ストレスチェック制度とは、従業員が自分のストレス状態を質問票で年1回チェックする、労働安全衛生法に基づく仕組みです(第66条の10)。2015年12月に始まり、従業員50名以上の事業場には実施が義務づけられてきました。
50人未満の事業場は、これまで「当分の間、努力義務」とされてきました。この扱いが、改正労働安全衛生法によって変わります。現在の事業所規模別の実施状況は、日本の職場メンタルヘルスに関する統計にまとめています。
何が変わるのか
2025年5月に改正労働安全衛生法が公布され、ストレスチェックの実施義務を50人未満の事業場にも広げることが決まりました。施行日は2028年4月1日です(2026年6月10日公布の政令で確定)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 従業員50人未満の事業場(規模の下限なし) |
| 実施頻度 | 年1回 |
| 内容 | 質問票によるチェック → 本人への結果通知 → 高ストレス者の申出による医師の面接指導 |
| 施行 | 2028年4月1日 |
制度の基本 — 「会社が結果を見る仕組み」ではない
ストレスチェックについて、いちばん誤解されやすいのはここです。個人の結果は、本人の同意なく会社に提供されません。 結果は実施者(医師などの外部の専門職)から本人に直接通知され、会社に届くのは、受検の有無や、個人が特定されない集団分析(受検者10名以上の場合)などに限られます。
従業員
年1回受検。結果は本人にだけ直接届く
実施者(外部の専門職)
結果の判定・本人への通知・面接指導のすすめ。個人結果はここで完結する
会社
個人の結果には触れない。体制づくりと費用負担を担う
会社に届かないもの(壁の内側で完結)
- 個人のストレスチェック結果
- 誰が高ストレスと判定されたか
- 面接指導を申し出なかった人が誰か
壁を越えて会社に届くもの
- 受検の有無(誰が受けたか)
- 本人が申し出た場合のみ: 申出の事実と医師の意見書(必要最小限)
- 集団分析の結果(受検者10人以上・個人を特定できない形)
「社長が全員の結果を預かって管理する」制度ではありません。この守秘の仕組みがあるからこそ、従業員は正直に答えられます。
高ストレス者が「申し出ない」という壁
制度上は、高ストレスと判定された人が申し出れば医師の面接指導を受けられます。しかし実際には、この申出はほとんど行われていません。厚生労働省の調査(50人未満に限らない全事業場規模が対象)では、高ストレス者のうち面接指導を申し出る人の割合が5%未満にとどまる事業場が、全体の約77%を占めています。
背景にあるのは、面接指導を申し出ること自体が、会社に「自分は高ストレス者だ」と知られることになる、という心理的な壁です。結果は会社に伝わらなくても、面接指導の申出という行動そのものが、会社に伝わってしまう情報になるためです。なお、この申出をしたことを理由にした不利益な取扱いは、労働安全衛生法第66条の10第3項で禁止されています(メンタルヘルス不調を理由にした解雇・降格は違法か)。
この壁を下げるには、勧奨を一度で終わらせず、複数回・複数の経路(書面・メール・面談など)で繰り返すことが有効です。「申出がない=問題がない」ではなく「申し出にくい構造がある」という前提で、相談しやすい経路をあわせて用意しておくことが実務上のポイントです。
中小企業は「実施の手間」より「実施者の確保」が課題
ストレスチェックは、質問票を配って集めれば終わり、ではありません。制度上、結果の判定や高ストレス者への面接指導のすすめは「実施者」(医師・保健師など、厚生労働省令が定める要件を満たす者)が担う必要があります。産業医のいない50人未満の会社では、この実施者をどう確保するかが実務上の最大の論点になります。
実施者そのものは、外部の実施機関に委託して確保するのが現実的です。 ストレスチェックの実施から結果判定、高ストレス者への通知までを一括して請け負う外部機関と契約する方法です。
地域産業保健センター(地さんぽ)は、実施者の委託先にはできません。 地さんぽが無料で提供するのは、高ストレスと判定された従業員が申し出た場合の面接指導(医師との面談)です。実施者の確保とは別の話として、面接指導の依頼先の選択肢の一つとして覚えておくと役立ちます。
実施を形だけで終わらせないために
ストレスチェックは、実施すること自体が目的ではありません。測った結果を職場の改善につなげられるかどうかは、検査の前後に何を用意しているかで決まります。
- セルフケアの習慣づけとセットにする。年1回の検査だけでは、従業員が自分のストレス状態に気づく機会も年1回になります。日常的に気づける仕組み(セルフチェックツールなど)を別に用意しておくと、検査と検査の間が空きません
- 相談先をセットで用意する。チェックは「測る」だけの仕組みです。高ストレスと分かったあとに相談できる先(外部窓口・医療機関)がなければ、測りっぱなしになります
- 情報の流れを従業員に説明できるようにする。「結果は会社に見られない」ことを経営者自身が説明できると、受検への安心感がまったく変わります
※ 出典: 労働安全衛生法第66条の10、2025年5月公布の改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)。施行日は2026年6月10日公布の政令(令和8年政令第195号)により2028年4月1日に確定。高ストレス者の面接指導申出率は厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」(令和4年3月)による。実施者の確保、地域産業保健センター(地さんぽ)の位置づけについては厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月、https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001646587.pdf)による。詳細な運用は今後の省令・通達で確定するため、最新情報は厚生労働省の公表資料をご確認ください。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。