バーンアウト(燃え尽き症候群)は、職場のストレスが積み重なり、心身のエネルギーを使い果たしてしまった状態を指します。その兆候に経営者や管理職が気づき、声をかけ、相談窓口につないだとします。ここまでの対応は社員の不調に気づいたときの対応フローに整理した通りです。ただ、つないだあとも、仕事の量や進め方がそれまでと変わらなければ、その原因はそのまま残ります。バーンアウトへの対応は環境要因に目を向けることが出発点になりますが、それを実際の計画にする段階が回復プランです。休職を経ているかどうかにかかわらず、働き方や業務をどう調整するかを整理します。
回復プランとは何か
回復プランとは、本人の状態に合わせて、仕事の量・時間・場所・裁量・役割をどう調整するかを、期間を区切って決めておく計画のことです。「しばらく様子を見る」という言葉だけでは、実際には何も変わらないまま時間だけが過ぎてしまうことが少なくありません。何を、いつまで、どう確認するかを具体的に決めておくことで、本人にとっても会社にとっても、次に何をすべきかが見える状態になります。
休職を伴う場合の診断書のやり取りや復職の判定手順は復職支援の基本にまとめています。回復プランはそれとは別に、実際にどんな調整をするかという中身を扱うものです。休職を経ずに働きながら調整する場合にも、休職から復職したあとの就業上の配慮を決める場合にも、同じ考え方が使えます。
何を調整するか — 仕事の量・時間・場所
労働安全衛生法は、長時間労働者に対する医師の面接指導の結果をふまえて、事業者が取るべき措置を次のように定めています。
事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずる(以下略)。(労働安全衛生法第66条の8第5項)
これは、時間外労働が月80時間を超え、疲れがたまっていると認められる労働者への面接指導を前提にした規定です。産業医の選任義務とは異なり事業場規模の要件がなく、50人未満の会社にもすでに適用されています。ストレスチェックの結果にもとづく面接指導についても、ほぼ同じ言葉の措置が定められています(同法第66条の10第6項)。こちらは50人未満の事業場では2028年4月の義務化を待つ段階です。ただし、いずれの条文も、会社が取れる調整として次の4つを挙げている点は共通です。
| 調整の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 就業場所の変更 | 在宅勤務への切り替え、負担の大きい現場からの異動 |
| 作業の転換 | 人とのやり取りが多い業務から事務的な業務への一時的な変更 |
| 労働時間の短縮 | 残業の禁止、時短勤務、休憩の追加 |
| 深夜業の回数の減少 | 夜勤・交代制の回数を減らす |
面接指導を受けたかどうかにかかわらず、回復プランを組み立てる際の調整メニューとして参考になります。ただしこれは法律上の義務そのものではなく、会社が実情に応じて検討する措置の例です。
何を調整するか — 裁量と役割
法が挙げる4つの調整は、いずれも仕事の量・時間・場所に関わるものです。ただ、負担は仕事の量だけでなく、裁量の少なさや役割のあいまいさ・対立からも生まれます(バーンアウトの主な原因)。こちらには、法律が直接挙げる調整の型がありません。
裁量を広げるといっても、本人の好きなように進めさせることではありません。判断を仰ぐ場面を絞り込み、任せる範囲をはっきりさせたうえで委ねることが調整になります。役割については、担当業務の範囲や優先順位を文書やメモの形で書き残し、どこまでが本人の責任なのかをはっきりさせることが調整になります。どちらが必要かは、本人が「何を求められているか分からず消耗しているのか」「細かく指示されすぎて消耗しているのか」によって変わるため、面談で確かめながら決めます。
法が示す調整(量・時間・場所)
- 就業場所の変更
- 作業の転換
- 労働時間の短縮
- 深夜業の回数の減少
法が触れない調整(裁量・役割)
- 判断を仰ぐ場面を減らし、裁量を広げる
- 担当業務の範囲を書き残し、役割をはっきりさせる
プランの作り方 — 誰が、どう決めるか
回復プランは、会社が一方的に決めて言い渡すものではありません。本人との面談で、何を、いつまで、どう確認するかをすり合わせて決めます。50人未満の会社では、この面談を担うのが社長自身であることも多く、判断に迷う場面では地域産業保健センターや契約している専門機関に相談しながら進めるのが現実的です。東京メンタルヘルスでも、経営者・管理職からのこうした相談に応じています(WorkMindのサービス一覧)。
本人が「大丈夫です、普通に働きたい」と言うとき
調整の必要性を伝えても、本人がそれを望まないことがあります。無理に押しつける必要はありませんが、遅刻や欠勤、ミスの増加といった客観的なサインが続いているなら、本人の言葉だけを根拠に見送らないことも大切です。会社には従業員の心身の健康に配慮する法律上の義務(安全配慮義務)があります。気づいたサインを放置せず、期間を空けて改めて伝えるか、会社として最低限の調整を先に決めておくことが求められます。
配置転換の余地がない小さな職場では
50人未満の会社では、そもそも異動先や配置転換の余地がないことも珍しくありません。その場合は場所や担当を変えることにこだわらず、業務量を減らす、期限を延ばす、判断を仰ぐ場面を減らして裁量を広げるといった、人を動かさずにできる調整から検討します。
期間を区切り、記録を残す
調整は「様子を見ながらそのつど」ではなく、次に見直すタイミングをあらかじめ決めておきます。1〜2週間後に一度、その後は月1回程度など、本人の状態に応じて間隔を決め、変化があれば早めに調整し直します。決めた内容と面談の記録を残しておくことは、本人との認識のずれを防ぐと同時に、安全配慮義務の観点からも会社を守ります。
調整しても改善しないとき
環境を調整しても、疲労感、仕事への距離感、達成感の低下といった兆候が変わらない、あるいは悪化していく場合は、休職を選択肢に入れる段階です。
休職に踏み切ることへのためらいが、判断を遅らせることがあります。踏ん切りをつけるのは、簡単なことではありません。休職を経験した人たちを調べたある調査では、休むこと自体への罪の意識から判断が遅れたという声が多く聞かれました。同じ調査では、休職期間は平均で3か月半ほどかかり、心身の緊張がほどけるまでに時間がかかったことも報告されています。ためらう時間が長くなるほど、その後の回復にかかる時間も延びやすいとすれば、調整だけで抱え込み続けるより、早めに休職という選択肢を検討したほうが、結果的に回復への近道になることもあります。
休職に入ってからの診断書のやり取り、復職の判定、職場復帰後のフォローアップという実際の手順は、復職支援の基本に整理しています。
※ 出典: 世界保健機関(WHO)「Burn-out an "occupational phenomenon": International Classification of Diseases」(2019年5月28日)。久保真人「バーンアウト(燃え尽き症候群)ヒューマンサービス職のストレス」独立行政法人労働政策研究・研修機構『日本労働研究雑誌』No.558(2007年1月号)。労働安全衛生法第66条の8第5項・第66条の10第6項。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。