更年期の不調について、会社に課された法律上の義務はありません。妊娠・出産のように、何をいつすればよいかが決まっているわけでもありません。それでも、体調がつらいという申し出があれば、会社は何かを決めることになります。
手がかりはあります。厚生労働省が事業者向けのマニュアルで、相談を受けたときの進め方と、症状に応じた配慮の例を示しています。
更年期に起きること
更年期の不調は、女性にも男性にも起きます。ただし、時期のつかみやすさが違います。
日本産科婦人科学会の定義では、閉経の前の5年と後の5年、合わせて10年間が更年期です。日本人女性の平均閉経年齢が50歳前後のため、おおむね45歳から55歳ごろにあたります。この間の心身の不調を更年期症状といい、日常生活に支障が出るほど強いものを更年期障害といいます。厚生労働省は主な原因を、女性ホルモン(エストロゲン)が急に減ることと、それによって起きる自律神経の乱れだとしています。
男性の更年期には、始まりと終わりを分ける出来事がありません。厚生労働省は、おおむね40歳以降に男性ホルモン(テストステロン)が減ることで似た症状が出るとしたうえで、その仕組みは複雑でまだ十分にはわかっていないとも書いています。
症状は重なります。汗やのぼせ、眠れない、いらいらする、気分が落ち込む、疲れが取れないといった訴えは、男女どちらのチェック表にも入っています。出方が人によって大きく違うのも同じです。厚生労働省は事業者向けのマニュアルで、女性の更年期障害の症状は200種類以上とも言われ、個人差が非常に大きいとしています。40代・50代の全員に配慮が要るわけではありません。年齢だけを見て一律に扱う対応は、この点で的を外します。
職場から見えにくい理由
そもそも医療につながっていないことが多い、という事情があります。厚生労働省の意識調査では、更年期症状があると答えた人のうち受診していない人が、女性で8割前後、男性で8割半ばを占めました。職場で見えているのは、診断のついた状態よりも、本人が「もしかしたら」と思いながら過ごしている状態のほうが多いということになります。
症状の見分けにくさも重なります。気分の落ち込み、意欲の低下、いらいら、不眠は、更年期症状であると同時にメンタルヘルスの不調としても出てきます。厚生労働省は、更年期障害には甲状腺など他の臓器の異常が伴うこともあるとしています。
だからこそ、職場が「更年期でしょう」と決めてしまうと2つの問題が起きます。年齢と性別で原因を言い当てられると、体調の話を持ち出すこと自体が気まずくなること。そして、更年期という説明で納得してしまうと、別の病気の発見が遅れることです。原因を先回りして決めつける言葉は、本人を身構えさせます。この点は社員の不調に気づいたときの対応フローでも扱っています。職場の役割は、変化に気づいて受診や相談につなぐところまでです。
男性の更年期は、さらに見えにくい
受診の目安に達している人の割合は、男女で大きく変わりません。厚生労働省の意識調査では、男性更年期障害質問票(AMSスコア)で中等度以上だった男性が40代で18.1%、50代で20.7%。女性の簡略更年期指数(SMIスコア)で医師の診察を受けたほうがよいとされる51点以上は、40代で17.7%、50代で20.0%でした。どちらも受診をすすめる目安であって、それ自体が診断ではありません。測り方が違うので並べて比べることはできませんが、2割前後という水準は共通しています。
ところが、実際に医療機関で更年期障害として扱われている割合になると、男女の差は大きく開きます。
別々の調査ですが、受診の目安では2割前後で並ぶ一方、医療にかかっている割合には20倍以上、最も高い年齢層どうしでは30倍以上の差があります。自分の状態を更年期と結びつけていない人が多いことも関わっていそうです。男性にも更年期の不調があることを「よく知っている」と答えた男性は40代で10.1%、50代で15.7%。女性が自分たちの更年期について答えた割合(40代38.1%、50代49.5%)とは開きがあります。
厚生労働省の検討会も、この見分けにくさを論点にしました。健康診断の検査項目を話し合った場で、男性の更年期障害も健康診断に入れてはどうか、という意見が出ています。報告書はその意見を記したうえで、加えるという結論には至っていません。挙がった理由には、男性の更年期障害は病気としての線引きがはっきりしないこと、気分や不安といった心の状態が前に出やすく他の不調と見分けにくいため健康診断の問診でふるい分けるのが難しいこと、があります。
この見分けにくさは、職場での見え方にそのまま重なります。健康保険の診療データを使った先ほどの研究で、男性で更年期障害として扱われた747人が同時に抱えていた病気を見ると、睡眠の障害が29%、不安やストレスに関わる障害が24%、気分の障害が23%でした。少なくとも診断のついた人については、職場に届く訴えの多くが「眠れない」「気分が晴れない」「不安が強い」になります。メンタルヘルスの不調と見分けがつきません。
法律が定めていること、定めていないこと
更年期については、妊娠・出産にあたる法律上の義務がありません。
| 制度 | 更年期との関係 |
|---|---|
| 母性健康管理措置(男女雇用機会均等法第12条・第13条) | 妊娠中・出産後1年以内の女性が対象。更年期は入らない |
| 生理休暇(労働基準法第68条) | 生理日の就業が著しく困難な場合の休暇。更年期の不調には使えない |
| 定期健康診断(労働安全衛生規則第44条) | 検査項目は血圧・血液・尿・胸部エックス線など。更年期を見つける項目はない |
| 女性特有の健康課題に関する問診 | 厚生労働省が事業者に勧めている任意の取り組み。答えた内容は会社に渡らない |
| 健康診断のあとの措置(労働安全衛生法第66条の5) | 医師の意見を聞いたうえで働き方を調整する。病名でも性別でも対象を絞っていない |
| 安全配慮義務(労働契約法第5条) | 病名でも性別でも対象を絞っていない。不調を知りながら何も調整しなければ、責任を問われることがある |
| 傷病手当金(健康保険法第99条) | 療養のため働けない場合が対象。病名でも性別でも対象を絞っていない |
妊娠なら、動き出すきっかけが法律に書かれています。本人の請求と、医師の指導です(妊娠中の従業員への配慮)。更年期には、この入口がありません。女性の健康課題についての問診も、答えた内容が健診機関から会社に渡ることはなく、困っていると答えた人に医師が受診をすすめる仕組みです。会社が状況を知る手立ては、本人が話すこと以外にほとんどありません。
たしかに、更年期を名前で挙げた職場向けの仕組みは、女性を対象に組まれています。この問診も、元になった事業者向けマニュアルも、対象は女性の健康課題です。男性の更年期障害は、検討はされたものの結論に至っていません。
ただし、男性への配慮が枠の外にあるという意味ではありません。健康診断のあとの措置、安全配慮義務、傷病手当金は、いずれも病名でも性別でも対象を絞っていないためです。安全配慮義務が問われるのは「気づけたのに配慮しなかった」ときで、これは更年期でも男女どちらでも変わりません。厚生労働省の事業者向けパンフレットも、性別を問わず、その人の年代に応じた理解と支えが要るとしています。男性の更年期障害もあわせて知らせておけば、更年期を「個人の問題」ではなく「職場全体の健康課題」として受け止めやすくなる、とも書いています。
相談を受けたときの進め方
厚生労働省の事業者向けマニュアルは、相談があったときの進め方を段階に分けています。マニュアル自体は女性の健康課題を対象に書かれていますが、この手順に性別で変わる部分はありません。
相談を受けてから配慮を決めるまで
1. 相談を受ける
まず聴く。一人で抱えず、本人の同意を得て人事と共有する
2. 受診をすすめる
まだ受診していなければ、本人の希望を聞きながらすすめる
3. 支障と希望を聞く
診断名ではなく、どの仕事にどう支障が出ているかと、希望する配慮
4. 配慮を決める
本人と話し合い、双方が納得できる形にしてから始める
5. 見直す
1か月後・3か月後などに面談し、効き目と新しい支障を確かめる
押さえたいのは3の聞き方です。厚生労働省は、診断名や治療の中身が必ずしも要るわけではないとしています。必要なのは、症状によってどんな配慮がいるのかという、医学の面から見た情報のほうだという整理です。会社が知る必要があるのは、どの作業がいつ、どのくらいつらいのかです。本人がその場で希望を言えないことも多いため、配慮の例をいくつか示して選んでもらう方法も挙げられています。
配置転換には注意が要ります。本人の意向を踏まえない配置転換は不利益な取扱いとみなされる可能性がある、というのが厚生労働省の整理です。まずは今の職場で働き続けられるよう、仕事の量や休憩の取り方から順に考えるのがよい、としています。担当を替えるかどうかは、環境を調整しても難しいと分かってから決めます。
症状に応じた配慮
同じマニュアルに、症状ごとの配慮の例が挙げられています。女性の健康課題を対象にした資料ですが、症状に応じて仕事を調整するという考え方に性別で変わる部分はありません。
| 困っていること | 職場でできる調整 |
|---|---|
| ほてり、のぼせ、汗 | 空調を変えやすくする、席を移す、卓上の扇風機やひざ掛けを認める、服装の決まりをゆるめる、水分補給や短い離席を認める |
| 頭痛、腰痛などの痛み | 休憩の時間や回数を柔軟にする、体への負担が大きい作業を一時的に軽くする |
| めまい、立ちくらみ、だるさ | 高いところでの作業や機械の操作など危ない作業を一時的に外す、移動の多い仕事を減らす、在宅勤務を使う |
| 集中力・記憶力の低下 | 手順書やチェックリストを整える、指示を分けて出す、こみ入った判断が要る仕事を一時的に軽くする、口で伝えた内容を文書でも残す |
| 気分の落ち込み、不安、いらいら | 高圧的な言い方を避ける、評価を伝えるときは1対1にする、人と向き合う負担の大きい仕事を一時的に減らす、相談窓口をすすめる |
働き方そのものを変える方法もあります。仕事の量を一時的に8割程度まで減らす、締め切りの短い仕事の担当を外す、症状の重い日の午後出社や早退を認める、といったものです。いずれも期限を区切って始め、見直す時期を決めておきます。誰かの仕事が軽くなれば、その分を誰かが引き受けます。しわ寄せが偏らないよう割り振り直すことと、なぜこの調整をしているのかを周りにも伝えること。この2つがあるかどうかで、配慮の続けやすさは変わってきます(育児・介護と仕事の両立を支える、上司・同僚にできること)。
50人未満の会社では、どこから手をつけるか
産業医を選ぶ義務がなく、人事の専任担当もいない会社では、制度を一から作るより、すでにあるものを使えるようにしておくほうが早く動けます。
- 休める形を用意しておく。更年期の不調に使える専用の法定休暇はありません(生理休暇は生理日が対象です)。会社が独自に設ける病気休暇のほか、労使協定を結べば年次有給休暇を1時間単位で取れます(年5日まで)。通院のためだけに1日休むのは負担が大きく、時間単位で使えると実際に使われやすくなります
- 働き方の選べる幅を決めておく。時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、フレックスタイム制のうち、自社で運用できるものを相談が来る前に決めておきます。受けてから考え始めると、本人が待つことになります
- 社外の相談先を持っておく。体調のことを直属の上司に話すのは簡単ではありません。厚生労働省も、人事、産業保健スタッフ、外部のEAP(従業員支援プログラム)など複数の窓口から選べるようにすることを挙げています(外部カウンセリングとは)
- 制度は男女ともに使える形にしておく。厚生労働省の両立支援等助成金には、更年期の不調への対応と仕事の両立を支える制度を整えた中小企業向けのコースがあります。支給要領が求める最低の条件は、少なくとも女性が使えることです。そのうえで、すべての労働者が使える制度が望ましく、その形でも支給の対象になるとしています。Q&Aでも、男性の労働者が休暇制度などを使った場合は申請の対象になる、と書かれています
休職が必要になるほど症状が重い場合の扱いは、仕事が原因ではない他の病気やけが(私傷病)と同じです。休職の制度に法律上の定めはなく、就業規則に規定がなければ休職を命じる根拠もありません(休職は法律で決まっていない)。
更年期の不調は、いつまでも同じ強さで続くとは限りません。強く出ている間に辞めるか、働き方を調整して続けるかは、本人の気力だけで決まるものではありません。症状ではなく仕事への支障を聞き、期限を決めて調整し、様子を見て見直す。この手順があるだけで、働き続けられる余地は変わってきます。
※ 出典: 労働基準法第68条、労働安全衛生法第66条の5、労働安全衛生規則第44条、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第12条・第13条、労働契約法第5条、健康保険法第99条(いずれもe-Gov法令検索による)。厚生労働省「女性特有の健康課題に関する問診を活用した女性の健康管理支援実施マニュアル ~事業者向け~」(令和8年1月)。厚生労働省「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会 報告書」(令和7年12月24日公表)。厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査(結果概要)」(令和4年3月実施。全国の20歳から64歳の女性2,975人・男性2,025人を対象としたインターネット調査で、回答者本人の主観に基づく更年期症状を集計したもの。簡略更年期指数・男性更年期障害質問票はいずれも受診の目安を示すもので、診断そのものではない)。医療機関の受診状況と併存疾患(神経症性障害・ストレス関連障害及び身体表現性障害を含む)は藤野善久ほか「レセプトデータを用いた日本における男女の更年期障害の受診状況調査」(令和4年度厚生労働科学研究費補助金〔女性の健康の包括的支援政策研究事業〕分担研究報告書)。厚生労働省「職場で取り組む 働く女性の健康支援」(働く女性の心とからだの応援サイト、2025年10月)。両立支援等助成金の要件は厚生労働省「両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)支給要領」(令和8年4月1日)および同Q&A(2026年度版)。更年期の定義は公益社団法人日本産科婦人科学会「更年期障害」による。本ガイドは一般的な解説であり、個別の判断は産業医・社会保険労務士等にご相談ください。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。