心の健康づくり

対話・相談がもたらすメリット

「話しただけなのに、少し楽になった」という感覚には、心理学的な裏づけがあります。感情を言葉にする効果、支えられている感覚の効果、孤立のリスクという3つの角度から、対話・相談がもたらす効果を解説します。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

更新 読了目安 3分

この記事の要点

  • 感情を言葉にして名づけると、不安や恐怖に関わる脳の部位(扁桃体)の活動が抑えられる。相手が解決策を示さなくても効果は始まっている
  • 周囲からの支え(ソーシャルサポート)はストレスの原因をなくすものではなく、同じ出来事から受ける心身への負担を和らげる働き
  • 社会的孤立は約29%、孤独感は約26%、独居は約32%の死亡リスクの上昇と関連し、その大きさは喫煙や肥満に匹敵する
  • とにかく誰かに話せばよいわけではなく、話を遮って評価する、責めるといった反応を伴う支えは逆にストレスや不調と結びつく

「話を聞いてもらっただけなのに、少し気持ちが軽くなった」——多くの人が経験するこの感覚は、気のせいではありません。誰かに話す、専門家に相談するという行為には、心理学の研究によって裏づけられた効果があります。相談窓口やEAPをなぜ整備するのかを考えるうえでも、この効果の中身を知っておくことは役に立ちます。

感情を言葉にするだけで、脳の反応が変わる

米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のマシュー・リーバーマンらは、fMRI(脳機能画像)を使った実験で、怒りや恐怖を感じさせる表情の画像を見せたときに、その感情を表す言葉を選んで名づけると、扁桃体(不安や恐怖などの情動反応に関わる脳の部位)の活動が抑えられ、前頭前野(思考や抑制に関わる部位)の活動が高まることを確認しました。感情を「名づける」という行為そのものが、脳のレベルで感情の高ぶりを鎮める働きを持つということです。

これは、話を聞いてもらう場で「今、こう感じている」と言葉にするだけでも一定の効果があることを示しています。相手が具体的な解決策を示さなくても、話し手が自分の状態を言葉にできた時点で、効果はすでに始まっています。

支えられているという感覚が、ストレスの影響を和らげる

社会心理学では、周囲からの人的な支え(ソーシャルサポート)が、ストレスの心身への影響を和らげる働きを持つことが、1980年代から繰り返し確認されてきました。家族・友人・上司・同僚など、頼れる相手がいるという感覚があるほど、同じ出来事に直面してもストレスの影響を受けにくくなる、という考え方です。

これは、ストレスの原因そのものをなくす効果ではありません。同じ量の仕事、同じ人間関係の摩擦があっても、支えてくれる相手がいるかどうかで、心身への負担のかかり方が変わってくる、という緩和の働きです。相談窓口や上司との1on1が持つ意味の一つは、まさにこの「支えられている」という感覚を従業員に提供することにあります。

話せる相手がいないことは、それ自体が健康リスクになる

逆の角度から見ると、話せる相手がいない状態、孤立した状態には、明確な健康リスクがあります。米ブリガムヤング大学のジュリアン・ホルト=ランスタッドらが2015年に発表したメタ分析(1980年から2014年までの先行研究を統合した研究)によれば、社会的孤立・孤独感・独居は、いずれも死亡リスクの上昇と関連していました。

状態 死亡リスクの上昇
社会的孤立(周囲との接触が乏しい状態) 約29%
孤独感(本人が孤独だと感じている状態) 約26%
独居(一人暮らし) 約32%

この影響の大きさは、喫煙や肥満など、健康リスクとしてよく知られる要因に匹敵するとされています。「相談できる相手がいない」は、単なる寂しさの問題ではなく、放置してよい状態ではありません。

誰に話すかも重要 — 支えの質

ただし、とにかく誰かに話せばよいという意味ではありません。批判的な反応や否定的なやり取りを伴う支えは、逆にストレスや心身の不調と結びつくことが、複数の研究で指摘されています。話を遮って評価する、責める、「そんなの大したことない」と扱う——こうした反応は、支えのつもりであっても逆効果になり得ます。

部下の話を聴けるマネージャーになるにはで扱った「評価せず、理解しようとし、正直である」という姿勢は、この支えの質を左右する土台です。相談窓口やEAPが外部性・守秘を重視するのも、評価を恐れずに話せる関係を作るためだといえます。

職場でこの効果を活かすには

感情のラベリング、支えられている感覚、孤立のリスク——これらの効果は、特別な仕組みがなくても、日常の会話の中で働きます。上司が部下の話に耳を傾ける1on1、同僚同士の雑談、そして外部の専門家につながる相談窓口やEAP——形はさまざまですが、いずれも「話す・相談する」という行為が持つ効果を、組織の中で機能させる仕組みです。

ラインケアとはが扱う日常的な気づきと声かけ、EAPとはが扱う外部の専門家への相談体制は、どちらもこの効果を土台にしています。従業員数が少なく、産業医や人事部門を置けない会社ほど、こうした仕組みを意図的に用意する意味は大きいといえます。

※ 出典: Lieberman, M.D., Eisenberger, N.I., Crockett, M.J., Tom, S.M., Pfeifer, J.H., & Way, B.M.(2007)"Putting Feelings Into Words: Affect Labeling Disrupts Amygdala Activity in Response to Affective Stimuli." Psychological Science, 18(5), 421-428。Cohen, S., & Wills, T.A.(1985)"Stress, Social Support, and the Buffering Hypothesis." Psychological Bulletin, 98(2), 310-357。厚生労働省委託事業「こころの耳」用語解説「ソーシャルサポート」。Holt-Lunstad, J., Smith, T.B., Baker, M., Harris, T., & Stephenson, D.(2015)"Loneliness and Social Isolation as Risk Factors for Mortality: A Meta-Analytic Review." Perspectives on Psychological Science, 10(2), 227-237。Holt-Lunstad, J., Smith, T.B., & Layton, J.B.(2010)"Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review." PLoS Medicine, 7(7), e1000316。Croezen, S., Picavet, H.S.J., Haveman-Nies, A., Verschuren, W.M., de Groot, L.C.P.G.M., & van't Veer, P.(2012)"Do Positive or Negative Experiences of Social Support Relate to Current and Future Health? Results from the Doetinchem Cohort Study." BMC Public Health, 12, 65。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

貴社の状況に合わせてご相談ください

このガイドの内容を貴社でどう実践するか、東京メンタルヘルスの専門家がご相談に応じます。