バーンアウト・過重労働

バーンアウトが会社にもたらすコスト

バーンアウトはWHOの定義上、生産性の低下という次元を含む状態です。経済産業省・厚生労働省などの公表データから、会社がどのような形でコストを負っているのかを整理します。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • WHOのICD-11はバーンアウトの3つの次元の一つに「職業上の効率性の低下」を挙げており、定義そのものに生産性の低下が含まれている
  • 経済産業省が健康問題全般で試算した健康関連総コストは従業員1人当たり平均72.5万円、うち8割近くは出勤しても力を出せないプレゼンティーイズム
  • マイナビキャリアリサーチLabの調査では、正社員の17.3%が現在バーンアウトを感じており、20〜30代の管理職では36.3%と他の層より高い
  • 厚生労働省の調査では、仕事のストレスを相談できる人が「いる」労働者は94.6%だが、そのうち実際に相談したことがある人は74.7%にとどまる

「あの人はもともと真面目だから」——バーンアウト(燃え尽き症候群)に至った社員を、本人の性格や気の持ちようの問題として片づけていないでしょうか。実際には、生産性の低下・欠勤・離職という形で、会社の収支に影響します。何が、なぜコストになるのかを整理します。


バーンアウトとは — 定義に「効率性の低下」を含む状態

世界保健機関(WHO)は、国際疾病分類の第11版(ICD-11)で、バーンアウトを「慢性的な職場ストレスが適切に管理されなかった結果として生じる症候群」と定義しています。疾病そのものではなく、職業に関連する現象として位置づけている点が特徴です。

ICD-11はバーンアウトの特徴を3つの次元で説明しています。

  • エネルギーの枯渇感・疲労感
  • 仕事への精神的な距離の増加、またはシニシズム(冷笑的な態度)
  • 職業上の効率性の低下

このうち3つめの「効率性の低下」は、出勤はしていても本来の力を発揮できていない状態を指します。これは、経済産業省の統計で使われるプレゼンティーイズムという概念と重なる状態です。以下では、この言葉を使って規模感を見ていきます。バーンアウトは定義そのものの中に、生産性低下という経営上のコストを含んでいることになります。

見えない生産性低下は、健康問題全体の損失の大半を占める

プレゼンティーイズムがどれほどの規模になりうるかについては、経済産業省が2016年に発行した「企業の『健康経営』ガイドブック」の分析が手がかりになります。同ガイドブックは特定の疾患に限定せず、従業員の健康状態全般と生産性の関係を調べたもので、3組織・3,429件のデータをもとに、医療費・傷病手当金・労災補償費・アブセンティーイズム(欠勤)・プレゼンティーイズムを合算した「健康関連総コスト」を試算しています。

健康関連総コストの内訳(健康問題全般、2016年、3組織3,429件データ)

健康関連総コストの内訳(健康問題全般、2016年、3組織3,429件データ)
費目金額
プレゼンティーイズム約56.5万円(77.9%)
医療費約11.4万円(15.7%)
アブセンティーイズム約3.2万円(4.4%)
傷病手当金約0.7万円(1.0%)
労災補償費約0.7万円(0.9%)

(経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課「企業の『健康経営』ガイドブック」, 2016年)

従業員1人当たりの健康関連総コストは、この調査の時点で平均72.5万円と試算されており、その内訳の8割近くをプレゼンティーイズムが占めています。目に見える医療費や欠勤日数よりも、出勤していながら力を出し切れない状態のほうが、会社にとってはむしろ大きな損失になっているということです。見えにくいコストほど、見過ごされやすいのです。金額は2016年当時の試算であり現在の賃金水準とは異なりますが、プレゼンティーイズムが損失の大半を占めるという比率の構造そのものは、その後の複数の調査でも同様の傾向が報告されています(ただし比率の水準は調査によって異なり、77.9%という数値自体が再現されているわけではありません)。

バーンアウトは、ICD-11の定義上、この「効率性の低下」という次元を必ず伴う状態です。バーンアウトに至った従業員をそのままにしておくことは、見えにくい生産性低下というコストを、会社が払い続けることにつながります。

慢性的な職場ストレスは、すでに珍しい状態ではない

バーンアウトの土壌となる「慢性的な職場ストレス」は、多くの職場ですでに日常的な状態になっています。厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、現在の仕事や職業生活について強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は68.3%です。内容(複数回答、主なもの3つ以内)で最も多いのは「仕事の量」(43.2%)で、「仕事の失敗、責任の発生等」(36.2%)、「仕事の質」(26.4%)と続きます。

民間調査でも近い傾向が見られます。マイナビキャリアリサーチLabが2026年4月に実施した調査(20〜50代の正社員4,096名が対象)では、正社員の17.3%が現在バーンアウトを感じており、過去の経験も含めると29.3%にのぼりました。特に20〜30代の管理職では36.3%と、他の層より高い割合を示しています。

「相談できる人がいる」と「実際に相談する」は別の話

慢性的なストレスを抱えていても、それがすぐに相談や対応につながるとは限りません。前出の労働安全衛生調査では、仕事や職業生活のストレスについて相談できる人が「いる」と答えた労働者は94.6%にのぼる一方、そのうち実際に相談したことがある人は74.7%にとどまります。相談先自体はあっても、実際に使われるまでには一段の壁があるということです。その壁の一因には、不調や相談に対する職場の偏見もあります(職場のメンタルヘルスの偏見にどう向き合うか)。

管理職が部下の変化に早く気づき、声をかけられるかどうかは、この壁を越える手前で状況を変えられるかどうかを左右します(部下の話を聴けるマネージャーになるには)。

気づかないまま進行することが、コストをさらに増やす

バーンアウトが休職や離職にまで進んでしまうと、コストはさらに広がります。代替要員を確保するまでの間、業務は他の社員が肩代わりすることになり、引き継ぎが整わないまま離職に至れば、その負荷は特定の個人に集中しがちです。新しく採用した人材が本来のパフォーマンスを発揮できるようになるまでにも、教育やオンボーディングの期間が必要になります。

こうした事態を防ぐ鍵は、この見えにくい段階のうちに気づき、対応することです。社員の不調のサインに早く気づく仕組み(社員の不調に気づいたときの対応フロー)、管理職による日常的な関わり(ラインケアとは)、外部の相談窓口(中小企業の相談窓口・EAPの選び方チェックリスト)は、いずれもこの早い段階での気づきを後押しする仕組みです。そもそも何がバーンアウトを引き起こすのかはバーンアウトの主な原因に、頑張りの段階から消耗に至るまでどう進行していくかはバーンアウトが進行する12段階にまとめています。

※ 出典: 世界保健機関(WHO)「Burn-out an "occupational phenomenon": International Classification of Diseases」(2019年5月28日)。経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課「企業の『健康経営』ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~」(改訂第1版、2016年)図表21・22。厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」。マイナビキャリアリサーチLab「正社員の“バーンアウト(燃え尽き症候群)”に関する実態調査」(2026年4月8日〜20日実施、民間調査)。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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