統計で見る職場のメンタルヘルス

日本の職場メンタルヘルスに関する統計

厚生労働省の公的統計から、日本の職場メンタルヘルスの実態を整理します。事業所の規模によって、対策への取り組みや相談環境に大きな差があることが分かっています。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • 令和7年度、精神障害の労災請求は4,958件、うち支給決定1,082件。最も多い出来事は上司等からのパワーハラスメント(222件)で、顧客等からの著しい迷惑行為・セクシュアルハラスメントが127件で続く
  • メンタルヘルス対策に取り組む事業所は、50人以上で94.3%、10〜29人で55.3%。法的な枠組みの有無が差につながっていると見られる
  • 10〜29人規模で働く200人に1人が、1年間で連続1か月以上の休業か退職に至っている。頻度が低いことは対策が不要なことを意味しない
  • 相談相手は家族・友人68.6%、上司65.7%に集中し、外部機関の相談窓口は2.2%。用意するだけでは選択肢として認識されない

日本の職場でメンタルヘルスの問題がどれだけ広がっているか、公的統計はどう伝えているのでしょうか。厚生労働省の令和7年度「過労死等の労災補償状況」によれば、仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病したとして労災の請求があった件数は4,958件、このうち労災と認定された支給決定件数は1,082件です。原因(出来事)として最も多いのは「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(222件)で、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」と「セクシュアルハラスメントを受けた」を合わせた127件が続きます(カスタマーハラスメント対策の義務化)。

ただし、この数字は氷山の一角です。労災として認定される精神障害は、発病と業務との因果関係が明確に立証されたケースに限られます。実際に職場でどれだけメンタルヘルスの問題が起きているのか、より広い実態は、厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」(事業所・労働者を対象にした大規模調査)に表れています。


メンタルヘルス対策への取り組み — 事業所規模で30ポイント以上の差

メンタルヘルス対策に何らかの形で取り組んでいる事業所の割合は、全体で63.2%です。しかし、この数字は事業所の規模によって大きく異なります。

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合(事業所規模別)

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合(事業所規模別)
事業所規模割合
50人以上94.3%
30〜49人69.1%
10〜29人55.3%

(厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」, 2025年)

労働者50人以上の事業所ではすでに9割以上が取り組んでいる一方、10〜29人の事業所では半数程度にとどまります。労働安全衛生法上、労働者50人以上の事業所には衛生委員会の設置や産業医の選任が義務づけられており、この法的な枠組みの有無が、取り組み率の差に直結していると考えられます。

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうち、最も多い取組内容は「ストレスチェックの実施」(65.3%)です。事業所規模別に見ると、50人以上で89.8%、30〜49人で57.8%、10〜29人で58.1%となっており、対策全体の取り組み率ほどの開きはありません。

ただしこの数字は、あくまで「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所」を分母にした割合である点に注意が必要です。10〜29人の事業所は、そもそもメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所自体が55.3%にとどまるため、全事業所を分母に置き直すと、ストレスチェックを実施している事業所は3割程度(55.3%×58.1%)まで下がります。50人未満の事業場でストレスチェックの実施が義務になるのは2028年4月1日で、それ以前は努力義務です(詳細はストレスチェック制度と50人未満の事業場)。

不調による休業・退職 — 低いが、ゼロではない実態

メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者、または退職した労働者がいた事業所の割合は、全体で12.8%です。事業所の規模が大きいほどこの割合は上がり、10〜29人の事業所では5.7%、1,000人以上の事業所では91.6%にのぼります。

ただしこの数字だけを見て「小さい会社は不調と無縁」と安心するのは早計です。この割合は「事業所の中に該当者が1人以上いたかどうか」を数えたものなので、従業員数が多い事業所ほど、誰か1人が該当する確率は単純に上がります。規模が大きいほど高く出るのは、この数え方の性質によるところが大きく、額面通りに「小さい会社は安全」と読むべき数字ではありません。

実際に、10〜29人規模の会社で働く労働者に絞ると、1年間で連続1か月以上の休業または退職に至った人の割合は0.5%(休業0.3%、退職0.2%)です。全産業・全規模の労働者を合わせた平均は0.7%(休業0.5%、退職0.2%)なので、10〜29人規模はこの平均を下回っており、他の規模と比べて際立って高い数字ではありません。それでもゼロではなく、10〜29人規模の会社で働く200人に1人が、1年のうちにこれに該当している計算になります。

一方で、10〜29人の事業所のうちメンタルヘルス対策に何らかの形で取り組んでいるのは55.3%にとどまります(前節参照)。発生の頻度が低いことは、対策の必要性が低いことを意味しません。むしろ頻度が低いからこそ「うちには関係ない」という思い込みが生まれやすく、実際に不調が起きたときに対応の仕組みを持たない事業所が半数近くを占めている、という状態になっています。

相談は身近な人に集中 — 外部の専門窓口はほとんど選ばれていない

仕事や職業生活のストレスについて「相談できる人がいる」と答えた労働者は94.6%にのぼります。相談できる人の内訳(複数回答、相談できる人がいる労働者を100とした割合)を見ると、次のようになっています。

仕事や職業生活のストレスの相談相手(複数回答)

仕事や職業生活のストレスの相談相手(複数回答、相談できる人がいる労働者を100とした割合)
相談相手割合
家族・友人68.6%
上司65.7%
外部の相談窓口(EAP等)2.2%

(厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」, 2025年)

最も多いのは「家族・友人」(68.6%)、次いで「上司」(65.7%)です。一方、「事業場が契約した外部機関のカウンセラー、こころの耳電話相談等の相談窓口」を挙げた労働者は2.2%にとどまります。

実際に相談したことがある労働者(相談できる人がいる労働者のうち74.7%)の相談相手を見ても、外部の専門相談窓口を選んだのは1%に満たない水準です。事業所規模10〜49人に絞ると、外部相談窓口を選択肢として挙げた労働者はさらに少なく0.3%、実際にそこへ相談した労働者は0.1%にとどまります。

この数字が示しているのは、外部の相談窓口が「存在しない」という以上に、「労働者の選択肢として認識されていない」という状態です。相談先を用意するだけでなく、その存在を周知し、実際に使われる状態まで持っていく取り組みがなければ、統計上の数字は変わりません(周知の実務は相談窓口の社内周知文テンプレート、社員の不調への早期対応は社員の不調に気づいたときの対応フローを参照)。

統計が示す、50人未満の会社が向き合う現実

これらの統計をまとめると、次の点が浮かび上がります。

  • メンタルヘルス対策への取り組みは、事業所規模が小さいほど手薄になりやすい(10〜29人で55.3%、50人以上で94.3%)
  • ストレスチェックは、対策に取り組んでいる事業所の中では50人未満でも半数以上が実施している。ただし50人未満の事業所全体では、対策自体に着手していない割合がまだ大きい
  • 不調による休業・退職は、小さい会社でも低いながら実際に起きている(10〜29人で約200人に1人)。しかし対策への取り組みは追いついていない
  • 相談先は身近な人に偏り、外部の専門窓口はほとんど選択肢に上がっていない

これらの数字は、50人未満の会社に「何もしなくていい理由」を示しているのではなく、「何から着手すべきか」の手がかりを示しています。小さな会社に外部の相談窓口を導入する際の考え方は、中小企業の相談窓口・EAPの選び方チェックリストにまとめています。

※ 出典: 厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」(令和7年8月7日公表、調査対象期間は令和5年11月1日から令和6年10月31日)。厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」(令和8年7月15日公表)。労働安全衛生法第13条・第18条、労働安全衛生法施行令第5条・第9条。厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要」、「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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