け負っているところがあります。50人未満の会社では費用が壁になりやすいところですが、それでも相談に乗ってくれる事業者はあります。東京メンタルヘルスでも、こうした相談に応じています。
少人数の壁
50人未満の会社では、属性で絞り込むほど回答者が数人にまで絞られ、本人が特定できてしまうことがあります。厚生労働省はストレスチェック制度の集団分析について、「集計・分析の単位が10人を下回る場合には、個人が特定されるおそれがあることから、原則として集団分析結果の提供を受けてはいけません」としています。これは法律上、独自のアンケートにまで課された基準ではありませんが、集計単位をどこまで細かく分けてよいかを考えるうえで、参考にできる目安です。
同じ資料は「小規模事業場では社内の人間関係が近いことから、個人特定のリスクが高く、社内で管理していること自体への労働者の不安が生じやすい」とも指摘しています。50人未満の会社が独自にアンケートを行う場合も、この構造そのものから逃れることはできません。部署・年代・雇用形態といった属性を尋ねるかどうかは、知りたいことと引き換えに特定されるリスクが増える、という前提のうえで判断してください。
質問の作り方
質問は、選択式と自由記述を組み合わせるのが基本です。選択式は集計しやすく、変化を数字で追いやすい一方、自由記述はその数字だけでは拾いきれない事情を補います。
質問数は絞り込むほど、回答する側の負担が減ります。厚生労働省が示す職業性ストレス簡易調査票にも、57項目の基本版に加えて23項目の簡略版が用意されており、必要な範囲に絞って質問数を減らすという考え方自体は、独自のアンケートを作るときにも参考になります。
聞き方にも注意が必要です。「〇〇に満足していますか」のように答えの方向を決めつける聞き方ではなく、「〇〇について、どう感じていますか」のように、答えの幅を狭めない聞き方を選んでください。
頻度で使い分ける
アンケートには、じっくり型と簡易型の二つの向き合い方があります。
じっくり型
- 年1回程度の頻度
- 項目数はやや多め
- 全体像・傾向をつかむのに向く
簡易型
- 月次・四半期など高い頻度
- 数問に絞る
- 変化の兆しを早めにつかむのに向く
じっくり型は、項目数が多い分、実施の手間がかかり、頻繁には行いにくいという弱みがあります。簡易型は、数問に絞る分、深い事情までは拾いきれません。どちらか一方だけで済ませようとせず、年1回のじっくりした調査と、日常的な簡易調査を組み合わせる会社もあります。まずはどちらか一方から始め、必要に応じてもう一方を足していく進め方でかまいません。
結果の扱いを、集める前に決めておく
アンケートは、集めた後にどう扱うかを事前に決めておかないと、実施すること自体が目的になってしまいます。誰が結果を見るか、いつ・どんな形でフィードバックするかを、質問を作る前の段階で決めておいてください。答えても何も変わらないと感じれば、次に同じアンケートを配っても、真剣に答えてもらえなくなります。
個人が特定できる自由記述の内容と、集団としての傾向は、扱いを分けてください。個人が特定できる内容を人事評価や配置の判断にそのまま使うと、次回以降の回答の信頼性そのものが崩れます。把握した後の優先順位のつけ方は、職場のストレス要因を把握する方法にまとめた通りです。
50人未満の会社での実践
専用の調査ツールを導入しなくても、無料で使えるフォームサービスで匿名アンケートは作れます。大切なのは、ツールの機能よりも、経営者自身が個人の回答に直接触れない仕組みを最初から組み込んでおくことです。50人未満の会社ほど、経営者や管理職が従業員一人ひとりの顔を思い浮かべやすい分、匿名のはずの回答から「これはあの人だろう」と推測してしまいやすくなります。集計を任せる相手を決め、経営者に届くのは集計済みの結果だけにする、という線引きを、アンケートを配る前に決めておいてください。この線引きがあるかどうかが、匿名のアンケートが実際に機能するかどうかを分けます。
※ 出典: 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)。職業性ストレス簡易調査票の57項目・簡略版23項目、集団分析の集計単位10人未満の扱い、小規模事業場における個人特定リスクの指摘について。ストレスチェック制度の基本・50人未満事業場の義務化時期は労働安全衛生法第66条の10、2025年5月公布の改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)、施行日を定めた令和8年政令第195号による。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。