職場の人間関係・ハラスメント

上司と部下の適切な距離感の取り方

部下と親しくなりすぎても、距離を置きすぎても、チームには良くない影響が出ます。近すぎる場合と遠すぎる場合それぞれのリスク、ハラスメントとして扱うべき一線との違い、日常的な距離感の目安を解説します。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • 特定の部下と近すぎる関わりは、本人に意図がなくても評価の公平性への疑念を招く。上司が専門家につなぐべき相談まで抱え込む危険もある
  • 業務連絡だけの関係では部下に「相談しても迷惑ではないか」という警戒が生まれる。歩み寄る責任は失うものが少ない上司の側にある
  • 距離の近すぎ・遠すぎ自体は、直ちにハラスメントにあたるわけではない。見極めの基準は、本人の意に反した詮索や排除が繰り返し続いているかどうか
  • リモートワークでは何もしなければ距離は遠くなる。1on1に業務外の話をする時間を組み込むなど、接点を仕組みとして用意しておく

部下と仲良くしているつもりが、特定の人だけ特別扱いしているように見えてしまう上司もいれば、意識してそっけなく接しているつもりが、部下から「話しかけにくい上司」と見られている上司もいます。どちらも、本人の意図と部下から見える姿がずれた結果です。

なぜ、上司と部下の距離感は難しいのか

部下の話を聴けるマネージャーになるにはで扱ったとおり、上司は部下の人事評価や業務の指示を担う立場にあり、その関係は一度きりでは終わらず、翌日も、その先も続きます。話を聴いて信頼を得ようとする姿勢と、評価者としての公平さを保つ姿勢は、本来両立するものですが、日々の接し方の中でバランスを崩しやすいのも事実です。

距離が近すぎるとき、何が起きるか

特定の部下とだけ頻繁に食事や飲みに行く、業務に関係のない相談に長時間付き合う、といった関わり方が続くと、まず周囲から「えこひいきをしているのではないか」という見方をされやすくなります。本人にその意図がなくても、評価の公平性そのものへの疑念につながります。

もう一つ起きやすいのが、上司自身の抱え込みです。部下の私的な悩みに深く関わるうちに、専門家につなぐべき相談まで自分一人で受け止めようとしてしまうことがあります。話を聴くことと、問題を丸ごと引き受けることは別の行為です。

距離が遠すぎるとき、何が起きるか

業務連絡以外ほとんど言葉を交わさない関係が続くと、部下の側に「相談しても迷惑ではないか」という警戒が生まれます。心理的安全性の提唱者であるエイミー・エドモンドソンは、部下が疑問や異論を口にするときの負担を減らす責任は、失うものが少ない側にあると考えています。つまり、上司の側です。上司から歩み寄る接点がなければ、その負担は減らないままです。

結果として、部下の変化に気づくタイミングも遅れます。社員の不調に気づいたときの対応フローが扱う初動は、日頃のやり取りがあってはじめて「いつもと違う」と気づけるものです。距離を置きすぎる関係では、この土台自体が育ちません。

日常の行き過ぎと、ハラスメントとして扱うべき一線は別

「近すぎる」「遠すぎる」は、いずれも日常的な関わり方の行き過ぎであり、それ自体が直ちにハラスメントにあたるわけではありません。特定の部下とよくランチに行く上司も、口数が少なく淡々と接する上司も、それだけでは法令上の問題にはなりません。

ハラスメントとして扱う必要があるのは、詮索や排除を、繰り返し、わざと行っている場合です。距離の近さ・遠さがそこまで進んだ形を、厚生労働省の指針はパワーハラスメントの類型のうち「個の侵害」「人間関係からの切り離し」として挙げています。

日常的にありがちな行き過ぎ ハラスメントにあてはまる行為
距離が近い場合 特定の部下とだけ頻繁に食事に行く、雑談のつもりで私生活に踏み込みすぎる 職場外でも継続的に監視する、私物を撮影する、機微な個人情報を本人の了解なく暴露する(個の侵害)
距離が遠い場合 業務連絡以外ほとんど言葉を交わさない、変化があっても様子を見ない 集団で無視をして孤立させる、仕事を外して長期間別室に隔離する(人間関係からの切り離し)

見極めの基準になるのは、単発の出来事かどうかではなく、本人の意に反した詮索や排除が、繰り返し続いているかどうかです。判断の考え方の全体(6つの類型と該当・非該当の例、総合的に考える要素)はハラスメント相談窓口の設置義務にまとめました。この見極めが難しいと感じたら、日常の距離感の調整として抱え込まず、同じ記事の対応フローに進んでください。

適切な距離の目安

「ここまでは近い、ここからは遠い」という一律の線はありません。目安になるのは、次のような基準です。

  • 業務上必要な範囲で部下の状況を把握することと、業務に関係のない私生活を詮索することを分ける
  • 特定の部下だけでなく、全員に対して同じ態度で接しているかを、ときどき自分で振り返る
  • 部下が自分から話してくれたことは大切に受け止めるが、こちらから深追いしない
  • 雑談に付き合うことと、個人的な関係を深めることは別の行為だと意識する

いずれも、相手が答えたがっているかどうかを基準に置く姿勢です。相手が話したがっていないサインを察したら、そこで止めることが距離感を保つということです。

リモートワークでの距離感

出社していれば自然に生まれていた雑談や、表情や声のトーンから変化に気づくことも、リモートワークでは意識的に作らない限り生まれません。距離感は近づけすぎても遠すぎても良くないという原則は変わりませんが、リモートワークでは何もしなければ距離は遠くなっていきます。定例の1on1に業務外の話をする時間を組み込む、雑談のためだけのオンラインの場を設けるなど、接点そのものを仕組みとして用意しておくことが、対面以上に重要になります。

※ 出典: 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)。パワーハラスメントの類型「個の侵害」「人間関係からの切り離し」の該当例に関する記述は同指針による。根拠法は労働施策総合推進法第30条の2。心理的安全性に関する記述は、Edmondson, A.C.(2018)The Fearless Organization: Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growthによる。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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