「ウェルビーイング」という言葉は、職場の文脈でもよく使われるようになりましたが、指している中身は論者によって幅があります。米Gallup社が世界規模の調査から導き出した枠組みでは、ウェルビーイングは5つの要素で構成されるとされています。それぞれが何を指すのか、そして会社がどこまで関与できるのかを整理します。
ウェルビーイングを構成する5つの要素
Gallup社の調査(150カ国以上、世界人口の98%以上を対象に、健康・経済・人間関係・仕事・地域について尋ねたもの)によれば、人が「よく生きている」と感じる状態は、次の5つの要素に分けられます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| キャリアの充実 | 日々していることを気に入っているか |
| 人間関係の充実 | 支え合える関係、愛情のある関係があるか |
| 経済的な安定 | 経済生活を無理なく管理できているか |
| 身体の健康 | 健康で、日々をこなすだけのエネルギーがあるか |
| 地域とのつながり | 住んでいる地域に関心を持ち、関与できているか |
一つだけでは足りない
この調査では、5要素のうち少なくとも1つで良好な状態にある人は66%にのぼる一方、5要素すべてで秀でている(thriving)人はわずか7%でした。一つが良くても、他が崩れていれば、実感は変わりません。ウェルビーイングを「収入が十分か」「健康診断の数値に問題がないか」といった単一の指標だけで捉えると、こうした見落としが起きやすくなります。
5要素の中でも、キャリアの充実は他の要素への波及が大きいことが指摘されています。Gallup社のチーフサイエンティストであるジム・ハーター博士は「キャリアの充実が崩れると、他の要素も早く損なわれていく」と述べています。仕事へのエンゲージメントが高い人ほど、身体・人間関係を含む他の要素の状態も良い傾向が見られました。会社にとってキャリアの充実が最初に手をつけやすい要素である理由は、この波及効果にもあります。
5つの要素は、職場でどう現れるか
キャリアの充実 — 会社が最も直接働きかけられる要素
日々の業務に手応えを感じられるか、自分の成長を実感できるか、という要素です。業務内容そのもの、裁量の与え方、評価やフィードバックのあり方が直接影響するため、5要素の中では会社が最も働きかけやすい範囲だといえます。
人間関係の充実 — 支えられている感覚
職場での人間関係が支えになっているかどうかも、ウェルビーイングを左右します。誰かに話を聞いてもらえる、困ったときに頼れる相手がいるという感覚には、同じストレスに直面しても心身への影響を和らげる働きがあるとされています。対話や相談がもたらす効果については対話・相談がもたらすメリットで詳しく扱っています。上司が部下の話にどう向き合うかも、この要素に直結します(部下の話を聴けるマネージャーになるには)。
経済的な安定 — 会社の裁量には限界がある
給与や待遇が経済的な不安を生まない水準にあるかどうかも、ウェルビーイングの一部です。ただし、この要素に会社が働きかけられる範囲には限りがあります。特に50人未満の会社では、給与水準を自由に引き上げられる余地は大きくありません。できることは、待遇の決め方や評価の基準を明確にし、先行きへの不安を必要以上に大きくしないことです。
身体の健康 — 過重労働を避け、休養が取れること
十分な休養が取れているか、体力的な負荷が大きすぎないかという要素です。長時間労働や慢性的な負荷が続けば、この要素から損なわれ始めます。兆候の見分け方はバーンアウトの兆候の見分け方、放置した場合に会社側が負うコストはバーンアウトが会社にもたらすコスト、仕事から具体的にどう回復するかの工夫はワークライフバランスを保つための4つの工夫にまとめています。
地域とのつながり — 会社が主導はしにくいが、関わる余地はある
住んでいる地域に関心を持てているか、関わりを持てているかという要素です。従業員個人の生活領域に属する部分が大きく、5要素の中では会社が主導しにくい範囲です。ただし、無関係というわけではありません。地域のイベントへの協賛、地元での採用、地域清掃などの活動に会社として関わることも、従業員がこの要素を実感するきっかけになります。個人の選択を後押しする面では、副業や地域活動への参加を妨げない、居住地に縛られない働き方を選べるようにすることも、間接的な支えになります。
会社にできること、できないこと
5要素を並べてみると、会社が直接手を打てる範囲とそうでない範囲がはっきり分かれます。キャリアの充実と身体の健康は、業務設計や労働時間の管理を通じて会社が主体的に関与できる要素です。人間関係の充実は、相談窓口やラインケアの仕組みを通じて会社が下支えできます。一方、経済的な安定と地域とのつながりは、会社の裁量だけでは動かせない部分を多く含みます。
大切なのは、5要素すべてを会社が背負おうとしないことです。会社が主体的に関与できる要素に力を注ぎ、関与しにくい要素については従業員自身の選択を妨げない、という線引きのほうが現実的です。
50人未満の会社での実践
産業医や人事部門を専任で置けない会社ほど、5要素を漠然と気にかけるだけでは対応が散漫になりがちです。まずはキャリアの充実と身体の健康という、会社が最も直接働きかけられる2要素から着手し、人間関係の充実は相談窓口の整備で補う——という順番で考えると、限られたリソースの中でも取り組みやすくなります。自社にどの要素の課題が大きいかを見極める出発点としては、職場のストレス要因を把握する方法も参考になります。
※ 出典: Rath, T., & Harter, J.(2010)"Wellbeing: The Five Essential Elements." Gallup Press。Gallup「The Five Essential Elements of Well-Being」(gallup.com/workplace/237020)。Gallup Business Journal「Well-Being: What You Need to Thrive」(news.gallup.com/businessjournal/127643)。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。