相談窓口・EAP(従業員支援プログラム)を検討するときは、費用の前に、従業員にどこまでの支援を用意するかをまず決めます。相談だけを用意すればよいのか、管理職が対応に迷ったときの相談先まで要るのか、ハラスメントや自殺リスクといった危機に対応できる窓口まで備えたいのか。EAPの種類による違いはEAPにはどんな種類があるかで解説しています。この線引きが決まれば、どの方法を取るかも見えてきます。この記事では、労働者数50人未満の会社が使える3つの方法——公的な窓口、事業主団体を通じた助成、有償の相談窓口・EAP——を、それぞれが担う範囲と合わせて説明します。
公的な窓口が担う範囲(地さんぽ)
独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)は、都道府県ごとに産業保健総合支援センターを置いており、その地域窓口として、労働者数50人未満の小規模事業場向けに地域産業保健センター(通称「地さんぽ」)を運営しています。ここが担うのは、労働安全衛生法に基づく健康相談・面接指導という決まった範囲です。医師や保健師による健康相談(メンタルヘルスに関する内容も含む)、残業が多い従業員への医師面接(長時間労働者への面接指導)、事業所を訪問しての保健指導が対象で、どれも無料です。
利用条件は地域によって異なります。たとえば東京産業保健総合支援センターでは、1事業場あたり2回まで、労働者1人あたり2回までという利用回数の制限があります。利用には事前の申し込みが必要なため、自社の所在地を担当する産業保健総合支援センターに問い合わせてください。
従業員がふだんから使える相談窓口までは、地さんぽの範囲に含まれません。そこまでの仕組みを整えたい場合は、次に説明する助成制度や有償サービスを検討することになります。
事業主団体を通じた助成
地さんぽの範囲を超える仕組みを整える場合、費用の一部を支援する制度に「団体経由産業保健活動推進助成金」があります。これは個々の企業が直接申請するものではなく、商工会議所・商工会・事業協同組合といった事業主団体等が、加盟する中小企業に産業保健サービスを提供する費用の一部(原則9割)を助成する制度です。
助成の対象となる産業保健サービスには、公認心理師・産業カウンセラー・臨床心理士等による健康相談対応が含まれ、この相談にはメンタルヘルスに関するものも含まれます。つまり、外部相談窓口・EAPの費用の一部が、この助成金の対象になる可能性があります。ただし申請できるのは自社ではなく事業主団体のため、自社が入っている商工会議所・商工会等が、この助成金を活用しているかどうかを確認します。事業主団体に入っていない場合はこの助成の対象になりません。
この助成金には年度ごとに予算の上限があり、上限に達したら、その年度の受付は終わります。
ふだんから使える相談窓口を持つ場合の、料金の決まり方
従業員がふだんから使える相談窓口を持つ場合は、有償の相談窓口・EAPを契約することになります。多くの事業者の料金は、次の組み合わせで決まります。
- 初期費用は、システム設定や従業員情報の登録にかかる、最初の一度だけの費用です。無料の事業者もあります
- 基本料は、従業員数に応じて金額が変わるか、人数によらない定額かで大きく分かれます
- オプション料金は、対面・オンラインカウンセリングの追加、管理職向け研修、危機対応等、基本料に含まれない対応にかかる費用です
どこまでが基本料に含まれ、どこからがオプションかは事業者によって差があるため、見積もりは単価ではなく、自社の従業員数で計算した年間の合計金額で出してもらいます。
有償サービスの中でも、対応範囲に幅がある
有償の相談窓口・EAPも、事業者によって対応範囲はさまざまです。相談対応だけのものから、管理職への助言・研修・危機対応まで引き受けるものまで幅があります(EAPにはどんな種類があるか)。相談対応だけで足りるのか、管理職が対応に迷ったときの助言まで必要なのか、ハラスメントや自殺リスクといった危機対応まで備えたいのか。冒頭で決めた範囲と比べながら、対応範囲を確認します。事業者ごとの確認項目は中小企業の相談窓口・EAPの選び方チェックリストにまとめています。
3つの方法を並べると、担う範囲と費用の関係は次のようになります。
| 方法 | 担う範囲 | 費用 | 主な条件 |
|---|---|---|---|
| 地さんぽ | 健康相談・面接指導 | 無料 | 利用回数に限りがある |
| 事業主団体の助成 | 産業保健サービス全般(相談対応を含む) | 費用の原則9割を助成 | 事業主団体への加入が必要 |
| 有償サービス | 相談対応から危機対応まで、事業者によって幅がある | 初期費用・基本料・オプション料金 | 契約が必要 |
費用に見合う効果があるかどうかの考え方は相談窓口・EAP導入のメリットと費用対効果の考え方で扱っています。従業員が何を使えるようにしたいかが決まれば、地さんぽ・助成制度・有償サービスのどれを、どこまで組み合わせるかも決まり、事業者に確認すべき見積もりの内容がはっきりします。
※ 出典: 地域産業保健センター(通称「地さんぽ」)の対象・提供内容・費用は、独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)公式サイトおよび厚生労働省「こころの耳」による。利用回数の制限(1事業場2回まで・労働者1人2回まで)は東京産業保健総合支援センターの公表内容による(運用は地域のセンターにより異なる場合がある)。団体経由産業保健活動推進助成金の申請主体・助成対象サービス・助成率・上限額は、独立行政法人労働者健康安全機構「団体経由産業保健活動推進助成金の手引」(令和7年度版)による。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。