心の健康づくり

セルフコンパッションとは — 自分を責めない習慣のつくり方

セルフコンパッションとは、自分の失敗や苦しみに、友人にかけるような思いやりを向ける態度のこと。自尊心との違いと、「甘え」ではないという研究の裏づけ、日常で実践できる具体的な習慣のつくり方をまとめます。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • セルフコンパッションは「自分への優しさ」「共通の人間性」「マインドフルネス」の3要素からなる、クリスティン・ネフが2003年に提唱した心理学の概念
  • 自尊心と異なり成功・失敗という結果に左右されず、安定した自己価値感を保てる。日本人を対象にした調査でも不安・抑うつとの負の相関が確認されている
  • 「甘え」や「言い訳」ではない。自分の失敗を受け止めやすくなることで、責任を取り改善しようとする動機づけがかえって高まるという実証研究がある
  • セルフコンパッション・ブレイクという3つの言葉を唱えるだけの実践法があり、数分で日常の習慣として取り入れられる

「会議で言葉に詰まった」「取引先へのメールで言い回しを間違えた」——こうした小さな失敗のあと、自分を責め続けてしまうと、次に何をするか考える余力が残らなくなることがあります。自分を厳しく責めることは、必ずしも改善への近道にはなりません。心理学ではこの「自分への向き合い方」が研究されており、セルフコンパッション(自分自身への思いやり)と呼ばれています。米テキサス大学オースティン校のクリスティン・ネフが2003年に提唱した考え方で、何を指す言葉か、どう実践すればよいのかをまとめます。

セルフコンパッションを支える3つの要素

ネフは、セルフコンパッションを「親しい友人が苦しんでいるときにかける思いやりを、自分自身にも向けること」だと説明しています。友人が失敗して落ち込んでいたら、責めるのではなく「つらかったね」と受け止め、必要であれば力になろうとします。セルフコンパッションは、この向き合い方を自分自身に対しても行うということです。

ネフはこれを、次の3つの要素からなるものとして説明しています。

要素 対になる態度 内容
自分への優しさ 自己批判 苦しんだり失敗したりしたときに、自分を責め立てるのではなく、思いやりを持って接すること
共通の人間性 孤立感 自分の失敗や苦しみを、自分だけが抱える特別なものではなく、人間である以上誰もが経験するものだと捉えること
マインドフルネス 過剰同一化 つらい感情を無視も誇張もせず、今起きていることをありのままに受け止めること

3つは互いに補い合う関係にあります。自分の失敗が「誰にでも起こること」だと捉えられれば孤立感は和らぎ、責める気持ちも収まりやすくなります。責める気持ちが収まれば、つらい感情に飲み込まれずに受け止めやすくなります。3つのどれか一つだけを意識するより、セットで捉えるほうが実践しやすいとされています。

自尊心(セルフエスティーム)との違い — 失敗したときにこそ差が出る

「自分を大切に思う」という点で、セルフコンパッションは自尊心と似ているように見えます。しかし両者には、はっきりした違いがあります。自尊心の多くは「人より優れている」「うまくいっている」という評価に支えられており、成功しているときは高まりますが、失敗したときには支えになりません。セルフコンパッションは逆に、失敗したときにこそ働きます。うまくいかなかった自分を優劣で測るのではなく、一人の人間として受け止める態度だからです。

駒澤大学の有光興記が2014年に日本人を対象に発表した研究では、セルフコンパッションが高い人ほど自尊心や幸福感も高く、不安や抑うつは低いという結果が出ました。この関係は自尊心の高さだけでは説明がつかず、セルフコンパッションが自尊心とは別に、独自に心の健康と結びついていることを示しています。この考え方を最初に提唱したネフとフォンクによる2009年の研究でも、同様の傾向が確認されています。セルフコンパッションが高い人は自尊心が高い人よりも安定した自己価値感を保ち、自尊心が高い人ほど強く出るナルシシズムの傾向も見られませんでした。

「甘え」ではない — よくある誤解とその根拠

「自分を責めない」と聞くと、成長への意欲を失わせるのではないか、失敗の責任から逃げることになるのではないか、という懸念を持たれることがあります。しかし、この2つはいずれも研究によって否定されている誤解です。

米カリフォルニア大学バークレー校のブラインズとチェンが2012年に発表した実験研究では、セルフコンパッションを意識するよう促された参加者のほうが、自分の弱点を改善しようとする意欲が高く、試験に失敗したあとの勉強時間も長いことが示されました。自分を追い詰めなくても、次の行動につながりやすいということです。有光の研究も、セルフコンパッションは自己愛・わがまま・自己満足・自分を哀れむ気持ちとは違うと指摘しています。これらは結果的に自分を傷つけることにつながる考え方である一方、セルフコンパッションは失敗をありのままに受け止め、責任を引き受けて新しい行動につながる点で異なります。

ただし、日本の職場でこの感覚がすぐになじむとは限りません。有光の研究は、日本人が欧米に比べて自己批判を肯定的に捉え、失敗を自分のせいだと考えてもなお挑戦をやめない傾向が強いことを指摘しています。「自分を責めることが頑張る力になっている」という実感自体は、否定しなくてよいものです。セルフコンパッションが問いかけているのは、責める強さではなく責め方です。追い詰め続けることと、受け止めて次に進むことの、どちらが実際の行動につながっているかという点にあります。

自分を責めない習慣のつくり方 — セルフコンパッション・ブレイク

セルフコンパッションは、知識として知るだけでなく、日常の習慣として取り入れることで働き始めます。ネフが考案した「セルフコンパッション・ブレイク」は、3つの要素を短い言葉に置き換えて、つらい出来事が起きたときにその場で使える方法です。

  1. これは、つらい瞬間だ」と、起きていることをまず言葉にして認めます(マインドフルネス)
  2. つらさは、誰の人生にもあるものだ」と、自分だけが特別に苦しんでいるのではないと思い出します(共通の人間性)
  3. 自分にやさしくできますように」と、責めるのではなく労わる言葉を自分にかけます(自分への優しさ)

この3つを、心の中で唱えるだけでも構いません。5分程度あれば十分で、特別な訓練は必要ありません。仕事でミスをした直後、会議で発言がうまくいかなかったとき、部下や取引先とのやり取りで落ち込んだときなど、自分を責める考えが浮かんだ瞬間にこの3つを思い出すことから始められます。慣れないうちは違和感があっても、繰り返すうちに、自分を責める代わりの選択肢として定着していきます。

ネフとガーマーによる2013年の研究では、この実践を含む8週間のプログラム(マインドフル・セルフ・コンパッション)に参加した人は、開始前と比べてセルフコンパッションが高まり、抑うつ・不安・ストレスの低下も報告されています。

職場でどう活かすか — 会社・管理職にできること

セルフコンパッションは個人の習慣ですが、その根づきやすさは職場の環境によって変わります。ネフが2023年に発表した研究レビューでは、セルフコンパッションが高い人ほど仕事上の課題に対処する自信(自己効力感)を持ちやすいとまとめられています。カウンセラーや医師、教員など人と向き合う仕事に就く人を対象にした研究では、燃え尽き(バーンアウト)や疲労が少ないことも確認されています。逆に、失敗を厳しく責め立てる職場の空気は、この態度を身につけることを難しくします。

会社・管理職にできることは、大きく2つあります。一つは、部下がミスを認めやすい空気をつくることです。ミスの報告を頭ごなしに責めるのではなく、何が起きたかを一緒に整理する姿勢は、部下自身が自分を責めすぎずに次の行動に向かう助けになります(心理的安全性を高める3つの実践)。もう一つは、管理職自身がこの態度を実践して見せることです。自分の失敗を過度に責めず、淡々と次の対応に移る姿は、部下にとって「失敗しても大丈夫だ」という具体的なお手本になります。

50人未満の会社では、経営者自身が最も自分を責めやすい立場に置かれがちです。相談できる相手が少なく、判断の結果を一人で引き受ける場面が多いためです(経営者・一人社長のバーンアウトに、誰が気づき、どう備えるか)。従業員に向けた話としてだけでなく、経営者自身がこの習慣を取り入れる意味も大きいといえます。

※ 出典: Neff, K.D.(2003)"Self-Compassion: An Alternative Conceptualization of a Healthy Attitude Toward Oneself." Self and Identity, 2(2), 85-101、および提唱者本人が運営するself-compassion.org「What is Self-Compassion?」、同サイトが公開するNeff, K.D."The Five Myths of Self-Compassion"(Greater Good Magazine掲載記事)。Neff, K.D., & Vonk, R.(2009)"Self-Compassion Versus Global Self-Esteem: Two Different Ways of Relating to Oneself." Journal of Personality, 77(1), 23-50。Breines, J.G., & Chen, S.(2012)"Self-Compassion Increases Self-Improvement Motivation." Personality and Social Psychology Bulletin, 38(9), 1133-1143。有光興記(2014)「セルフ・コンパッション尺度日本語版の作成と信頼性,妥当性の検討」心理学研究85巻1号50-59ページ。Neff, K.D.(2023)"Self-Compassion: Theory, Method, Research, and Intervention." Annual Review of Psychology, 74, 193-217。Neff, K.D., & Germer, C.K.(2013)"A Pilot Study and Randomized Controlled Trial of the Mindful Self-Compassion Program." Journal of Clinical Psychology, 69(1), 28-44。セルフコンパッション・ブレイクの実践手順はGreater Good Science Center(UCバークレー校)「Greater Good in Action: Self-Compassion Break」による。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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