職場のメンタルヘルス対策

従業員のメンタルヘルスを支援する基本 — 会社が取り組む4つのこと

「従業員のメンタルヘルスを支援する」とは具体的に何をすることか。安全配慮義務という土台から、予防・気づき・相談先の確保・休職復職対応まで、会社が取り組む4つの柱を整理します。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

更新 読了目安 6分

この記事の要点

  • 会社が担うメンタルヘルス支援は、予防・気づき・相談先の確保・休職と復職の対応の4つに整理できる
  • 会社が取り組む根拠は安全配慮義務(労働契約法第5条)。メンタルヘルスも対象に含まれることは判例で確立しており、従業員が1人でもいれば発生する
  • 産業医の選任義務は常時50人以上の事業場が基準(労働安全衛生法第13条、同法施行令第5条)。50人未満は地域産業保健センターを原則無料で使える
  • 優先順位は、気づいたら動く仕組み、相談先の確保、休職・復職のルール、そして時間のかかる予防の順

「従業員のメンタルヘルスを支援する」という言葉は広く使われますが、実際に何をすることを指すのかは、会社によって理解にばらつきがあります。ここでは、会社が取り組むべきことの全体像を、4つの取り組みとして整理します。

なぜ会社が関わるのか

会社には、従業員の生命・身体の安全と健康に配慮する法律上の義務があります(安全配慮義務、労働契約法第5条)。かつては労災事故など身体の安全が中心でしたが、現在ではメンタルヘルスも対象に含まれることが判例で確立しています。条文の内容や実務のポイントは安全配慮義務とはにまとめています。

義務だから取り組む、という消極的な理由だけではありません。不調に気づかず放置すれば、休職・離職という形で人材を失うことにもつながります。義務を果たすための取り組みは、そのまま人材を手放さないための取り組みでもあります。

支援の骨格 — 4つの取り組み

会社が担うメンタルヘルス支援は、次の4つに整理できます。

取り組み 目的
予防 不調が生まれにくい職場をつくる
気づき 変化に早く気づく
相談先の確保 抱え込まない仕組みをつくる
休職・復職の対応 制度として整えておく

1. 予防 — 不調が生まれにくい職場をつくる

長時間労働が続いていないか、特定の人に負荷が偏っていないか、相談しにくい雰囲気になっていないか。不調が起きてから対応するより前に、不調が生まれにくい職場をつくることが土台になります。具体的な把握の仕方は職場のストレス要因を把握する方法で解説しています。ストレスチェックも、厚生労働省の指針が未然防止の手段として位置づけているものです(ストレスチェック制度と50人未満の事業場)。

2. 気づき — 変化に早く気づく

遅刻や欠勤が増えた、口数が減ったなど、「いつもとの違い」に早く気づけるかどうかが、その後の対応を大きく左右します。気づいたあとに何をすべきかは、社員の不調に気づいたときの対応フローにまとめています。

3. 相談先の確保 — 抱え込まない仕組み

社内だけで対応しようとすると、経営者や管理職が一人で抱え込むことになりがちです。外部の相談窓口をあらかじめ確保しておくと、「気づいたのに、つなぐ先がない」という事態を避けられます。窓口の選び方はEAP選び方チェックリストを参考にしてください。

4. 休職・復職の対応 — 制度として整えておく

不調が休職につながった場合、休職中の連絡方法や復職の手順があらかじめ決まっているかどうかで、本人の不安も、職場の混乱も変わってきます。詳しくは復職支援の基本に手順を整理しました。

この4つを、日々の現場で担うのが管理職です。管理職がどこまでを担い、どこから専門家につなぐのかという役割の整理は、ラインケアとはで解説しています。

この4つは、厚生労働省の指針が使う「一次予防・二次予防・三次予防」という分け方と重なります。指針は、不調を未然に防ぐことを一次予防、不調を早期に発見して適切な措置を行うことを二次予防、不調となった従業員の職場復帰を支援することを三次予防と呼んでいます。

上の表でいえば、予防が一次、気づきが二次、休職・復職の対応が三次にあたります。相談先の確保は、未然に防ぐ働きと早く見つける働きの両方を持つため、一次と二次にまたがります。ほかの資料でこの言葉を見かけたときは、上の表と重ねて読めます。

取り組みを計画として書いておく

厚生労働省の指針は、メンタルヘルスケアを数年先まで見ながら続けて進めるために、事業者が「心の健康づくり計画」を作ることを求めています。指針は、計画に盛り込むこととして次の7つを挙げています。

  • 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明
  • 事業場における心の健康づくりの体制の整備
  • 事業場における問題点の把握とメンタルヘルスケアの実施
  • メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保と事業場外資源の活用
  • 労働者の健康情報の保護
  • 心の健康づくり計画の実施状況の評価と計画の見直し
  • その他労働者の心の健康づくりに必要な措置

50人以上の事業場では、衛生委員会で調査審議して作ります。衛生委員会を置く義務のない50人未満の事業場についても、指針は従業員の意見が反映されるようにすることが必要だとしています。

7つ並ぶと大がかりに見えますが、数人から数十人の会社では中身が重なります。「体制の整備」と「人材の確保と事業場外資源の活用」は、社内に専門スタッフを置けない規模では「どの外部窓口と契約するか」という一つの答えになります。「健康情報の保護」も、誰が相談内容を見てよいのかを決めて書いておけば足ります。指針は計画の分量や形式までは定めていません。上の項目について自社では誰が何をするのかを書いて共有しておけば、担当者が代わったときの引き継ぎにもなります。

50人未満の会社が押さえておくこと

産業医の選任義務は「常時50人以上の労働者を使用する事業場」が基準です(労働安全衛生法第13条、同法施行令第5条)。50人未満の会社に選任義務がないのは事実ですが、これは対策をしなくていいという意味ではありません。義務の有無にかかわらず、安全配慮義務は従業員が1人でもいれば発生します。

50人未満の会社が使える公的な支援として、地域産業保健センターがあります。労働者数50人未満の事業場の事業者・労働者を対象に、健康相談や面接指導などを原則無料で提供しています。社内に産業保健の専門スタッフがいない会社にとって、外部とのつながりを補う現実的な手段になります。

担い手についても、指針は50人未満の事業場向けの道筋を示しています。産業保健のスタッフを確保できない場合は、衛生推進者または安全衛生推進者を事業場内メンタルヘルス推進担当者として選任することが望ましい、というものです。あわせて、地域産業保健センター等の力を借りながら、セルフケアとラインケアを中心に、実施できるところから着実に進めることを求めています。

衛生推進者・安全衛生推進者は、常時10人以上50人未満の事業場に選任の義務があります(労働安全衛生法第12条の2、労働安全衛生規則第12条の2)。すでに選任している会社は、その人にメンタルヘルスの担当を兼ねてもらう形になります。ただし指針は、解雇・昇進・異動について直接の権限を持つ人を推進担当者にすることは適当でないとしています。従業員の心の健康に関する個人情報を扱う立場だからです。社長ひとりの会社や、任せられる人がいない規模では、外部の相談窓口を担当の代わりに置くことになります。

もう一つの特徴は、管理職が社長自身であることが多い点です。距離が近いぶん変化には気づきやすい一方、気づいたあとの相談対応まで一人で担うことになりがちです。だからこそ、社長自身が使える相談先も含めて、外部の窓口をあらかじめ確保しておくことが現実的な備えになります(詳しくはラインケアとは)。

何から始めるか

4つの取り組みをすべて同時に整えるのは難しいものです。優先順位に迷ったら、次の順で考えてください。

  1. 気づいたら動く仕組みをつくる(気づき)。特別な制度がなくても、「様子がおかしいと感じたら、まず声をかける」という共通認識があるだけで土台になります。声のかけ方や聴き方は、ラインケア研修で管理職に周知・教育できます
  2. 相談先を確保する(相談先の確保)。社内で抱え込む前に、つなぎ先を用意しておきます
  3. 休職・復職のルールを事前に決めておく(休職・復職の対応)。実際に休職者が出てから考えるのでは遅れます
  4. 職場そのものを見直していく(予防)。長時間労働や特定の人への負荷の偏りなど、不調が生まれにくい職場づくりには時間がかかります。まず1〜3で「起きたときに対応できる仕組み」を整えたうえで、並行して取り組んでいきます

完璧な体制を最初から目指す必要はありません。「気づいたら、つなぐ先がある」という状態を先につくることが、費用をかけずに始められる一歩になります。

※ 出典: 労働契約法第5条、労働安全衛生法第12条の2・第13条、労働安全衛生規則第12条の2、労働安全衛生法施行令第5条(いずれもe-Gov法令検索による)。労働安全衛生法第18条・同法施行令第9条(衛生委員会の設置)。厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日 健康保持増進のための指針公示第3号、平成27年11月30日 同第6号により改正)の2「メンタルヘルスケアの基本的考え方」・3「衛生委員会等における調査審議」・4「心の健康づくり計画」・5「4つのメンタルヘルスケアの推進」・9「小規模事業場におけるメンタルヘルスケアの取組の留意事項」。地域産業保健センターの対象と無料での提供は厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」による。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

貴社の状況に合わせてご相談ください

このガイドの内容を貴社でどう実践するか、東京メンタルヘルスの専門家がご相談に応じます。