ライフイベントと仕事の両立

治療と仕事の両立支援とは — 会社の努力義務と進め方

2026年4月から、治療を受ける労働者を支援する体制整備が事業主の努力義務になりました。対象になる疾病、支援の進み方、産業医のいない50人未満の会社でも使える「産業医等」の定義を整理します。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • 2026年4月1日、労働施策総合推進法第27条の3により「治療と仕事の両立支援」が事業主の努力義務になった。対象は国際疾病分類に掲げる疾病で、医師が反復・継続する治療が必要と判断したもの
  • 支援は本人からの申出で始まり、主治医からの情報収集、産業医等への意見聴取を経て、会社が就業継続の可否を判断する
  • 対象になるのは休職を要する場合だけではない。通院・服薬を続けながら今の仕事を続けてもらう場面も、この指針の対象になる
  • 産業医等には、労働者数が50人未満の事業場で健康管理等を行う医師も含まれる。専任の産業医がいない会社でも、このしくみは使える

がんや糖尿病、心の不調などの治療を続けながら働く従業員への配慮は、2026年4月1日から会社の努力義務になりました。労働施策総合推進法の改正により、事業主は治療を受ける労働者からの相談に応じ、適切に対応するための体制を整えることが求められています。

これは、長期間休ませるかどうかを決める制度ではありません。通院や服薬を続けながら、今の仕事をどう続けてもらうかを考えるしくみです。

治療と仕事の両立支援とは — 対象になる労働者・疾病

根拠になる指針の正式名称は「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)です。この記事では、厚生労働省のポータルサイト名にも使われている「治療と仕事の両立支援」という呼び方で説明します。

指針は、対象となる疾病を次のように定義しています。

国際疾病分類(…)に掲げられている疾病であって、医師の診断により、増悪の防止等のため反復・継続して治療が必要と判断され、かつ、就業の継続に配慮が必要なもの(指針より抜粋)

がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、難病といった体の病気だけでなく、うつ病や適応障害などの心の不調も、この定義に当てはまれば対象です。診断名で機械的に決まるものではなく、医師が「通院・服薬を続ける必要があり、就業にも配慮が必要」と判断したかどうかが基準になります。

対象は正社員に限りません。パート、有期契約、派遣など雇用形態を問わず、すべての労働者が対象です。指針は主に、すでに雇用している労働者への対応を念頭に置いていますが、治療が必要な人を新たに採用する場面でも参考にできます。

会社の努力義務として求められること

努力義務の内容は、労働施策総合推進法第27条の3に定められています。事業主は、治療を受ける労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の措置を講じるよう努めなければなりません。

指針が挙げる環境整備の内容は、次のようなものです。

  • 治療と仕事の両立支援に取り組む基本方針を決め、従業員に周知する
  • 管理職・従業員向けの研修で意識を高める
  • 相談窓口と、そこで聞いた情報の扱い方を明確にする
  • 休暇制度・勤務制度を整える(時間単位の年次有給休暇、傷病休暇、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、試し出勤など)
  • 産業保健スタッフや主治医との連携体制をつくる

これらをすべて一度に整える必要はありません。まず相談窓口を決め、既にある年次有給休暇や私傷病休暇をどう使えるかを整理するところから始めても十分です(休職そのものの制度設計は休職は法律で決まっていないにまとめています)。

両立支援の進み方 — 申出からプラン作成まで

治療と仕事の両立支援は、労働者本人からの申出から始まります。指針が示す流れは次の通りです。

ステップ 場面 会社側の対応
1 本人からの申出 治療と仕事の両立支援に関する事業場内ルールを案内する
2 主治医からの情報収集 本人を通じて、症状・治療の状況、就業継続の可否に関する意見を受け取る
3 産業医等の意見聴取 主治医からの情報を産業医等に提供し、就業上の措置・治療への配慮に関する意見を聴く
4 就業継続の可否の判断 本人の意向を聴き、十分な話し合いを通じて了解を得るよう努める
5 両立支援プランの作成・実施 措置の内容、治療への配慮、フォローアップの方法とスケジュールを計画し、実施する

ステップ3の産業医等がいない場合は、主治医から提供された情報を参考に判断を進めます。主治医の意見を求める際は、症状や治療の状況という気をつかう情報を伝えることになるため、産業医等がいる場合はその人を通じて情報のやり取りを行うことが望ましいとされています。

疾病にかかっていることを理由に安易に就業を禁止しないことも、指針が繰り返し求めている点です。配置転換や作業時間の短縮など、できる工夫を検討したうえで、それでも難しい場合に限って就業を制限するという順序が前提になっています。

やり取りの中で気をつけたいのが個人情報です。症状や治療の内容といった健康情報は、健康診断で把握した場合を除き、原則として本人の同意なく取得してはなりません。

心の不調も対象になる — 休職せずに治療を続ける場合

治療と仕事の両立支援というと、がんなどの体の病気を思い浮かべやすいかもしれません。指針が参考資料として疾病別の留意事項を用意しているのも、がん、脳卒中、肝疾患、難病、心疾患、糖尿病の6分野です。

ただし対象疾病の定義に診断名の限定はなく、国際疾病分類に含まれる精神疾患も当然に対象になります。厚生労働省は2025年3月、うつ病などメンタルヘルス不調の患者を担当する主治医に向けて、治療と仕事の両立支援に関する支援マニュアルを別に公表しています。主治医が就業を続けられるかどうかや、気をつけることを意見書に書く際の参考になる資料です。

指針は、休職するかどうかを決める場面だけでなく、通院や服薬を続けながら今の仕事をどう続けてもらうかという場面でも使えます。長期の休業が必要になった場合、休業中のその後の支援から職場復帰の判断までは復職支援の基本で扱っています。休職の制度自体(賃金・社会保険・傷病手当金の扱い)は休職は法律で決まっていないにまとめています。不調のサインへの気づき方は社員の不調に気づいたときの対応フローにまとめています。

50人未満の会社では

指針は、産業医等を「産業医、または労働者数が50人未満の事業場で労働者の健康管理等を行う医師」と定義しています。専任の産業医がいない会社でも、このしくみはそのまま使えます。申出を受ける体制として、次の3つを決めておきます。

  • 相談窓口をまず決める。誰が申出を受け、どう主治医とやり取りするかを決めておかないと、実際に申出があったときに手順が固まらない
  • 産業医等がいない場合の相談先を持っておく。都道府県の産業保健総合支援センターは、50人未満の事業場でも無料で相談できる(復職支援の基本で扱う地域産業保健センターと同じしくみです)
  • 個人情報の扱いを決めておく。症状や治療の内容を扱う人の範囲を、あらかじめ絞っておく

この制度は、本人からの申出があって初めて動き出します。申出を受ける窓口と、産業医等がいないときの相談先を先に決めておくことが、治療を抱える本人が言い出しやすい職場をつくる最初の一歩になります。

※ 出典: 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)第27条の3(令和7年法律第63号による追加、令和8年4月1日施行)。厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号、令和8年2月10日)。労働安全衛生法第62条・第66条・第68条、労働安全衛生規則第61条第1項・第2項(いずれもe-Gov法令検索による)。厚生労働省「〈治療と仕事の両立支援〉メンタルヘルス不調者の主治医向け支援マニュアル」(2025年3月)。産業保健総合支援センターの無料利用については復職支援の基本で扱う地域産業保健センターと同じしくみによる。本ガイドは一般的な解説であり、個別の判断は産業医・主治医・社会保険労務士等にご相談ください。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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