相談窓口やEAP(従業員支援プログラム)の導入を決め、事業者の資料を集めはじめても、次に何をすればいいのかが分かりにくいものです。範囲の洗い出しから契約、社内周知まで、進め方には一定の順序があります。このガイドでは、検討を始めてから従業員が実際に使い始めるまでを、5つのステップに分けて整理します。
相談窓口・EAP導入の5ステップ
1. 範囲の洗い出し
何をどこまで求めるか決める
2. 事業者比較
同じ基準で見積もりを並べる
3. 社内の意思決定
決裁に必要な材料をそろえる
4. 契約・準備
運用のすり合わせをする
5. 社内周知
使われる状態を保つ
1. 自社に必要な範囲を洗い出す — 比較の前に、何を求めるかを決める
事業者の比較を始める前に、自社が何を求めているかを社内で決めておくと、その後の検討がぶれません。まず対応範囲です。従業員からの相談対応だけでよいのか、管理職への助言や研修、緊急時の危機対応まで含めたいのか。範囲によって事業者の選択肢も価格も変わります(EAPにはどんな種類があるか)。
次に、誰が使えるようにするかです。全従業員を対象にするのは前提として、管理職が部下対応で迷ったときに個別に相談できる仕組みまで欲しいのか、従業員の家族も対象に含めるのか。ここも事業者によって対応が分かれます。
あわせて、法令対応との関係も見ておきます。ハラスメント相談窓口の設置は企業規模を問わず事業主の義務です(2022年4月〜。ハラスメント相談窓口の設置義務)。ストレスチェックも50人未満の事業場に義務化されます(施行日は2028年4月1日に確定。50人未満の事業場とストレスチェック制度の基本)。これらの義務にどこまで使えるかは事業者によって差があるため、期待する役割をあらかじめ言葉にしておくと、次の比較検討で的確な質問ができます。
2. 事業者を比較する — 2〜3社の見積もりを、同じ基準で並べる
求める範囲が固まったら、複数の事業者から資料と見積もりを取ります。1社だけで決めると、料金や対応範囲の相場感がつかめないまま契約することになりやすいため、2〜3社程度は比較したいところです。
比較する際の具体的な確認項目は、中小企業の相談窓口・EAPの選び方チェックリストの10項目にまとめています。料金体系の考え方は相談窓口・EAPにかかる費用、費用に見合う効果があるかどうかの考え方は相談窓口・EAP導入のメリットと費用対効果の考え方を参照してください。
資料の内容だけでなく、問い合わせへの回答の速さや説明の丁寧さも見ておく価値があります。契約前のやり取りが丁寧なら、契約後に何かあったときの対応も期待できます。
3. 社内の意思決定を進める — 決裁に必要な材料をそろえる
従業員数が少ない会社では、経営者の判断だけで決まることもあれば、複数名の決裁が必要になることもあります。後者の場合は、比較した事業者の資料・見積もり・自社が期待する効果をまとめておくと、話が進みやすくなります。
決裁の場でよく出るのが「本当に必要なのか」という疑問です。何も対策をしない場合にすでに発生している採用コストや、離職率の高さがもたらす損失と、導入にかかる費用を比べる考え方は、相談窓口・EAP導入のメリットと費用対効果の考え方にまとめています。判断材料として示すと、費用だけの議論になりにくくなります。
4. 契約し、導入準備を整える — 運用に関わる4点をすり合わせる
契約する事業者が決まったら、実際にどう使うかに関わる点を事前にすり合わせておきます。
- 利用開始日は、社内周知のタイミングと合わせて決めます。周知の準備ができていないうちに利用が始まると、問い合わせが窓口担当者に集中することがあります
- 従業員情報の共有範囲は、氏名・メールアドレスなど、どの情報をどこまで事業者に渡すか事前に確認します
- 社内の窓口担当者は、事業者とのやり取りをする人を決めます。複数名で分担する場合も、代表者は1人に絞っておくと連絡が入り乱れません
- 緊急連絡体制は、自殺リスクなど生命に関わる緊急時に、事業者からどのように連絡が来るか、誰が受けるかを確認しておきます
これらは契約書や利用規約に明記されていないこともあるため、契約前の打ち合わせで直接確認しておくと、導入後に慌てずに済みます。
5. 社内周知して、使われる状態を保つ — 契約はゴールではない
契約が済んでも、従業員に知られていなければ窓口は使われません。周知文のひな形は相談窓口の社内周知文テンプレートにまとめています。契約前から周知文の準備を並行して進めておくと、契約が決まってすぐに案内でき、利用開始日までの空白が生まれません。
周知は導入時の一度で終わらせず、定期的なリマインドを続けます。四半期に1回程度の再案内が目安です(相談窓口の社内周知文テンプレート「周知を続けるための運用ポイント」)。あわせて、事業者から届く利用状況のレポートに定期的に目を通すことも、周知が届いているかどうかを確かめる手がかりになります。
導入は範囲の洗い出しから始まり、契約や社内周知まで複数の段階を経て進みます。段階ごとに何を決め、何を確認するかをあらかじめ整理しておくことで、導入後に「思っていたものと違った」という行き違いを防ぎやすくなります。
※ 出典: ハラスメント相談窓口の設置義務(2022年4月〜)は労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)による。ストレスチェックの50人未満事業場への義務化(施行日2028年4月1日)は2025年5月公布の改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号。施行日は2026年6月10日公布の政令〔令和8年政令第195号〕により確定)による。
※ 江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。