EAP・相談窓口

50人未満の会社のメンタルヘルス対策 — 何から始めればいいか

50人未満の会社が、メンタルヘルス対策を何から始めればいいか。会社にすでに発生している義務、無料で使える公的な支援、そして着手する順序をまとめました。

江原 和比己(東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー)

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この記事の要点

  • 会社の規模を問わず、安全配慮義務とハラスメント相談窓口の設置義務はすでに発生している。ストレスチェックは現在努力義務で、2028年4月1日から義務化される
  • 地域産業保健センターとこころの耳は、費用をかけずに使える公的な支援。こころの耳は今日から一人で使える
  • 外部の相談先を一つ確保すると、ハラスメント窓口義務・支援の相談先確保・ラインケアの社外の相談先を同時に満たす土台になる
  • 着手順は、義務の確認→相談先の確保→気づく仕組み→休職復職ルール、の順が現実的

従業員の様子が気になっていても、何から手をつければいいのか分からず、時間だけが過ぎていく。厚生労働省の調査では、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、事業所の規模が小さいほど下がります。

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合(事業所規模別)

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合(事業所規模別)
事業所規模割合
50人以上94.3%
30〜49人69.1%
10〜29人55.3%

(厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」, 2025年)

このガイドでは、50人未満の会社が実際に何を、どの順で進めればいいかをまとめます。個別の施策について詳しくは、本文中のリンク先の記事で説明しています。統計の全体像は日本の職場メンタルヘルスに関する統計にまとめています。

会社にすでに発生している義務、これから発生する義務

メンタルヘルス対策を考えるとき、最初に押さえておきたいのが、法律で決まっていることです。会社の規模にかかわらず発生している義務が2つ、規模によって扱いが変わる義務が1つあります。

項目 現在の扱い 規模による違い
安全配慮義務 雇用契約を結んだ時点で発生 ない。従業員が1人でも対象
ハラスメント相談窓口の設置 2022年4月から義務 ない。数名の会社でも対象
ストレスチェックの実施 50人未満は努力義務。2028年4月1日から義務化 50人未満は施行日まで努力義務

安全配慮義務は、会社が従業員の生命・身体の安全と健康に配慮する法律上の義務です(労働契約法第5条)。メンタルヘルスも対象に含まれることは判例で確立しています。詳しい内容は安全配慮義務とはにまとめました。

ハラスメント相談窓口の設置は、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)による義務です。従業員数による除外はなく、まだ窓口を決めていない場合は、他の取り組みより先に対応が必要です。中身はハラスメント相談窓口の設置義務で解説しています。

ストレスチェックは、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、2028年4月1日から50人未満の事業場にも実施が義務づけられることが決まりました。制度の仕組みはストレスチェック制度と50人未満の事業場にまとめています。

このほか、産業医の選任義務は常時50人以上の事業場が基準です(労働安全衛生法第13条)。50人未満の会社には発生しませんが、義務がないことは対策をしなくていいという意味ではありません。

お金をかけずに使える公的な支援

「予算がない」という壁は、多くの会社が最初にぶつかるところです。費用をかけなくても使える公的な支援は、すでに用意されています。

地域産業保健センターは、国が設置した支援機関です。対象は労働者数50人未満の事業場です。健康相談や、長時間労働者・高ストレス者への医師による面接指導、個別訪問による産業保健指導などを、原則無料で受けられます。事前の申し込みが必要で利用回数にも限りがありますが、産業医のいない会社が外部とつながる現実的な手段になります。長時間労働者への面接指導としてどう使えるかは長時間労働者への面接指導とは、ストレスチェック後の面接指導としてどう使えるかはストレスチェック制度と50人未満の事業場にまとめています。

こころの耳は、働く人のためのメンタルヘルス・ポータルサイトです。厚生労働省の委託事業として運営されています。ストレスや疲労の蓄積度を自分で確かめられるセルフチェックのほか、電話・メール・SNSでの相談窓口の情報を無料で提供しています。地域産業保健センターが予約制の対面支援であるのに対し、こころの耳は従業員が今日から一人で使える点が違います。存在を知らせるだけでも、一つの対策になります。

義務ではないが、実際には必要になる取り組み

義務ではなくても、多くの会社が実際に取り組むことになるものがあります。相談先の確保、変化への気づき、休職・復職のルールづくり、そして不調が生まれにくい職場づくりの4つです。この4つの中身と優先順位は従業員のメンタルヘルスを支援する基本にまとめました。管理職が日常的に担う気づきと対応はラインケアとは、休職者が戻るときの手順は復職支援の基本にまとめています。

費用に見合う効果があるのか迷う場合は、かけた費用に対して何倍になって返ってくるかで考えるより、何も手を打たない場合にすでに発生している損(採用コストや離職)と比べる考え方が参考になります。詳しくは相談窓口・EAP導入のメリットと費用対効果の考え方にまとめています。

何から着手するか

義務と任意の取り組みを一つにまとめると、着手する順序が見えてきます。すべてを同時に整える必要はありません。

着手の4ステップ

1. 義務の確認

未対応があれば最優先

2. 相談先の確保

複数の役割を同時に満たす土台

3. 気づく仕組み

つなぐ人を決めておく

4. 休職復職ルール

起きる前に決めておく

  1. 義務を確認する(義務の確認)。安全配慮義務はすでに発生しています。ハラスメント相談窓口が未設置なら、他の何より先に対応します
  2. 相談先を一つ確保する(相談先の確保)。外部の相談窓口やEAPを一つ契約すると、ハラスメント相談窓口の設置義務、支援の4本柱でいう相談先の確保、ラインケアが頼る社外の相談先の3つを同時に満たす土台になります。ただし義務が自動的に完了するわけではなく、何が会社に残るかは契約前に確認します(選び方チェックリスト)。決めてから使われる状態にするまでの進め方は導入の5つのステップにまとめました
  3. 気づく仕組みを整える(気づき)。相談先ができても、気づいた人がつながなければ意味がありません。声のかけ方や対応の流れは社員の不調に気づいたときの対応フローにまとめています
  4. 休職・復職のルールを決めておく(休職・復職の対応)。実際に休職者が出てから考えるのでは遅れます。事前に決めておくことで、本人の不安も職場の混乱も小さくなります

すべてを一度に整える必要はありません。まず義務を確認し、次に相談先を一つ確保する。この2つが決まれば、残りは無理のない範囲で進めていけます。

※ 出典: 労働契約法第5条、労働安全衛生法第13条、労働安全衛生法施行令第5条(いずれもe-Gov法令検索による)。ハラスメント相談窓口の設置義務(2022年4月〜)は労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)による。ストレスチェックの50人未満事業場への義務化(施行日2028年4月1日)は2025年5月公布の改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号。施行日は2026年6月10日公布の政令〔令和8年政令第195号〕により確定)による。地域産業保健センターの対象・提供サービスは、独立行政法人労働者健康安全機構の各産業保健総合支援センターの案内、および厚生労働省委託事業「こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」内の紹介ページによる。こころの耳の運営主体・提供機能は同サイト「当サイトについて」による(運営: 一般社団法人日本産業カウンセラー協会)。メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合(50人以上94.3%、30〜49人69.1%、10〜29人55.3%)は厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」による(規模別のグラフは日本の職場メンタルヘルスに関する統計で図解している)。

江原 和比己(えはらかずひこ)—— 東京メンタルヘルス株式会社 取締役/産業カウンセラー/日本ブリーフサイコセラピー学会 正会員。IT領域で約25年のキャリアを経て産業カウンセラーに転身。AIを活用したメンタルヘルス支援の社会実装に取り組む。

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