職場のウェルビーイングを高めようとしても、何をもって施策と呼ぶのか、どこから手をつけるのかが決まらないことがあります。会社が動かせるのは、働き方の仕組み、職場での関わり方、個々の事情への配慮といった範囲です(ウェルビーイングを構成する要素そのものは職場のウェルビーイングを支える5つの要素で扱っています)。
その範囲で何から着手するかを考えるとき、判断材料になるのが経済産業省が推進する「健康経営優良法人」認定制度です。中小規模の法人が取り組む施策を、評価項目として具体的に並べています。
施策の全体像 — 健康経営優良法人が示す9つの評価項目
健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定要件には、①から⑰までの評価項目が並んでいます。このうち働き方や職場の関係、個々の事情への配慮に関わる9項目を、次の3つの区分にまとめました。
| 区分 | 評価項目 |
|---|---|
| 働き方の基本を整える | ヘルスリテラシー向上のための教育機会/ワークライフバランスの推進/仕事と育児・介護の両立支援 |
| 不調を未然に防ぐ | コミュニケーションの促進/長時間労働の予防と事後対応/心の健康保持・増進 |
| 個々の事情に配慮する | 女性の健康保持・増進/高年齢従業員への配慮/私病の治療と仕事の両立支援 |
残る8項目は2つに分かれます。1つは、健康診断を受けてもらう、受けるよう促す、50人未満の事業場でストレスチェックを実施するといった、従業員の健康課題を把握するための項目です。もう1つは、保健指導・食生活・運動・感染症予防・喫煙対策といった、身体面の健康づくりに関わる項目です。
このうち50人未満の事業場のストレスチェックはストレスチェック制度と50人未満の事業場で扱っています。
働き方の基本を整える3つの施策
ヘルスリテラシー向上のための教育機会
ヘルスリテラシー(健康に関する情報を理解し、日々の行動に活かす力)を高めるため、管理職または従業員に教育の機会を設ける取り組みです。まとまった研修でなくても、朝礼や社内報で基本的な知識を共有する程度から始められます(会社が行う具体的な支援は従業員のセルフケア支援で扱っています)。
ワークライフバランスの推進
有給休暇の取得を促す、残業時間を管理する、始業・終業の時刻を事情に応じて変えられるようにする、といった取り組みです。
仕事と育児・介護の両立支援
育児や介護をしながら働く従業員が、無理なく仕事を続けられるようにする取り組みです。2025年に施行された育児・介護休業法改正のポイントを含め、育児・介護と仕事の両立を支える、上司・同僚にできることで扱っています。
不調を未然に防ぐ3つの施策
コミュニケーションの促進
日常的に話す機会を増やす取り組みです。上司と部下が1対1で話す時間や、雑談の時間を意識して設けることも含まれます。話すこと自体が持つ効果は対話・相談がもたらすメリット、管理職の聴き方は部下の話を聴けるマネージャーになるにはで扱っています。
発言しやすい場をつくる実践は、心理的安全性を高める3つの実践にまとめています。
長時間労働の予防と事後対応
業務量や配分を見直して長時間労働を防ぎ、それでも続いてしまう従業員には面談などで対応します。長時間労働を放置した場合に会社が負うコストはバーンアウトが会社にもたらすコスト、燃え尽きの兆候に早く気づく方法はバーンアウトの兆候の見分け方にまとめています。
心の健康保持・増進
メンタルヘルス不調の予防や早期発見に向けた取り組みです。厚生労働省の指針が示す「4つのケア」のうち管理職が担う部分はラインケアとは、不調に気づいたときの対応フローは社員の不調に気づいたときの対応フローで扱っています。
個々の事情に配慮する3つの施策
女性の健康保持・増進
月経に伴う不調や更年期など、女性の健康課題への理解を深め、相談しやすい環境を整えます。更年期については、男性に起きる場合も含めて更年期の不調がある従業員への対応にまとめています。
高年齢従業員への配慮
高年齢の従業員の体力や健康状態に応じて、業務内容や働き方を調整します。
私病の治療と仕事の両立支援
がんなど、業務によらない病気(私病)の治療をしながら働く従業員を支える取り組みです。会社の努力義務と支援の進め方は治療と仕事の両立支援とは、メンタルヘルス不調による休職からの復職支援は復職支援の基本で扱っています。
50人未満の会社での実践 — まず何から着手するか
9項目すべてに同時に取りかかる必要はありません。どの項目から着手するかの順番は、認定制度も示していません。そこで、次のような決め方が考えられます。
人事の専任担当者を置けない会社ほど、自社で起きている課題に近い1〜2項目から着手し、定着してから次に広げる進め方が現実的です。長時間労働が目立つなら「長時間労働の予防と事後対応」、相談の声が上がりにくいなら「コミュニケーションの促進」が入口になります。
どの課題から手をつけるか迷う場合は、職場のストレス要因を把握する方法も参考になります。
着手したあとは、その取り組みで職場の何が変わったかを自社で確かめることになります。認定制度でも、取り組みの評価・改善は必須の要件に入っています。
何をもって変わったと見るかは、着手するときに決めておきます。相談が月に1件でも上がるようになったか、といった形です。決めておくと、あとで続けるか形を変えるかの判断がつきます。
※ 出典: 「健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)認定要件」、2026年9月11日閲覧。「健康経営優良法人2027 中小規模法人部門 申請のポイント(申請手引書)」、2026年9月11日閲覧。経済産業省「ACTION!健康経営」ポータルサイト、2026年9月11日閲覧。厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(健康保持増進のための指針公示第3号)、2006年3月、2026年8月6日閲覧。労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(いずれもe-Gov法令検索)、2026年8月18日閲覧。評価項目①〜⑰の名称と区分、取り組みの評価・改善が認定の必須要件であることは認定要件による。健康経営優良法人認定制度を経済産業省が平成28年度に創設したことは、「ACTION!健康経営」の制度概要による。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。