心の健康づくり

ワークライフバランスを保つための4つの工夫

仕事から離れて心身を回復できるかどうかは、休みの長さではなく過ごし方の質で決まります。心理学の研究が示す4つの回復経験から、ワークライフバランスを保つ具体的な工夫を整理します。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

更新 読了目安 5分

この記事の要点

  • ゾンネンターグらによる仕事からの回復経験は、心理的に仕事から離れる、緊張をゆるめる、達成感を得る、自分で選べるの4つ
  • 4つのうち心理的に仕事から離れる経験が、心身の不調・燃え尽き・気分の落ち込み・睡眠の問題ともっとも強く関連していた
  • 残業が多く仕事に追われているほど、その心理的に離れる経験がとりわけ妨げられる。忙しさ自体が切り替えを難しくしている
  • 会社が直接働きかけられるのは心理的に離れる・緊張をゆるめるの2つ。管理職が終業後にメールを送らない姿を見せることが部下への許可になる

「ワークライフバランス」という言葉が広まった一方で、実際に何をすればいいのかは、はっきりしないままになりがちです。休みを長く取ればいい、というほど単純ではありません。仕事から離れている時間に心と体がどう回復しているか、その中身が実感を大きく左右します。ドイツ・コンスタンツ大学のザビーネ・ゾンネンターグ教授らが2007年に発表した研究は、仕事から回復する経験を4つに分けて説明しています。

仕事から回復する4つの経験

ゾンネンターグらは、仕事のストレスから離れて心身を立て直す経験を、次の4つに分けられるとしています。

経験 内容
心理的に仕事から離れる 仕事のことを考えない時間を持てているか
緊張をゆるめる 心身の力を抜き、落ち着いた状態になれているか
達成感を得る 仕事以外の場で「できた」という感覚を持てているか
自分で選べる 余暇の過ごし方を自分で決められているか

4つのうち、心理的に仕事から離れることの影響がとりわけ大きいことも分かっています。同じ研究では、心身の不調・燃え尽き・気分の落ち込み・睡眠の問題と、4つの経験それぞれとの関連を調べたところ、心理的に仕事から離れる経験がもっとも強い関連を示しました。研究チームは、この結果について「心理的に仕事から離れることが、4つの経験の中でもっとも重要である可能性を示している」と述べています。

4つの経験は、日常でどう現れるか

心理的に仕事から離れる — 帰宅後も頭の中を仕事のままにしない

物理的に職場を離れることと、心理的に仕事から離れることは別物です。体は家にあっても、頭の中で仕事の段取りを考え続けていれば、心身は仕事をしているときと同じままになります。終業後の仕事の連絡を見ない時間を決める、寝る前に翌日の仕事を考え込まないようにするなど、こうした切り替えを自分から意識して行うことが必要になります。

同じ研究では、仕事に追われている感じや残業の多さがあるほど、この「心理的に離れる」経験がとりわけ妨げられることも分かっています。忙しさそのものが、切り替えを難しくしているということです。残業や忙しさがずっと続いている場合の兆候は、バーンアウトの兆候の見分け方で扱っています。

緊張をゆるめる — 意図してリラックスする時間をつくる

散歩、音楽を聴くこと、瞑想、筋肉の緊張をゆるめる練習など、形はさまざまですが、共通するのは、人付き合いに気をつかったり、体や頭をあまり使ったりしなくてよい活動だという点です。研究では、自然の中を歩くこと、音楽を聴くこと、瞑想、筋肉をわざと緊張させてからゆるめる練習(漸進的筋弛緩法と呼ばれます)が、緊張をゆるめる経験につながる具体例として挙げられています。特別な訓練は必要なく、気持ちや体への負担が少ない時間をどれだけ持てるかが鍵になります。

達成感を得る — 仕事以外の場で「できた」という感覚を持つ

語学のレッスンを受ける、山に登る、新しい趣味を始める、ボランティア活動に参加するといった活動は、仕事とは別の場所で自分の力を試し、うまくいったという感覚をもたらします。この経験は、他の3つと違って多少の頑張りが要りますが、それでも仕事からの回復に役立つとされています。仕事以外の場で新しい力や自信を積み上げることが、仕事のストレスですり減った心の力を補うことにつながります。

自分で選べる — 余暇の過ごし方を自分で決められること

何をして過ごすか、いつ・どのようにそれをするかを自分で決められる感覚も、回復には欠かせません。グリフィンらが2002年に発表した追跡調査では、自宅で過ごし方を自分で選べないと感じている人ほど、数年後に気分の落ち込みが強くなる傾向が見られました(男性ではさらに不安も強くなる傾向がありました)。仕事の裁量については語られる機会が多いものの、仕事を離れた時間にどれだけ自分で選べるかも、同じように心身に影響するということです。

会社ができること — 従業員の回復を妨げない

4つの経験のうち、会社が直接働きかけられるのは「心理的に離れる」「緊張をゆるめる」の2つです。「達成感」「自分で選べる」は、従業員本人の工夫に委ねる部分が大きくなります。終業後の連絡を控える、休暇中は業務の相談を持ち込まないといったルールを徹底するだけでも、従業員が心理的に仕事から離れやすくなります。管理職自身が終業後にメールを送らない、休暇中に部下へ連絡しないという振る舞いを見せることも、同じくらい効果があります。言葉で「休んでいい」と伝えるより、実際に休んでいる姿を見せるほうが、部下にとっての許可になります。有給休暇の取得を促す、始業・終業時刻に柔軟性を持たせるといった制度面の施策は、職場のウェルビーイングを高める施策集の「ワークライフバランスの推進」にまとめています。

在宅勤務のように、職場と自宅の境界がもともと曖昧になりやすい働き方も増えています。物理的に机を離れるだけでは心理的に離れたことにはならないため、始業・終業のタイミングを本人が意識しやすい工夫(作業する部屋を分ける、パソコンを閉じる、退勤の合図となる行動を決めておく等)が、いつもの働き方以上に必要になります。

50人未満の会社での実践

経営者自身が、この4つの経験のバランスを崩しやすい立場にあることにも注意が必要です。経営判断の裁量が大きい分、自分で選べる経験には恵まれていても、常に経営のことが頭から離れないという点では、心理的に離れる経験がもっとも欠けやすくなります。人事の専任担当者を置けない会社ほど、まずは残業時間の管理と終業後の連絡ルールという、会社として手をつけやすい2点から始め、管理職自身も含めて実践するという順番が現実的です。

※ 出典: Sonnentag, S., & Fritz, C.(2007)"The Recovery Experience Questionnaire: Development and Validation of a Measure for Assessing Recuperation and Unwinding From Work." Journal of Occupational Health Psychology, 12(3), 204-221。Griffin, J.M., Fuhrer, R., Stansfeld, S.A., & Marmot, M.(2002)"The Importance of Low Control at Work and Home on Depression and Anxiety: Do These Effects Vary by Gender and Social Class?" Social Science & Medicine, 54, 783-798。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

貴社の状況に合わせてご相談ください

このガイドの内容を貴社でどう実践するか、東京メンタルヘルスの専門家がご相談に応じます。