クライシス対応

社員の自殺が報道・SNSで広がったとき、企業が行うべきこと

社員の自殺が報道機関やSNSで取り上げられ始めたとき、企業は何をすべきか。取材対応窓口の一本化、実際に取材を受けたときの受け答え、SNS上の投稿への削除依頼や相談窓口の使い方、従業員への配慮をまとめます。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • 社外からの問い合わせに応じる窓口を平時から一つに絞っておくと、取材にもSNSでの拡散にも、発信の食い違いを減らせる
  • 取材を受けたときは事実確認前に即答せず、自殺の手段を描写せず、遺書の詳細には触れず、原因を単純化しない
  • SNS上でプライバシー侵害や名誉毀損にあたる投稿があれば、権利を侵害された従業員本人や代理人がサイト管理者に削除を依頼できる。会社は本人を支援する立場になる
  • 削除や投稿者特定の手続きに迷ったときは無料の公的相談窓口を使えるが、代行や仲裁は行わない
  • 実名や写真を特定され投稿されてしまった従業員がいないか会社として早く気づき、削除依頼や相談窓口の利用につなげる

「社員の自殺について取材したい」——そんな電話が会社にかかってくることがあります。自殺の報道はWHOの手引きが求める抑制的な姿勢が広がっており、社員個人の死という理由だけで大きく取り上げられるとは限りません。過重労働やハラスメントが疑われ、労働基準監督署による書類送検という形で事案が公になったときに、取材につながることがあります。

同じころ、SNSには社名や部署名を挙げた投稿が並び始めているかもしれません。取材とSNSでの拡散、どちらが先に起こるかは決まっていません。

社内への伝え方や、公表するかどうかを遺族の意向に沿って判断する考え方は、社員が自殺したとき、企業が行うべきことで扱っています。取材を受けたときの受け答えと、SNSで拡散したときの対応は、次の通りです。

社外に事実が伝わり始めたとき

取材を受けたとき

事実を確認してから、淡々と伝える

SNSで拡散したとき

削除依頼や相談窓口を使う

平時の備え — 取材対応窓口の一本化

誰が対応を主導するかという役割分担は、危機対応チームの編成と指揮系統で扱っています。対応を主導する人、それを補佐する人、そして主導する人が動けないときに代わる人を、平時のうちに決めておくという考え方です。取材対応に固有なのは、この体制に加えて、社外からの問い合わせに応じる窓口を一つに絞っておくことです。

50人未満の企業には、広報や法務を専任で担う部署がないことがほとんどで、社長や取締役自身がこの窓口を兼ねる形になります。

窓口となる担当者が、事実関係の確認から、答える内容を決めるところまでを一貫して担います。必要な場合は、顧問弁護士など外部の専門家に確認した上で判断します。担当者以外の従業員には、取材を受けても個別に答えず、窓口の連絡先を伝えるだけにとどめるよう、あらかじめ周知しておきます。

担当者以外の誰かが、悪気なく事実と異なる話や確認前の推測を口にしてしまうと、その発言だけが先に広まり、後から窓口が出す訂正が追いつかなくなることがあります。

遺族の意向を確認する窓口も、社員が自殺したとき、企業が行うべきことにある通り一本化しておき、同じ担当者が両方を担う運用もあります。遺族が複数いて意向が分かれる場合も、遺族の意向を確認する窓口が確認と調整を引き受けます。

実際に取材を受けたときの対応

報道機関から取材の申し込みがあったとき、その場で即答する必要はありません。事実関係を確認してから折り返すと伝えるだけでも構いません。

WHO(世界保健機関)が2023年に示したメディア関係者向けガイドラインは、自殺の手段を描写しない、自殺の原因を単純化したり一つの要因に決めつけたりしない、遺書の詳細を報じないことを求めています。本来はメディア自身への呼びかけです。

ただし、手段や遺書の中身を企業自身が明かしてしまえば、報道機関がどれだけ配慮しても、そこから広まってしまいます。加えて、いったん口にした情報は完全には取り消せず、後から出す訂正が最初の情報と同じところまで届くとは限りません。

手段は描写せず、遺書の詳細には触れず、原因を単純化したり憶測で語ったりせず、確認できた事実だけを伝えます。故人を非難する言い方も、過度に美化する言い方も避けます。

遺族が公表を望んでいない事柄には、法令上の義務がある場合を除き、触れません。遺族の意向をどう確認するかは社員が自殺したとき、企業が行うべきことにまとめてあり、その意向を社外に対しても一貫して守ります。

SNSで拡散し始めたときの実務対応

SNSや匿名の掲示板では、記者を介さずに情報が広まります。従業員の実名や写真が勤務先と結びつけて投稿されることもあります。氏名や写真から個人が特定できる投稿がプライバシー侵害や名誉毀損にあたる場合、投稿の対象になった、存命の同僚自身が被害を受けたことになります。

この場合、法律に基づいて削除を求められるのは、原則として権利を侵害された本人、またはその代理人(弁護士等)です。会社が単独で本人に代わって法的請求ができるとは限りませんが、事実確認や証拠の整理、弁護士への相談案内といった形で本人を支援できます。

この手続きの根拠になる法律は、2025年4月1日にプロバイダ責任制限法から名称が変わり、情報流通プラットフォーム対処法と呼ばれています。SNSや匿名掲示板を運営する大規模な事業者に、削除要請への迅速な対応と、削除基準の公表や削除件数の年次報告といった運用状況の透明化を義務づけています。

投稿者を特定して損害賠償請求をしたい場合は、同じ法律に基づく発信者情報の開示請求という手続きもありますが、具体的な要件や進め方は弁護士に相談しながら確認します。

削除の手続きに迷ったときは、会社や本人が、総務省委託の違法・有害情報相談センターに相談できます。相談は無料で、ホームページで利用登録したうえで相談フォームから申し込みます(メールでの相談は受け付けていません)。専門の相談員が対応方法を案内しますが、投稿が権利侵害にあたるかどうかの法的な判断や、削除の代行、投稿者との間の仲裁は行いません。相談者自身が行う手続きを助言する窓口です。

従業員への影響に配慮する

「同僚を亡くして、SNSに何か書きたい」「会社への疑問を発信したい」——そう話す人が職場にいるなら、責める必要はありません。

そのうえで、事実確認前の推測や、遺族が公表していない事実が個人のSNSに投稿されると、遺族の意向に反して事実が広まってしまうことがあります。全社に向けて、会社としての発信は窓口に一本化していること、そうした推測や事実は個人のSNSに書かないでほしいことを伝えます。理由を伝え、質問を受ける窓口も示します。

手段や状況がセンセーショナルに書き込まれた投稿を周囲の従業員が目にすることも、見過ごせません。WHOのガイドラインは主にメディアの報道を対象にしていますが、同じ配慮をSNS上の投稿にも実務として広げておくと安全です。

プライバシーの侵害とは別のこの観点からも、気づいた人は窓口の担当者に伝えます。担当者は、前段の要領で本人を支援します。プライバシーや名誉といった権利が侵害されているかどうかの判断がつかない場合も含めて、違法・有害情報相談センターに相談できます。侵害が明らかであれば、前段の削除依頼も選択肢になります。

実名を投稿された従業員を守る

すでに実名や写真を特定されて投稿されてしまった従業員がいないか、会社として早く気づける体制も必要です。事案の直後は、事案に関係する部署名や、投稿されるおそれのある従業員の氏名など、限られた語で検索して確認する、従業員本人から知らせてもらう社内の窓口を用意しておく、といった備えが役立ちます。

上司や人事は、反論したい、つらいと感じている従業員を、産業医やEAP(従業員支援プログラム)など、心のケアを行う外部の相談窓口につなぐことも選択肢に入れます。動揺した本人への向き合い方や、外部の専門家につなぐ判断の基準は、従業員に大きな衝撃を与える出来事が起きたとき、企業がすべきことで扱っています。

まとめ

取材とSNS、どちらへの対応にも、状況によって判断は変わります。遺族の意向と法令上の義務が競合する場面もあり、一律の答えはありません。それでも、遺族の意向に反しない範囲で新しく分かった事実を反映しつつ、窓口を一本化し事実に基づいて話すという姿勢そのものを変えないでおけば、発信の食い違いや、遺族が望まない情報の拡散を減らせます。平時から窓口と確認の手順を決めておくことが、備えの中心です。

※ 出典: 世界保健機関(WHO)「自殺予防を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2023年版」(日本語訳: 一般社団法人いのち支える自殺対策推進センター)。特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(情報流通プラットフォーム対処法)。制定時の名称は特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)。令和7年4月1日施行。総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」。違法・有害情報相談センター(総務省委託事業)。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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