朝礼で目標を掲げ直した。声もかけた。それでもチームの空気は重いまま、返ってくるのは短い返事だけ。そんな場面に覚えがあるなら、呼びかけを重ねる前に見直せることがあります。仕事の進め方をどこまで本人に任せているか。遅れや失敗を言い出しやすいか。疲れを回復できる時間が残っているか。
厚生労働省の白書の分析では、こうした点が士気と結びついていました。この記事では、その結果をもとに、この3つと日々のほめ方について、制度を変えずに経営者や管理職が手をつけられることを見ていきます。
士気は、仕事の条件と結びついている
厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」は、働きがいを「ワーク・エンゲイジメント」という物差しで分析しています。仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)、仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)、仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)。この3つがそろった状態のことです。
現場で「士気が高い」と呼んでいる状態に近いと考えてよいでしょう。白書は、この状態を燃え尽き(バーンアウト)の反対側にあるものとして説明しています。以下では、白書の結果を紹介するときも、この状態を士気と呼びます。
白書の分析では、次の節で見るように、仕事の進め方や職場の関係、休みの取れ方といった条件が士気と関係していました。士気はメンバー一人ひとりの心がけだけで決まるものではない、ということです。
ただし、白書が示しているのは相関で、逆向きの関係もありうると白書自身が断っています。士気の高い人ほど自分の仕事を良く受け止めやすい、士気の高い人の勤め先ほど取り組みが多い、という可能性です。以下は「これをすれば必ず上がる」ではなく、「士気と結びついていた条件」として読んでください。
士気と結びついていた3つの条件
白書は、働く人が自分の仕事をどう受け止めているかを尋ね、その答えと士気との関係を調べています。士気と正の相関が確認された項目には、次のようなものがありました。
- 仕事を進める手段や方法を自分で選べる
- 仕事を進めるうえでの人間関係が良い
- 仕事から疲れを回復するのに十分な余暇がある
- 仕事を通じて成長できていると感じる
- 仕事に自信がある(自己効力感)
このうち最後の2つは、後の節で扱うフィードバックと関わります。
白書は、会社の取り組みの側も調べています。士気の高い人と低い人の勤め先で、実施している取り組みの割合を比べました。差が最も大きかったのは「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」です。次いで「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」「業務遂行に伴う裁量権の拡大」などが続きます。
白書が挙げる取り組みには、人事評価の公正さや昇進・賃金のような制度も含まれます。ただ、制度を作り直すには時間がかかります。50人未満の会社で、制度を変えずに経営者や管理職が手をつけられるのは、次の3つの条件と、次の節で扱うフィードバックの伝え方です。
| 条件 | 白書で士気との関係が見られた項目 | 日々の仕事でできること |
|---|---|---|
| 任せ方 | 仕事を進める方法を自分で選べる、裁量権の拡大 | 目標と期限は示し、進め方は本人に選んでもらう |
| 話しやすさ | 仕事を進めるうえでの人間関係、コミュニケーションの円滑化 | 遅れや困りごとを報告されたら、責めずに次の手を一緒に決める |
| 休める余白 | 疲れを回復できる余暇、労働時間の短縮・柔軟化 | 忙しさに見合った支えがあるか、回復の時間が残っているかを見る |
任せ方 — 目標は示し、進め方は選んでもらう
何を、いつまでに、どの水準で仕上げるかは示し、そこへの進め方は本人に選んでもらいます。白書の項目も、仕事を進める手段や方法を自分で選べるかどうかを尋ねています。任せた後に細かく手順を指定し直すと、任せたのは形だけになります。
話しやすさ — 遅れや失敗を早く言えるようにする
白書が尋ねているのは、仕事を進めるうえでの人間関係です。ここでは、仲の良さよりも、仕事の遅れやうまくいかなかったことを、責められずに早く言えるかどうかとして考えます。報告を受けたら、まず知らせてくれたことに礼を言い、次の手を一緒に決めます。言いやすさを職場に根づかせる方法は、心理的安全性を高める3つの実践で詳しく扱っています。
休める余白 — 回復の時間が残っているかを見る
白書の分析では、「自身に業務が集中している」といった忙しさを示す項目も、士気と正の相関にありました。白書はこの結果について複数の読み方を挙げています。やりがいのある仕事に就いている状態を捉えた可能性、仕事の支えが豊富な環境との組み合わせで生じた可能性、士気の高い人に仕事が集まっている可能性です。そのうえで、幅をもって解釈する必要があると断っています。
つまり、忙しさを減らせば士気が上がる、とは言えません。見るべきは、忙しさに見合った裁量や支えがあるか、そして疲れを回復できる時間が残っているかです。負担の大きさを洗い出すには、職場のストレス要因を把握する方法の手順が使えます。
日々のフィードバックでは、うまくいった行動を具体的に伝える
意外に見えるかもしれませんが、白書の分析では、会社の取り組みとして「フィードバックによる動機づけ」を行っているかどうかと士気の間に、統計的に意味のある相関は確認されませんでした。目標管理制度や定期的な面談も同じです。
そこで白書は、フィードバックの受け方を詳しく調べました。仕事を通じた成長実感や仕事への自信が高い人と低い人を比べ、上司からのフィードバックの頻度や、効果があったと感じた理由の違いを見ています。成長実感と自信は、前の節で士気と相関していた項目です。
白書が示唆したのは次の2点です。
- 自信や成長実感の高い人は、低い人に比べて、日常業務について上司からフィードバックを受ける頻度が総じて高い
- 伝え方としては、本人の具体的な行動について、その行動の大切さや意味を説明しながら、行動した直後にほめることが大切
仕組みとして置いてあるかどうかより、日々どう伝えるかが問われている、と読めます。
同じ「ありがとう」でも、次の2つでは相手に残るものが違います。
- 「いつも頑張ってくれてありがとう」
- 「見積もりを出す前に、先方の締め日を確かめてくれましたね。これで出し直しになる心配が減りました。ありがとうございます」
前の言い方では、感謝の気持ちは伝わっても、どの行動がよかったのかまでは伝わりません。後の言い方には、行動(締め日を確かめた)と、その意味(出し直しの心配が減った)がそろっていて、確かめた直後に伝えています。
上司がうまくいった行動を具体的に言葉にすると、本人は次に何を繰り返せばよいかが分かります。成果を出しても「たまたまです」と返し、ほめ言葉をそのまま受け取れない部下への伝え方は、自己肯定感が低い部下への対応にまとめています。
大きな成果を待つ必要はありません。締め切りを守った、確認の一言を入れた、困っている同僚に声をかけた。見つけたら、その場で言葉にします。
期待に届かなかったときの伝え方は、心理的安全性と厳しさを両立させる方法で解説しています。
号令で上げようとする前に確かめること
士気が落ちているように見えるとき、実際には疲れがたまっていることがあります。仕事の量が明らかに増えている、休日にも連絡が来る、特定の人の残業が続いている。そうした状態で「もっと前向きに」と求めると、負担を一つ増やすことになりかねません。
チーム全体の空気ではなく、特定の人の様子が気になるときは、バーンアウトの兆候の見分け方で確かめてください。不調の様子が見られるときは、部下に受診を勧めるにはを参考に、医療機関や外部の相談窓口につなぎます。士気の問題に見えても、先に休息や受診が要る場合があります。
※ 出典: 厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」、2026年9月23日閲覧。ワーク・エンゲイジメントの定義、バーンアウトとの関係は同白書第II部第3章第1節による。仕事の受け止め方と士気の相関(第2-(3)-22図)、目標管理制度・フィードバック・定期的な面談の相関が確認されなかったこと(同図)、勤め先の取り組みの比較(第2-(3)-20図)、上司からのフィードバックの分析(第2-(3)-24図)、逆方向の因果関係への留意と忙しさの項目の解釈は同章第3節による。分析の元データは(独)労働政策研究・研修機構「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」(2019年)の個票を厚生労働省が独自集計したもの。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。