顧客や取引先からの著しい迷惑行為に対する防止措置は、企業規模を問わずすべての事業主の義務になります。労働施策総合推進法第33条(令和7年法律第63号による改正後)の施行日は2026年10月1日。本日(2026年8月20日)から数えて、残り42日です。
施行まで、あと1か月半
法改正の経緯を振り返ると、準備期間として設けられた時間は決して長くありません。
2025年6月11日
改正法が公布
2026年2月26日
措置の内容を定める指針が告示
2026年7月
事業主向けパンフレットが改訂
現在(2026年8月20日)
施行まで、あと42日
2026年10月1日
施行・防止措置が義務化
顧客等の言動が「社会通念上許容される範囲を超えたもの」に当たるかどうかの詳しい判断基準や、会社が講ずべき措置の内容は、カスタマーハラスメント対策の義務化と中小企業がすべきことにまとめています。
半年前の調査では、義務化を知らない現場が半数を超えていた
義務化まで半年を切った2026年4月、企業で働く男女300名を対象にした調査があります(労務SEARCH調べ)。2026年10月の義務化について、「義務化されることを今回初めて知った」と回答した人が51.3%と過半数を占めました。「義務化は知っているが、準備はまだできていない」も26.7%、「すでに具体的な準備が進んでいる」はわずか7.3%でした。
この調査は企業の人事担当者ではなく、現場で働く従業員個人への調査です。会社としての対応状況を人事担当者が申告したものではありません。調査を実施した労務SEARCHは労務管理関連のサービスを提供する事業者で、対策の遅れを示す結果は同社にとって有利な数字にもなりえます。その点を割り引いても、義務化まで半年を切った時点で、その存在を知らない現場が半数を超えていました。人事や経営層は知っていても、現場の従業員にまで伝わっているとは限らない、ということです。
それから4か月が経ち、施行までの残りは1か月半足らずまで縮まりました。この間にどれだけ準備が進んだかを示す新しい調査は、今のところ見当たりません。
会社の規模が小さいほど、対策が遅れている
東京都産業労働局が2025年10月に実施した調査(2026年3月公表、都内企業4,727社が回答)は、企業自身に対策の実施状況を尋ねています。全体では「取り組んでいる」38.5%、「取り組んでいない」60.1%。従業員規模別に見ると、その差は際立ちます。
対策に取り組んでいない企業に理由を尋ねると、「正当なクレームとの判断の難しさ」29.6%、「ノウハウ不足」23.8%、「発生状況の把握が困難」16.7%の順でした。人手や費用の不足より、「何がカスタマーハラスメントに当たるかの判断」自体への戸惑いが上位に来ています。
この調査は東京都内企業を対象にしたもので、全国の水準をそのまま表すものではありません。東京都には独自の防止条例(2025年4月1日施行)があり、都内企業には条例による後押しも働いているため、全国の未対応率はこれより高い可能性があります。
何から手をつければいいか
措置として求められる内容は、方針の明確化・相談体制の整備・事後対応・抑止措置とプライバシー保護の4つに整理できます(詳細はこちら)。厚生労働省の公式資料にも、施行日までの準備を時系列で示したチェックリストのようなものはありません。措置の項目が列挙されているだけで、どこから手をつけるかは会社ごとの判断に委ねられています。
残り1か月半という期間を踏まえるなら、パワーハラスメント対策で既にある相談窓口や就業規則をそのまま使えないかを最初に確認するのが現実的です。ゼロから制度を作るより、今ある仕組みに一文を加えるところから始められます。
準備の入口として
カスタマーハラスメント対策の義務化は、相手が顧客であるという性質上、これまでのハラスメント対策とは異なる難しさを伴います。それでも、方針の明確化や相談体制の整備は、パワーハラスメント対策で既に取り組んでいることの延長線上にある部分が少なくありません。
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取締役 江原 和比己 コメント
カスタマーハラスメントの相談を受けていて、対応した従業員本人が「自分の対応が悪かったのではないか」と、迷惑行為を受けた側であるにもかかわらず自分を責めてしまう場面によく出会います。
これは、対応の手順があらかじめ決まっていないことの裏返しだと、わたしは思っています。どこまで対応し、どこから上に引き継ぎ、どこから会社として毅然と対応するか。その線引きが事前になければ、現場の一人ひとりがその場その場で判断を引き受けることになります。判断が割れれば、「自分のせいでは」という自責に転じやすくなります。
今回の調査では、義務化を知らない現場が半数を超えていました。方針や手順があったとしても、現場に伝わっていなければ、対応する本人には届いていないのと同じです。方針を決め、周知するという最初の一歩だけでも、現場で一人で抱え込む状況を減らすことにつながります。残りの期間で、その一歩から始めていただければと思います。
※ 江原 和比己(えはら かずひこ)——東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。
※ 本記事は2026年8月20日時点の公開情報に基づいています。最新の情報は厚生労働省の公表資料をご確認ください。
※ 出典: 労働施策総合推進法第33条(令和7年法律第63号による改正後、令和8年10月1日施行)、厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)、厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」。義務化への認知・準備状況の調査は、労務SEARCH(エフアンドエムネット株式会社、2026年4月8日〜22日実施、企業で働く男女300名対象)による。企業規模別の対策実施状況は、東京都産業労働局「令和7年度カスタマーハラスメントに関する実態調査報告書」(2026年3月公表、2025年10月実施、都内企業4,727社回答)による。