心の健康づくり

職場のストレス要因を把握する方法

不調が起きてから対応するのではなく、起きる前に要因を減らす。厚生労働省の調査票が示す5つの視点と、数値・ストレスチェック・ヒアリングを組み合わせた把握の仕方を整理します。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • 厚生労働省の職業性ストレス簡易調査票は、仕事のストレス要因を量的負担・質的負担・身体的負担・コントロール・対人関係の5つで捉える
  • 量的負担や身体的負担は残業時間などの数字に表れるが、コントロールと対人関係は数字に出ず、本人に聞かなければ把握から抜け落ちる
  • 把握の方法は、既に社内にある数値、ストレスチェックの集団分析、直接の聞き取りの3つ。直接聞くには匿名性と、評価に結びつけない前提が要る
  • 把握は完璧な職場を目指すためでなく、次に何から手をつけるかを決めるために行う。費用をかけずにできる改善から着手する

不調が起きてから対応するより、不調が生まれにくい職場を先につくるほうが、本人にとっても会社にとっても負担が小さくて済みます。そのために欠かせないのが、自社の職場にどんなストレス要因があるかを把握することです。

何を見るか — 仕事のストレス要因の5つの視点

厚生労働省の「職業性ストレス簡易調査票」(ストレスチェック制度で使われる標準的な調査票、57項目)は、仕事のストレス要因を5つの視点で捉えています。

視点 内容
量的負担 仕事の量が多すぎないか
質的負担 仕事の難易度や責任の重さが見合っているか
身体的負担 体力的なきつさがないか
コントロール 仕事の進め方やペースを自分で決められるか
対人関係 上司・同僚との関係にストレスがないか

この5つのうち、量的負担や身体的負担は残業時間などの数字に表れやすい一方、コントロールや対人関係は数字に出にくく、本人に聞かなければ分からないという違いがあります。数字だけを追っていると、後者の要因は把握から抜け落ちたままになりがちです。

どう調べるか — 3つの方法

1. 数値で見えているものを確認する

残業時間、有給消化率、離職率、休職者数といった数字は、すでに社内にあることが多いものです。特定の部署だけ残業が突出している、特定の時期に離職が集中しているといった偏りがあれば、そこに要因が潜んでいる可能性があります。特別な調査をしなくても、既にある数字を定期的に見直すだけで気づけることは少なくありません。

2. ストレスチェックの結果を活用する

ストレスチェックを実施している場合、個人の結果だけでなく、部署やチーム単位で集計した「集団分析」の結果は、職場のストレス要因を把握する有力な材料になります。特定の部署で仕事の量的負担が高く出ている、といった傾向が見えれば、その部署から優先的に手をつける根拠になります。50人未満の事業場でのストレスチェックの位置づけは、ストレスチェック制度と50人未満の事業場にまとめています。

3. 従業員に直接聞く

数字や調査票だけでは、日々の雰囲気や対人関係の機微までは拾いきれません。1on1での何気ない会話や、簡単なアンケートで「今、困っていることはないか」と聞くことも、有効な手段です。ただし、直接聞く方法には匿名性の壁があります。誰が回答したかが分かる状態でアンケートを配れば、当たり障りのない回答しか返ってこないでしょう。アンケートなら回答者を特定できない形にする、1on1なら聞いた内容をそのまま人事評価に結びつけない——話しても不利にならないという前提があってはじめて、本音は出てきます。アンケートの匿名性を実際にどう設計するかは、従業員の状態を把握する社内アンケートの作り方にまとめています。

50人未満の会社での実践

大がかりなサーベイツールを導入しなくても、既にある勤怠の数字と、日常の会話を組み合わせるだけで、把握の土台は作れます。むしろ50人未満の会社では、経営者や管理職が従業員一人ひとりの働き方を直接見えている分、数字よりも先に、日々のやり取りの中で「あの部署は最近きつそうだ」といった肌感覚が得られることも多いはずです。ただし、肌感覚だけで判断を止めてしまうと、思い込みと実態のズレに気づけないままになります。数字や本人への確認と突き合わせて確かめる習慣をつけておけば、その肌感覚は把握の精度を上げる材料に変わります。

把握した後にすること — 気づくで終わらせない

要因を把握しても、そこで止まってしまっては意味がありません。次にすべきことは、すべてを一度に解決しようとせず、優先順位をつけることです。

  • 特定の部署や個人に負荷が偏っているなら、業務の分担を見直す
  • 特定の業務プロセスが質的負担の原因になっているなら、手順そのものを見直す
  • 対人関係が要因なら、まず本人の話を聴くところから始める(社員の不調に気づいたときの対応フロー

予算や人員に限りがある会社では、すべての要因にすぐ手をつけることは現実的ではありません。会議の時間を短くする、業務の割り振りを見直すなど、費用をかけずにできる改善から着手し、判断に迷う場合は地域産業保健センターなど外部の窓口に相談する方法もあります。把握は、完璧な職場を目指すためではなく、次に何から手をつけるかを決めるために行うものです。

※ 出典: 厚生労働省「こころの耳」(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)職業性ストレス簡易調査票 用語解説

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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