バーンアウト(燃え尽き症候群)になった人には、「頑張り屋」「責任感が強い」という評価がついて回ることが少なくありません。しかしこれは、本人の性格だけが原因だという意味ではありません。個人的な要因と、その人を取り巻く職場環境の要因が重なったときに、バーンアウトは起こります。世界保健機関(WHO)も、バーンアウトを「慢性的な職場ストレスが適切に管理されなかった結果として生じる症候群」と定義しており、職場環境も原因の一つに含めています。何が原因として関わっているのかを、個人的な要因と環境要因に分けて整理します。
個人的な要因
- 仕事への誠実さ・責任感
- ストレスへの耐性
- 経験の浅さ
環境要因
- 仕事の量・質の負担
- 裁量の少なさ
- 役割のあいまいさ・対立
誠実さが、なぜ裏目に出るのか
労働政策研究・研修機構(JILPT)は、これまでの研究をまとめた論文(久保, 2007)を発表しています。この論文は、バーンアウト研究の初期に指摘された逆説を紹介しています。Kahn(1978)は、看護・教育・福祉など、人に直接サービスを提供する仕事を研究していました。そのKahnは、「理想を言えば、バーンアウトしない人を採用すればよい」と述べています。ただしこれは皮肉です。バーンアウトしない人とは、決まった手順どおりに仕事をこなし、相手と深く関わろうとしない人を指します。彼らは消耗しませんが、相手から信頼されるだけの質の高い仕事ができるとは限りません。
つまり、こうした仕事にとって重要な資質である「ひたむきさ」や「相手と深く関わろうとする姿勢」そのものが、バーンアウトのリスクを高めている、とこの研究は指摘しています。誠実に仕事へ取り組む人ほど、うまくいかないときに深く悩み、きりのない要求と人手不足の中で消耗を重ねていきます。
年齢や経験の浅さも、個人的な要因として報告されています。経験の浅い人ほど、達成への期待や仕事そのものへの期待が高くなりがちで、現実との差が大きいほど消耗も大きくなります。経験を積むことで、現実に合った期待の高さや、ストレスへの対処のしかたを身につけていくとされています。
ここで押さえておきたいのは、これらはいずれも「悪い性格」ではなく、本来は評価されるべき資質や、経験を積んでいく途中にある状態だということです。個人的な要因だけを取り除こうとする対応、たとえば、ひたむきに働く人へ「もっと力を抜くように」とだけ伝える対応は、根本的な解決にはなりません。
職場環境に潜む3つの負担
1. 仕事の量・質の負担
勤務時間の長さやノルマの厳しさといった量的な負担は、分かりやすいものです。一方、相手の事情に踏み込んで理解する必要がある仕事のように、質的な負担は見えにくく、数字にも表れにくいという特徴があります。自社の職場にどんな負担が偏っているかを把握する具体的な方法は、職場のストレス要因を把握する方法にまとめています。
2. 裁量の少なさ
仕事の進め方やスケジュールを自分で決められる範囲が狭いと、たとえ仕事をやり遂げても、充実感よりむなしさが残りやすくなります。ここで注意したいのは、「規則がない自由な職場」が必ずしも良い環境とは限らないことです。久保(2007)が紹介する研究では、勤務時間以外のルールが一切ない職場で、スタッフが強い消耗感を訴えていました。担当する仕事や役割分担を明確にする規則を取り入れたところ、消耗感が解消されたと報告されています。裁量とは、ルールのない自由ではなく、自分の役割の範囲がはっきりしていて、その中で決められる状態を指します。
3. 役割のあいまいさ・対立
自分の仕事の範囲や目的が明確でない状態(役割のあいまいさ)、両立しない複数の役割を同時にこなさなければならない状態(役割の対立)も、負担の一つです。相手の要求に誠実に応えようとする姿勢と、組織内での自分の立場や責任との間で板挟みになる状況が、これにあたります。
人と接する仕事では、これら3つに加えて、もう一つの負担が指摘されています。相手からの反応を、自分の仕事上の役割に対するものではなく、自分自身の人格に対するものとして受け止めてしまうと、感情的な消耗が進みやすくなります。相手との関係を、仕事上の役割としていったん切り分けて捉えられるかどうかが、この負担への耐性を左右するとされています。
対応の出発点は、環境要因
久保(2007)は、バーンアウトへの対応について「まずは環境要因に着目し、職場の改善策を模索することが優先されるべきである」と結論づけています。個人的な要因として挙げた誠実さや責任感は、本来は仕事の質を支える良い資質です。それを変えることではなく、その資質が過度な消耗につながらないよう、仕事の量・裁量・役割の設計という環境の側を見直すことが、対応の出発点になります。
50人未満の会社では、この環境要因を左右する裁量の多くを経営者自身が握っています。同時に、経営者自身が最も重い負担を背負っていることも少なくありません。自社にどんな負担が偏っているかを把握し、優先順位をつけて手を打つことが、バーンアウトを未然に防ぐ土台になります。バーンアウトの兆候そのものへの気づき方はバーンアウトの兆候の見分け方に、気づいた後の対応の流れは社員の不調に気づいたときの対応フローに、実際に環境要因をどう調整するかはバーンアウトからの回復プランの作り方にまとめています。これらの要因が重なった末にどのように進行していくかはバーンアウトが進行する12段階に整理しています。
※ 出典: 世界保健機関(WHO)「Burn-out an "occupational phenomenon": International Classification of Diseases」(2019年5月28日)。久保真人「バーンアウト(燃え尽き症候群)ヒューマンサービス職のストレス」独立行政法人労働政策研究・研修機構『日本労働研究雑誌』No.558(2007年1月号)。厚生労働省「こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」用語解説「燃え尽き症候群」。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。