「あの人は意欲的で頑張り屋だから」。バーンアウト(燃え尽き症候群)に至る前の段階は、周囲からはむしろそう見えていることが少なくありません。心理学者ハーバート・フロイデンバーガーと、共同研究者のゲイル・ノースが唱えた12段階モデルは、この頑張りの段階から深刻な消耗に至るまでの経過を、順を追って描いています。
12段階モデルとは — フロイデンバーガーとノースが描いた進行の過程
アメリカの心理学者ハーバート・フロイデンバーガーは、1974年の論文で「バーンアウト」という概念を初めて学術的に扱いました。言葉そのものは彼が作ったものではなく、もともとは薬物の常用者が陥る無感動・無気力の状態を指す俗語で、それを借りて使ったものです。彼が保健施設で働いていたとき、同僚たちが1年余りのうちに、少しずつ仕事への意欲やエネルギーを失っていく様子を目にしたことがきっかけだったとされています(久保, 2007)。
その後、フロイデンバーガーは共同研究者のゲイル・ノースとともに、バーンアウトに至る過程を12の段階に分けて描くモデルを示しました。最初の段階は「自分の力を証明しようとする衝動」、最後の段階は「完全な消耗」です。
このモデルは、産業保健分野の学術誌に発表された、オーストリアの研究者によるバーンアウトスクリーニング尺度の開発研究(Ponocny-Seliger & Winker, 2014)にも土台として使われています。
ここで押さえておきたいのは、この12段階が、誰もが同じ順序でひとつずつ通る階段ではないということです。唱えた本人たちも、段階が入れ替わったり、一部が目立たないまま進んだりすることがあると断っています。順番に一致するかどうかを確かめることよりも、複数の段階が同時に見られるかどうかに気を配ってください。
WHOの定義による3つの次元(バーンアウトの兆候の見分け方)が、ある時点の状態を切り取る物差しだとすれば、この12段階モデルは、そこに至るまでの歩みを時間の流れに沿って描いたものです。両者は矛盾するものではなく、補い合う関係にあります。
12段階の一覧
| 段階 | 呼び方 | 具体的に何が起きるか |
|---|---|---|
| 1 | 自分の力を証明しようとする衝動 | 人一倍の意欲を見せようとし、自分の限界を超えて仕事に打ち込み始める |
| 2 | いっそう働く | 人に任せられず、何もかも自分一人で、しかもすぐに片づけようとする |
| 3 | 自分のことを後回しにする | 休息や食事がおろそかになり、飲酒・喫煙・カフェインの量が増える |
| 4 | 不調のサインを見なかったことにする | 体の不調が出ても働き続け、うっかりミスや遅刻・物忘れが増える |
| 5 | 価値観が変わる | 仕事が生活の中心になり、それまで支えだった友人関係や趣味が負担に感じられ始める |
| 6 | 問題を認めなくなる | 無理をしている自覚がなくなり、皮肉っぽさやいらだちが目立つようになる |
| 7 | 人との関わりを避け始める | 人と会うことが負担になり、必要最低限のやり取りしかしなくなる |
| 8 | 周囲から見て明らかな変化が出る | 無関心や過剰な反応、人を疑うような態度が目立ち始める |
| 9 | 離人感 | 自分が自分でないような、機械のように働いているだけの感覚になる |
| 10 | 内側が空っぽになる感覚 | 恐怖感やパニック発作を伴いながら、その日その日をやり過ごすようになる |
| 11 | 抑うつ状態 | 強い絶望感や自己嫌悪が続き、消えてしまいたいという考えが浮かぶこともある |
| 12 | 完全な消耗 | 心身が壊れ、医療の助けが欠かせなくなる。自分を傷つける危険がもっとも高い段階 |
4つの局面で読み解く
12段階を一つずつ覚えるより、次の4つの局面としてつかんでおくほうが、実際の職場では役に立ちます。放置すると、局面は右へと進んでいきます。
12段階を4つの局面で読み解く
第1〜3段階
自分を追い込む。周囲には意欲的にしか見えない
第4〜6段階
無理を重ねながら働き続ける。ミスや遅刻など、小さなサインが出始める
第7〜9段階
人との関わり方が変わる。周囲にもはっきりと分かる変化が現れる
第10〜12段階
心身の危機。医療の助けが欠かせなくなる
局面ごとに、経営者・管理職は何をすべきか
第1〜3段階 — 気づくことがいちばん難しい局面
この局面にいる人は、周囲からは「意欲的」「頑張り屋」にしか見えません。本人も、無理をしているという自覚が薄いことがほとんどです。この局面での個別の気づきに頼るより、そもそも進行が始まりにくい職場をつくっておくことのほうが役に立ちます。仕事の量・裁量・役割のどこに負担が偏っているかは、バーンアウトの主な原因にまとめています。
第4〜6段階 — 小さなサインが出始める局面
うっかりミスや遅刻・物忘れが増え、皮肉っぽさやいらだちが目立つようになります。この局面から、周囲にも気づける小さなサインが出始めます。まだ「調子が悪いだけ」と見過ごされやすい段階ですが、こうした変化が続いているようなら、早めに声をかけておくことが後の対応を軽くします。「いつもと違う」と感じたときの動き方は、社員の不調に気づいたときの対応フローにまとめています。
第7〜9段階 — 周囲にはっきり変化が見える局面
人との関わりを避け始め、態度や行動の変化が明らかになります。自分が自分でないような感覚(離人感)を訴えることもあり、周囲から見ても「様子がおかしい」とはっきり分かる局面です。バーンアウトの兆候の見分け方が示す3つの次元も、この局面での見分けに役立ちます。ここまで進んでいる場合は、様子見を続けず、社員の不調に気づいたときの対応フローの「気づく・声をかける・聴く・つなぐ」の流れに沿って動いてください。
第10〜12段階 — 専門家の力が欠かせない局面
内側が空っぽになる感覚や抑うつ状態、そして完全な消耗に至るこの局面では、経営者・管理職による声かけだけでは対応できません。「消えてしまいたい」といった言葉が出たときや、様子が切迫しているときは、通常の対応フローを飛ばして、社員の不調に気づいたときの対応フローの「緊急のとき」に沿って直ちに動いてください。
会社には従業員の心身の健康に配慮する法律上の義務(安全配慮義務)があります。ここまでサインが積み重なった状態を放置することは、この義務を果たせていないと見なされやすくなります。
気づいたあとにすべきこと
どの局面で気づいたとしても、気づいた後に仕事の量や裁量、役割をどう調整するかという中身が、実際の回復を左右します。具体的な調整の進め方はバーンアウトからの回復プランの作り方にまとめています。
12段階のどこにいるかを正確に見極めることよりも、早い段階ほど周囲には意欲的にしか見えないということ自体を知っておくことが、見過ごしを防ぐ土台になります。
※ 出典: 12段階モデルは Freudenberger, H. J., & North, G.『Women's Burnout: How to Spot It, How to Reverse It, and How to Prevent It』(Doubleday, 1985年)で提示されたものとされる(原著に直接あたることができず、複数の二次情報で内容が一致することを確認した段階)。久保真人「バーンアウト(燃え尽き症候群)ヒューマンサービス職のストレス」独立行政法人労働政策研究・研修機構『日本労働研究雑誌』No.558(2007年1月号)——フロイデンバーガーが1974年の論文でバーンアウトの概念を初めて学術的に扱ったことの出典として使用。Ponocny-Seliger, E., & Winker, R.「12-Phasen-Burnout-Screening」Arbeitsmedizin, Sozialmedizin, Umweltmedizin, 49号(2014年)927-935頁——12段階モデルを土台にしたスクリーニング尺度の開発研究。世界保健機関(WHO)「Burn-out an "occupational phenomenon": International Classification of Diseases」(2019年5月28日)。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。